第18話 決起

 私は今、実家の自室で、いくつか持ち込んだドレスのうち、ピンクのグラデーションの愛らしいドレスを侍女に着付けてもらっている。

 だって、人間の披露会で幼女が真っ黒なドレス着ていたら、違和感あるじゃない?


「実に見事な、そして、愛らしい姫をさらに可愛らしく見せてくれる、素晴らしい逸品ですねえ」

 そのドレスは、袖はパフスリーブで、両袖にはピンクのリボンが飾られている。

 上半身は白く、スカート部分がシルエットがまぁるくなるほどに重ねられた生地。

 そして、色は、白からピンクへと変わっていくのだ。

 ちょうど、上半身とスカートの部分に、大きなリボンも付いている。


「本当に可愛らしい……」

 昔実家にいた頃に世話をしてくれていた侍女が、着付けが終わった私を見て、うっとりしている。

「次はお髪ですね……。その小さなツノを隠すために、一度ツインテールにまとめてから、それをふわりと巻き上げるアップスタイルにしましょうか」

 侍女が、私の髪を持ち上げて、こんな感じだと見せてくれる。

「うん、ちゃんとかくれりゅし、いいかんじ」

 左右にアップスタイルにした髪には、パールのついたピンや、リボンで飾ってくれた。


「抱きしめたいくらいに、可愛らしいです!」

 出来上がりを見て、侍女が両手を組んで絶賛している。

 確かに、姿見の中の私はまるでお人形のようだわ。


 侍女に抱き上げられて、お父様とお兄様の待つ、居間へ連れて行ってもらった。

「姫様、準備整いました」

 そう言って、侍女が扉を開けて、待っていた三人に私をお披露目する。


「かっ、可愛い……」

「天使だ……」

「なんて愛らしいんだ!」

 侍女に降ろされたと思ったら、そう叫んだお父様に抱き上げられてしまった。

「父上、ずるいです! 私だって、リリスを抱きしめたい!」

「俺だって、リリスを抱っこしたいぞ!」

 先手を取られたお兄様達が、抗議の声を上げる。

 そんな中、カインお兄様が、アスタロトからのお土産のマカロンを一つ手に持って私のそばにやってきた。

「リリス、はい、あーん」


 ーーえ?


「あ、あーん」

 パクリ、と一口マカロンを頬張る。

「あっ! カイン、ずるいぞ!」

「良いじゃないですか、可愛いリリスを、見ていてくださいよ」

 またしても残りを口元に充てがわれるので、パクリ、と口にする。


 ーー兄様達、私は小動物ではありませんよ?


 そんな中、我が家の側近の騎士が、ため息をつく。

「姫が愛らしいのは、よーく分かります。ですが、今日がどんな日か、お分かりで?」

 そう、国中の貴族が集まる中で、勇者の非道を暴露し、独立を宣言する。そのための旅立ちの日だ。


「では、馬車に参ろうか」

 コホン、と、誤魔化すかのように咳をするお父様。

 そして、私たちは、馬車で王都へと向かったのだった。

 ちなみに、小さくなったニーズヘッグはお兄様に抱っこしてもらったわ。


 ◆


 長い旅路を終えて、ようやく王都に辿り着いた。

 流石に、伯というのは伊達じゃない。

 そして、勇者の新メンバーのお披露目会の会場へ案内される。

 だが、『辺境伯の娘の戦死』は、割と広まっているらしく、私たち一行に気づいた貴族は、お悼の言葉をかけに来てくれる人や、ざわざわと、「気丈な方だ」と噂するものもいた。

 そんな中、まさか容姿がそっくりだったとしても、四歳児が、その当人だと思う人間はいなくて、私は、別腹の末娘だろう、というような目で見られていた。


 そして、国王陛下と枢機卿、宰相といった方々が壇上に現れる。

 国王陛下に呼ばれた勇者一行が、下座フロアの中央にある大きな扉から現れる。

 今回に関しては、はじめの壮行会の時と違って、微妙な雰囲気だ。

 大きな歓声が上がるでもなく、むしろ、私たち一家の顔色を伺う人の方が多い。


「さて、今回は、名誉の戦死を遂げた、フォルトナー辺境伯の娘リリスに替わり、勇者一行に新メンバーが加入することになったことを激励する会だ。まずは、フォルトナー辺境伯、こちらへ」

 国王陛下に呼ばれて、お父様が国王陛下の足元へ歩み寄る。

「其方の娘リリスについては、魔獣相手に勇敢に戦った上での戦死と聞く。それを悼んで……」

 そう、国王陛下が言うのを、お父様の声が遮る。


「それは、事実ではない! 我が娘は、あの勇者の風上にもおけぬ者の非道により、殺されそうになったのだ。ここに、それを記録した魔道具がある!」

 そう言うと、お父様はアスタロトから借り受けた水晶玉を掲げて、それを、明るくても見えるよう、高出力で起動する。


 そして、私が、勇者達を庇って背を向けた隙に、背後から胸を剣で突き刺したシーンと。

 それを、嘲笑うように眺める他のメンバーの姿がフロアのどこから見てもわかるように映し出されたのだ。


「な……なんで。誰が……!」

 逃げ出そうとする既存の勇者一行三人に、アベルお兄様が駆け寄り、あっさり追いついて、その足を強く蹴り上げて、足を挫く。

 共についてきた騎士が、三人を縄で捕捉した。


「我が娘は戦死したのではない! この非人道的な勇者を語るもの達によって、殺されかけたのだ! 私は、彼女の父として、フォルトナー辺境伯として、このもの達の身柄の引き渡しを要求する!」

 お父様は高らかに宣言した。

 一気に会場がざわめきだした。

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