第17話 密談

「さて、独立宣言と、勇者共の身柄引渡しの要求……、どこでするか、ですよね」

 すっかりそれが既定路線とでもいうように、カイン兄様が呟く。

 まあ、辺境伯現当主であるお父様が決めたことなら、確かに決定事項に違いないのだろうけれど。


「今すぐにでも宣言して、進軍すればいいじゃないか!」

 安直に発言をするのは、脳筋なアベルお兄様。

「だめだよ、兄さん。少しでも、効果のある方法、そして、国の罪のない一般民にはなるべく被害を出さない。独立戦争のために、国土を荒らしてしまってはいけない。大切なことだよ」

 即座にアベルお兄様の案は、カインお兄様に却下された。


「カインの言うとおり、ただこの地から進軍を始めたのでは、罪のないものにまで被害が及ぶ。それは避けたい。国土が荒れれば、国民は次の年に飢えるものも出るだろう」

 お父様の言葉に、二人のお兄様が頷いた。


「……そう言えば、勇者パーティーの新メンバーの披露目が、王城で予定されていたはずだな」

 ふむ、と呟きながら、思案げにお父様が顎を撫でる。


「すると、王族に枢機卿、勇者達に、他の貴族達も集まると……、そういうことですかね」

 カインお兄様が、何かを思い付いたのか、ニヤリと笑う。


「何か策があるのか、カイン」

 お父様がカイン兄様に顔を向ける。


「そこに、我々も参加して、アスタロト様の記録の水晶をお借りして持ち込み、真実を暴露。勇者共の引き渡し要求と、独立宣言をする。そして、それと同時に、他の貴族にも、その是非を問うてはどうでしょう?」

「その……、他の貴族だが、協力は得られそうなのか?」

 アベル兄様が首を捻る。


「サモン、僕の可愛い小鳥達」

 すると、カイン兄様の周りに、無数の小鳥達が姿を見せる。

「みんな、王様のことどう言ってた?」

 すると、小鳥達が我先にと報告しだす。

「重税ありえないって〜」

「勇者に村の大事な食料強奪されたって怒ってた〜」

「勇者がツボを割ったり、箪笥の中まで荒らすんだって〜」

「勇者が領主の城の宝箱を勝手に開けて持っていったらしいよ〜」

「王様が止めないから、教会が好き勝手に税をあげて困るって〜」

「王様も枢機卿も、愛人のおねだりのために税上げるのやめろだって〜」


 ーー国王陛下も勇者もかなり嫌われていない?(汗)


「いっそ仕掛けてみる価値は、ありか」

 お父様が小鳥達の声から、勝機ありと判断したのだろうか?

「それに、他の貴族を取り込むことはできなくとも、我が領だけでも十分な力はある。それと、リリスのことをご縁に、魔族の方々は中立してくださることですし……」

 カイン兄様が、チラリとアスタロトを見る。

 すると、その視線を感じたアスタロトが、にっこりと妖艶で極上の笑みを浮かべるのだった。


「そう、ですわねえ……。貴族達が気にするのは、王都に住む家族の安全が保証されるか、ではなくて?」

 そう、人間の国では、領地持ちの貴族だと、家族が王都や領土の都合の良い方にそれぞれ住んでいたりする。

 仮に、王都に家族が住んでいた場合、彼らを逃すのが遅れれば、人質とされて、自由に身動きが取れなくなるかもしれないのだ。


「飛竜隊をお貸ししましょう。そうすれば、大勢の人間を、王都からそれぞれの領地へと逃すことが可能でしょう。それと、ニーズヘッグもいれば、退避は十分かと」

 足を組み直したアスタロトが、にこりと笑う。

 お父様達は、彼女の色気に当てられながらも、そのもっともな懸念事項と、それの対処を引き受けてくれるという言葉は、とても、心強く感じたのだろう。


「アスタロト殿、かたじけない! 素晴らしいお申し出、感謝いたしますぞ!」

 お父様が、この場に便乗して、アスタロトの手を握っていた……。


「リリス。あなたは、この城にとどまって、お父様方と一緒にいなさい。久しぶりの家族団欒も必要だわ。そして、ツノが見えない髪型にして、何食わぬ顔でお披露目会に一緒に行くといいわ。きっと、事情を知らなければ、妹か親族だと思うでしょう」

「うん、わかった」

 アスタロトの言葉に、私は素直に頷いた。

「アスタロトは、どうしゅるの?」

「私は、一度魔王陛下にご報告しないとならないし、体制を整えるために向こうに帰るわ」

 うん、彼女は一度帰るらしい。


「飛竜達は、場が混乱している頃合いを見計らって、そちらの国土に着くようにしましょう。ああ、そうね。一般的に人は『魔族は恐ろしいもの』と教わっているから、そこは問題ないんだということを皆様にお伝えしておいてくださる? でないと、救助作業に支障が出ますから」

 今度は、アスタロトが、お父様に依頼ごとをする。

「分かりました、そのように、皆に伝えましょう」


 そして、両者は握手を交わしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る