第16話 そして明らかにされる真実
客間のソファに、全員で腰を下ろした。
お父様達が並んで三人、その反対に私達が座っている。
そして、土産にと持ってきた品を、アスタロトがテーブルの上に並べる。
「これは、魔族領特産の宝石、布地、そして、おそらく人間の国ではないであろう、珍しい菓子などを、ご挨拶がわりの贈り物として持ってまいりました」
アスタロトが、そう口火を切って、テーブルの上の品を、お父様とお兄様達に確認してもらう。
「いやいや、これはわざわざご丁寧に……。娘の身柄を預かっていただいた上に、こんな高価で素晴らしい手土産まで……、痛み入ります」
そこで、お父様がお茶を持ってきた侍女に、手土産の菓子を指差し、この場に添えるよう命じた。
「そして、本題ですわ、辺境伯閣下。皆様方は、リリス姫に起こった、真実をお知りになりたい、そうですわね?」
にっこりと、赤い唇に弧を描かせながら、一つの水晶玉を取り出す。
「そうです! 国からは、『魔獣に襲われ森に連れ込まれ助ける術もなかった』などという、にわかに信じがたい説明しかないのです!」
お父様たちが、そう言って憤慨していた。
ーーえ。流石にそんなことで死んだりしないんだけれど、私。
「わたち、しょんなに、よわくないわ!」
ぷんぷんと憤慨する。
むしろ、そんな失態をするとしたら、私以外の他のメンバーだろう。補填に入れられたものの、弱すぎる上に傲慢、努力もしないしで、頭が痛かった。
「知っているわよ。この水晶はね。魔道具の一種で、映像を記録できるの」
ふふ、とアスタロトが笑う。そして、言葉を続ける。
「私、あなた達の諍いを見ていた。……どういうことか、わかるかしら?」
にっこり笑って、アスタロトが私の頬を撫でる。
「しょーこ、ありゅ?」
私がそういうと、「よくできました」とでも言わんばかりに、頭を撫でられた。
「諍いとは……」
カインお兄様が、新たに出てきた事実に、目を瞬かせる。
「まずは、記録をご覧に入れましょう」
侍女に、部屋のカーテンを全て閉めてもらう。
そして、水晶を起動すると、宙に、平面上の映像が展開された。
魔獣に襲われ、私が先頭に立って、防御障壁を展開する。
「守りは任せて! 貴方達はあれを倒して!」
その指示通りに、ハヤト達が魔獣を倒す。
そして、ホッとしたその瞬間、私は、背後に回ったハヤトに、胸を剣で突かれたのだ。
そんな一部始終が記録されていた。
バン!
それを見たお父様達三人が、怒りのあまり悪鬼かと思うぐらいに怖い形相で、テーブルを叩きつけて立ち上がる。
「……これはどういうことだ」
お父様の声が怒りのあまりに震えている。
「世話になっておきながら、勇者がリリスを殺めようとした?」
アベル兄様のこめかみに浮かんだ青筋がすごい。
「ねえ。このクズ勇者殺してきてもいいかな?」
冷静に呟くカインお兄様。
「まあ、落ち着いてください。この、先の映像の通り、お嬢様は自力で英霊を呼び、回復なさいました。ですが、流した血が多く、気を失ってしまいました。そのままでは危険ですから、私が、魔王城へと身柄をお預かりしたのです」
アスタロトが、その後、私が魔王城にいる理由を説明した。
勇者達の虚偽の報告によって、あの国に居場所がないであろうことや、実家へ降りかかる迷惑などを考えて、魔族となることを決意したこと。
ーー手違いで、幼女化したことは謝罪していた。
ただし、見た目こそ幼女なものの、魔族となったことにより、さらに強くなっていること、その結果、魔族領を煩わせていた古竜を退治しに行き、退治どころか眷属にしてしまったことなどを、アスタロトが説明してくれた。
「……父上」
冷静そうに見えて一番怖いカインお兄様が口を開く。
「どうした、カイン」
「勇者共は、私の全力を尽くして捕まえます。ですが、元はといえば、国王と枢機卿がこの国の財政状態も鑑みず、『勇者召喚』『魔王討伐』などと、意味もない愚行を始めたことが原因ですよね」
カイン兄様は淡々と呟く。
「そもそも、あの愚王と枢機卿の過剰な徴税など、そもそも、我が領民も苦しんでおります」
「ああ、その通りだ!」
カイン兄様に同調するように、アベル兄様が、バン! とテーブルを叩いた。
「そして、我が領地の戦士達は、平和に慣れ切った国王軍など、相手にもならないぐらいに強い」
ーーえっと、なんだか、話が大ごとに……。
「父上」
「うむ」
「いっそ、独立しませんか? 可愛いリリスにされたことも考えれば、私は我慢の限界です」
カインお兄様が、結論を述べた。
それは、とても大変な言葉で、一瞬その場が、しん、とする。
その静けさを破ったのはお父様だ。
「アスタロト殿」
「……はい」
「我らが独立宣言をし、仮に、国が内乱状態になった場合、我々と領土の境を接する魔族領は、どうなされる?」
「……そうですね」
しばし逡巡したのちに、アスタロトが口を開いた。
「あの国には、いささか迷惑をしております。度々の勇者召喚による領民の虐殺などは日常茶飯事。……ですから、まず、彼の国に加担することはありません」
うむ、とその言葉にお父様が頷く。
「あれは愚行だ。多くの犠牲を払ってまでやることではない。魔族領からの進軍などないものを、なぜか、王の見栄のための慣例のように行なっている。我々が独立したとしても、そういった愚行は行わないとお約束しよう」
「ねえ、とーさま。わたし、してんのうなのよ! ちゅよいの!」
私が口を挟むと、お父様達三人がギョッとした顔をする。
「な⁉︎ 確かにリリスは強いが……」
お父様が狼狽えている。
「ねえ、アスタロト」
「なあに?」
私が言い出しそうなことがわかるのか、アスタロトは微笑みながら、私の頭を撫でる。
「じっかのおてちゅだい、いいよね?」
しょうがないわね、と言った様子で、彼女は、私の頭を優しくポフポフとするのだった。
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