第13話 幼女、小鳥と話す
……チュンチュン。
朝の小鳥の囀りで、目を覚ました。
私のベッドの脇では、小竜姿のニーズヘッグがベッドがわりのカゴの中で、すやすや寝ていた。
その中でいつもと少し違うのは、小鳥達がやたらと窓ガラスを突くことだった。
トントン、トントン。
「姫様〜! やっと見つけたよ!」
小鳥の鳴き声と窓を突く音の中に、そんな声まで混じっている。
私は、むくりとベッドから体を起こして、その窓辺へ向かう。
すると、青と黄色の可愛い小鳥が二羽、仲良く並んでいた。
「姫様、小さくなってる〜!」
「姫様、可愛い〜!」
しかも喋る。
ーーこれは、もしや。
「おにーさまの、おくった、せいれい?」
彼らからは、よく知ったカイン兄様の魔力が感じられたからだ。
窓を開けてやると、その二羽の小鳥達は、当然のように中に入ってきて、テーブルの上に止まる。
「カイン様、心配していた」
「カイン様、姫様探してる」
あ、そうか。多分、人間の国ではそろそろ私の死亡報告をハヤト達が伝えて、それが早馬でお父様達のもとへ伝わっていてもおかしくない頃ね……。
一度、きちんと実家に戻って、事情を説明しないと、心配かけちゃうわ。
「ねえ、あなたは、さきにかえって、わたしはぶじ、って、つたえてくれりゅ?」
「噛んだ!」
「姫様噛んだ、可愛い!」
小鳥達が私が、語尾を噛んだことを、愛らしい声で口々に囃し立てる。
は、恥ずかしいわ……。
「姫様、真っ赤!」
「可愛い!」
全く、精霊とはいえ、小鳥なんだから、もう少し幼女に優しくしてくれないかしら。
「で、おねがいは、どうなの?」
囃し立てる小鳥達に、私は本題を尋ねると、一羽が羽を羽ばたかせて見せて、胸を張る。
「僕が行くよ! 姫様無事って言ってくる」
「うん、ありがとう」
そう言うと、一羽は窓から飛び去っていった。
「姫様〜、僕は?」
「わたし、たぶん、いちど、かえらないとダメでしょ?」
「そ〜だね〜!」
小鳥はその可愛らしい嘴を上下させて頷く。
「そのときに、かえりましゅよ〜! って、れんらくしてほしいの」
「そっかぁ〜。じゃあ、僕、姫様のお部屋で待たせてもらっていい?」
「うん、いいわ」
◆
「というわけで、じっかに、かえる、きょか、くだしゃい」
魔王陛下の執務室で、私は陛下にお願いをしている。
「そういえば、実家のことも含めて、リリスちゃんの事情ってあんまり聞いてなかったわね」
アスタロトがソファに腰掛けて、足を組んでいる。ああ、私が四天王の最後の一人になって、同格になったことから、『様』付けはいらないと言うことになった。
ーー長いな、足。
「きょう、にーさまのせいれいがやってきて、しんぱいしてるって」
「まあ、連絡もしていなければ、それはそうだろうな」
陛下もそれには頷いてくれた。
「うちに来た事情も事情だし……」
アドラメレクも同意する。
なので、私の家の事情を説明した。
フォルトナー辺境伯家の長女で、兄が二人。
魔物の襲撃の多い地域に聳える要の砦を守り、国を守護していることから、辺境伯とはいえ、扱いは公爵や侯爵並みであること。
私も、当初は父と兄と共に魔物の襲撃戦に参加していたが、勇者一行への参加を、国王陛下からの是非にとの申し入れを受け、かなり父は渋々同意したこと。
……などなど。
「……その事情で、勇者に騙し打ちを受けて死にかけましたなんてことを親御さんが知ったら、大ごとにならない?」
いやーな予感を感じたのか、アスタロトが眉を顰める。
「とーさま、にーさま、たぶん、げきおこします……」
父と兄は、たった一人の女の子である私を、それぞれ溺愛していた。
「……リリスちゃん。私がリリスちゃんのお父様の立場だったら、勇者だけにとどまらず、国王に対してまで怒りをぶつけかねないかな……」
「たぶん……」
アドラメレクの問いに、私は頷いた。
「フォルトナー辺境伯と言えば、我が魔王領にも一部隣接しているから知っているが、かなり魔法と武勇に長けた一族だったな」
「はい」
陛下が思案げに手を組んだ上に顎を乗せる。
「たぶん、とーさまたち、こくおうぐんより、つよい、でしゅ……」
こんな深刻な話なのに噛んだ!
「そこにリリスも加われば、あの辺境領、独立しかねないんじゃない?」
アスタロトが首を捻る。
「でも、人の内部争いまでは、我々には介入しづらいね」
孔雀! それは冷たいんじゃない⁉︎
ーーお父様が激昂して、独立を宣言して、戦争になるのは嫌だな……。
「ちが、ながれるのは、いや、でしゅ……」
私は、しゅん、とした気持ちになって、俯いてしまう。
そんな私の様子を見て、陛下がいつになく優しい声で私に話しかける。
「リリス。リリスの身を預かっている魔王領としては、我が魔王領と辺境伯領には、すでに深い縁がある。そんなに気に病まずとも、何かあれば、魔王領も相談に乗ろう」
その言葉を聞いて、とてもホッとして嬉しくなった。
「へーか! ありがとう!」
私は、執務椅子に座っている陛下のもとへ駆けて行って、ぎゅっと飛びついた。
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