第14話 幼女、帰省する

 実家の辺境伯領に帰省すると決まったことで、まずは、その日にちを、小鳥さんに伝えてもらうことにした。

「あのね。おっきな、りゅうにのってかえりゅからね」

「うん!」

 私の言葉に小鳥が嘴を上下させて頷く。

「おどろかないでね、って、さきに、つたえて?」

「わかったよ、姫様!」

 任せろ!とばかりに、小鳥は胸を張って片方の羽でその膨らんだ胸を叩く。

 そして、私の部屋の窓から飛んでいった。


「さて、リリス様も、ご実家に帰られるのですから、一等可愛らしく飾りつけましょう!」

 アリアが朝から張り切っている。

 部屋のベッドの上などには、すでに候補のドレスがいくつも並べられ、それに合わせた靴、リボンといった小物、チョーカーなどもドレスに添えて所狭しと並べられている。


「お父様のお好みはありますか?」

 うーん、あったかな。

 実家の時は、それどころじゃなくて、戦闘に向いたシンプルな服装が多かったのよね。母様も、私の小さいうちに亡くなってしまったし。

「あまり、こだわりはないと思うわ」

 逆に聞かれて困ってしまって、私は悩ましげに唇を尖らせる。

「でしたら、まずは、『魔族の四天王』とおなりになられたのですから、やはり、最初は黒ベースでお帰りいただきましょう」

 そう行って、アリアが、真新しい、ゴシックタイプのレースがふんだんにあしらわれた黒いドレスを指さした。あの、アドラメレク自らがデザインしたものだ。


「うん、しょれにする」

 こくん、と頷いて、アリアに同意をする。

 このドレスは、本当に贅沢に作られている。小さなボタンがたくさん並んでいて、その一つ一つも貝が材料なので、七色に色が変化するのが美しい。

 パフスリーブの袖口は絞ってフリルがあしらわれ、アクセントにリボンが飾られている。ウエストはしっかりと細く、そして、ボリュームタップリのふんわりスカート。白い長いソックスを履いて、靴は真珠とレースがあしらわれたパンプス。


「お髪は、いつものツインテールにされますか? それとも、何かまとめ髪に……。いえ、いつもの高めのツインテールが愛らしいですわよね」

 私に聞くのかと思ったら、髪型はアリアに決められてしまった。

 高い位置で二つに結って、生成りと黒のリボンを重ねて飾る。


「まあ、可愛らしい!」

 ご機嫌な様子のアリアに促されて、姿見の前に立ってみると、なるほど。

 黒をピンクを基調とした、豪奢なフリルドレスの幼女が鏡の中にいた。

「かわいい」

 思わず、自分で自分を称賛してしまった。


 そんな時、ドアがノックされた。

「アスタロトだけれど、リリスちゃん、いるかしら?」

「あい、どうじょ」

 私が許可をすると、大きなカバンを持ったアスタロトが姿を表した。

「ご実家に帰るなら、私たちからのご挨拶の品もいると思ってね。持ってきたのよ。でもねえ、一人でも、魔族の代表一人はご挨拶に同行した方がいいと思うのよね……」

 こう、他の四天王達が気の利かない男ばかりなので、結局アスタロトがそこを悩むことになってしまったらしい。

「だったら、いっしょに、いこ!」

 うんしょ、と背を伸ばして、アスタロトの指先を握った。


 すると、アスタロトはにっこりと微笑んで、しゃがみ込んで私を抱き上げる。

「リリスちゃんだけだと、説明も大変だし。礼儀として、魔族領の四天王の誰かが同行するのが筋よね。こんなにかわいいお嬢さんを預かっているんだから」

 そして、私の頬に軽く頬擦りをしてくれる。

「うん、とーさま、あんしんするわ!」

 ありがとう! と、私もアスタロトに抱きついて感謝の気持ちを伝えるのだった。


 そうして、アスタロトに抱かれたまま、魔王陛下の執務室へ赴き、二人でニーズヘッグに乗って、実家に帰郷することを報告した。

「ああ、そうだな。すまない、其方の親からすれば、大切な娘を魔族にした挙句、勝手に預かっているというのに、こちら側の人間が挨拶に赴かないというのも、不義理だったな……」

 考えが至らなかったと、珍しく陛下自身が謝ってくださった。

「一部領地を接する国ですし、特に対応は丁寧にすべきかと。ご挨拶の品も、我が国の特産の宝石や布地、珍しい菓子などを見繕って持っていく予定です」

 アスタロトが、陛下に進言する。


「えっ! ほうせき⁉︎」

 そんな高価なものまで、あのお土産に入っていたのかと、びっくりしてしまう。

「それは当然だろう。そもそも、其方の存在自体がとても希少で稀有な能力を持ったものであると、リリスは少し自覚をした方がいいぞ?」


「全くだわ。能力はすごいのに、全く無自覚なんだから」

 そういうと、アスタロトに私の小さな鼻を軽く摘まれた。

「あに、しゅるの〜!」

 私は、アスタロトの腕の中で、ジタバタと、あまり効力のない抵抗をするのだった。

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