第3話 召喚師、魔王様にご挨拶する

 数日後、体も落ち着いたある日、アスタロト様にお願いをして、魔王様の元へ滞在のお礼と、挨拶をしたいと申し出た。

「まあ、それは当然ね。礼儀正しい客人でよかったわ。早速手配しましょう!」


 すると、また数日が経って、アスタロト様が、私が面会するための私のドレスや靴といった装飾品を持ってやってきた。


「貴女は、明るいはっきりしたピンクの髪だから、真っ黒の悪魔風のドレスも着こなせると思って。急な話だったから、私の持ち物の中から選んだものでごめんなさいね」

 私は、アリアに着付けを手伝ってもらいながら、そのドレスを着付けてもらう。何せ、このドレス、小さなボタンがたくさんあるし、繊細なレースがふんだんに施されている。

「うん、よく似合っているわね」

 その言葉と、アリアに促されて、姿見を見ると、確かにピンクと黒のコントラストは意外にもマッチしていた。

「かわいい……」

 こんな贅沢なドレスを着せてもらったことはない。

 私の生まれ育った辺境領は、外敵も多く厳しい土地で、幼い頃からお父様達が戦うのを背後から眺めながら、召喚術を使って後方支援をしていたのだ。

 都会と離れているし、堅実なお父様の元、華やかな服を着る習慣もなかった。


「ええ、本当に。お髪はどういたしましょうか?」

 うーん、私はもう十五歳。あまり幼児っぽい髪型も困るわね。

「サイドを編み込んで、後ろは下ろしておいてちょうだい」

「かしこまりました」

 私は、アリアに鏡台の椅子に案内されて、そこに腰を下ろす。そして、丁寧に編み込みをしてもらい、最後に服と揃いの黒のレースリボンでまとめてもらったのだった。


「では、魔王様は執務室で待ってるわ。あちらに向かいましょう」

 アスタロト様に促されて、私は陛下の待つ執務室に向かうのだった。

 赤い絨毯をひかれた廊下は長い。城の全体像はわからないが、きっとかなりの広さを持つのだろう。客間から、執務室へ行くだけでも大変だった。


「さあ、ノックするわよ? 心の準備はいい?」

 一つの豪奢な扉の前で、アスタロト様に問いかけられた。


 ーー魔王って言ったら、勇者の敵。その仲間だった私は、そのまま手打ちにあうかも?

 すーはー、と深呼吸をする。

 何度か深呼吸をして、心を決める。

「アスタロト様、お願いします」

 すると、アスタロト様がドアをノックする。

「陛下、リリス様をお連れしました」

 すると、中から、低めのテノールの声がした。

「ああ、入れ」


 扉が開かれて、明るい室内の様子を覗くことができた。

 一番奥、執務机に座っていらっしゃるのが、魔王陛下だろう。

 彼と目を合わせてカーテシーをしてから入室した。

 見回すと、やたらと派手な男が一人と。

「……あと、もうお一人いらっしゃいますよね?」

 私が尋ねると、陛下と派手な男と、アスタロト様が軽く目を見開く。

 加えて、陛下は満足そうに、くっくと肩を揺らして笑う。


「あやつの気配を探り当てるとは、アスタロトが気に入って会え会えとうるさく言うのもよくわかると言うものだ。姿を見せてやれ、ベルゼブブ」

 すると、部屋の隅が暗く霞んだと思ったら、一人の男性が現れた。

「……私の任務は、隠密。ゆえに、このような対応失礼しました。四天王が一人、ベルゼブブと申します」

 蒼い短髪に、赤い目の男は、私に対する謝罪なのだろう、胸に手を当てて一礼をした。


「さて、立ち話もなんだ、そちらのソファに腰をかけるといい」

 陛下が促すと、陛下を含めた皆がそちらへ移動した。

 そして、全員が腰を下ろすと、陛下から、自己紹介をするよう求められた。

「私は、勇者一行の元メンバーで、召喚師をしていた、リリスと申します。この度は、仲間の裏切りにあい、危ないところを助けていただき、ありがとうございました」

 私は、中央の席にいたため立ち上がれず、座ったままで深く頭を下げた。


「危ないところを、って。回復まで済んで、血が足りずに倒れている貴女を連れてきただけよ」

 そして、アスタロト様が、勇者との一件や、召喚術で私が何者かを呼び、回復魔法を使わせたことなど、見たことを説明した。


「召喚魔法で回復? 召喚魔法なんて、精霊の類を呼ぶのがいいところだろう? それを、瀕死の傷を回復しただって? ああ、私は四天王かつ宰相をしているアドラメレクという」

 派手な男、アドラメレクが、俄かに信じがたい、といった物言いをする。

「だって、私は実際に見たもの! 背中から剣で一突きされた傷は、まるでなかったように綺麗に治っていたわ」

 室内がざわついた。


 ーーこの場合、どうするのがいいかしら。

 力を誤魔化すか、見せつけるか。

 生き残るには、圧倒的なまでに見せつけることよね。


 ーー後は、野となれ、山となれ。


「皆様に害は与えません。私の能力を今お見せしてもよろしいでしょうか?」

 私は、口元に挑戦を仕掛けるような心持ちで笑みを浮かべて、陛下と、四天王達を眺め見る。


「……やってみろ」


 陛下が、一言告げた。


召喚サモン英霊達エインヘリアル

 その言葉を契機に、私の体が発光し、魔力が溢れ出る。

 その魔力が、古の英霊達をこの世のものとして、一時的に肉を持って現れる。

 大魔道士、マーリン。

 大聖女、フェルマー。

 伝説のテイマー、エリク。

 伝説のエルフの女王にして魔法使い、アグラレス。

 彼女の忠実な僕、弓使いのエルサリオン。

 槍使いの英雄、ファイ・リン

 メイス使いにしてバーサーカー、ガレス

 その他、ありとあらゆる英霊達が十数人ほど姿を表した。

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