10話――お弁当作りは大仕事です。

 今日はピクニックというものがどういうものかを、皆に知ってもらう意味合いもあった。

 そこで、お弁当も私の世界の材料を使って作ることにした。

 したがって、ポーチが大活躍だ。


「女神様の匂いがします」


 ポーチをまじまじと見つめるワサビちゃんに、私が異世界出身であることを伝える。


「通りで。見たことのないご飯ばかりで不思議に思っていたのです」


 ご飯が気になって厨房に来てたのねと可笑しくなる。


「じゃぁ今日は食いしん坊なワサビちゃんにもたくさんご馳走しなくちゃね」


「ワサビは食いしん坊ではありません」


 そう言ってプリプリ怒るワサビちゃんは、やっぱり餌をほっぺにたくさん入れて走り回るハムスターの姿そのものだった。



 お米が炊けていい匂いが厨房を包んだ頃、コックの皆とハンナさん、メアリがやって来た。

 メイドのふたりがお弁当作りを手伝ってくれるというので、ハンナさんにおにぎりを、メアリにサンドイッチをお願いした。

 なんとなく肝っ玉母さんのようなハンナさんのおにぎりが食べたいからという理由からだった。


 そんなに得意ではない卵焼きを巻き終え、から揚げを油へと投入する。

 卵焼きは悩んだ末に、甘いものと出汁を利かせたしょっぱいものと両方作った。


 ジュワジュワと音を立てて色づいていくお肉を見ながら、ワサビちゃんが目を輝かせている。


「気になる?」


「はい、とっても!」


「じゃぁ、火が通っているか確かめてみようか」


 それが味見のことだとわかると、今まで肩の上にいたのに、ふよふよと落ち着かない様子で私の回りを漂い始めた。

 小さくカットしたものを爪楊枝に刺してワサビちゃんに渡す。


「熱いから気をつけてね」


 ワサビちゃんは大丈夫と両手を広げた。すると驚いたことに、から揚げの回りだけに小さな風が起こったのだ。


「凄い! それ魔法?」


「はい! ワサビは風魔法が得意なのです」


 そう言って、小さな胸をえっへんとばかりに張っている。

 そうしてほどよく冷めたから揚げを嬉しそうに受け取り、美味しそうに食べ始める。

 その姿がやっぱりハムスターのようで、私の顔も綻んでしまう。



「えみ……」


 ハンナさんに呼ばれて振り向くと、固まった表情でこちらを見ている彼女と目が合った。

 ただならぬ雰囲気に驚くが、固まっていたのはハンナさんだけでは無かった。

 メアリもライルさんもホーンさんも、ルファーくんまで固まった表情でこちらを見ているではありませんか。


「え? 何? どうしたの?」


 訳がわからず不安になった。いきなりどうしたと言うのだろうか。


「ルファー。アルク様を呼んでこい」


 ライルさんに言われて、ルファーくんが慌てて厨房を飛び出していった。

 その様子にただならぬものを感じ、私はワサビちゃんと顔を見合わせるのだった。

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