第8節 虹色の世界
第8-1話 愛される女王
最近、よく、同じ夢を見る。
「マナ・クレイア──彼女を守ることが、あなたの役目です」
私は、彼女を守れなかった。
***
やっと、涙も抑えられるようになってきた頃。それでも、まだ、私の体調は全快とまではいかなかった。
そんな今日、ワールスの王、ウーラ・クラン・ウーベルデンが、私の呼び出しを受けてノアに来ていた。
レイが亡くなった現在、ノアの統治は一旦、ギルデルドに任せている。だが、王様まで任せると、ステアに会えなくなって可哀想なので、やめてあげた。
「だから、代わりにウーラちゃん、ノアの王様、お願いしてもいいかな?」
「……なぜ私なのでしょうか? 国家転覆を狙い、各国をまとめ、戦争を起こしたのは私ですよ?」
「それは嘘だよ。ウーラちゃん、実は平和主義だって知ってるもん。帝国でなんにも怪しい動きがなかったの、ウーラちゃんのところくらいだよ」
「今回の件を起こすために、上手く隠していただけかもしれませんよ?」
「そんなことしないよ。ウーラちゃん、真面目だもん。わざわざ、ワールスの王を引き受けるって言ったのも、南にドラゴンちゃんがいて、みんなやりたくないって言ってたからでしょ?」
「……よく、分かっていらっしゃいますね」
嘆息混じりに呟くウーラに、私は笑みを浮かべる。
そうして、ウーラを即位させた後、彼女と今後、平和であり続けることを誓うための、条約を結ぶ。レイが王であったときとは異なり、手放しで背中を預けることはできない。だが、その方がちょうどいい。
帝国内で大きな取り決めがなされるとあって、私たちは大量の記者に取り囲まれていた。私は慣れているため平気だったが、ウーラは緊張気味だった。
一通りの業務を終え、気疲れした様子で、背もたれに体を預けるウーラに、私は尋ねる。
「ウーラちゃんは、なんで人を殺しちゃダメなんだと思う?」
「なんでって、理由が必要ですか? ……まあ、強いて言うなら、殺すのが嫌だから、ですかね」
「うん。やっぱり、ウーラちゃんは信頼できるね」
ウーラは首を傾げていたが、私にはその問答だけで、彼女が裏切らないことが確信できた。それは、とても正直な答えだから。
***
アイネが退屈そうに口を尖らせていた。
「アイネ。あまり、そういう顔ばかりしていると、くちばしが生えてきて、アヒルになってしまいますよ?」
「ぶー。だって、つまんないんだもん!」
最初の数日は、新しいお城に興奮して、元気にはしゃいでいた。脱走しようとしたりもして、その度に止められていた。だが、走り回っても、追えるほどの足を持つ者がいない上、私が相手だとすぐに勝負がついてしまうため、どうにも張り合いがないらしい。
「ナーアとルクスはこっちに来ないの?」
「そうですね。セトラヒドナの侵略はかねてからの私の本願でもありますが、攻めるとなれば、また、血が流れるかもしれませんから。──まあ、タルカちゃんは役立たずだし?」
そうして、私はセトラヒドナの元王の顔を見る。これで、彼女は国を丸ごと乗っ取られ、帝国に亡命した形になるわけだ。
「ぼ、ぼくだって、これでも色々考えて国をまとめてたつもりです!」
「つもりじゃあねー」
「ねー」
「はあ……。もう、何が何やら……」
私は膝に座るアイネに目で合図をする。すると、アイネはこくりと頷き、膝から降りて、タルカの元へと駆けていく。
「タルカちゃん、よしよし」
「アイネ様あぁ……!」
癒し役はアイネに一任していた。代わりに、私は言いたい放題言うようになっていた。この歳になって、やっと、色々と溜め込みすぎていることに気がついたのだ。我ながら遅すぎたとは思うが。
「マナちゃん、最近楽しそーだね」
そう言って不機嫌そうな黄色の瞳で見つめてくるのは、ロロだ。
「ろろちゃん、アイネちゃんに嫉妬してるの?」
「……ん。だって、マナちゃんの膝は、ロロの席だったのに」
「じゃあ、今のうちにおいでおいで」
アイネがタルカに構っている間に、私はロロを膝に乗せて、頭を撫でる。
「アイネちゃんとも仲良くしてあげてね。私はアイネちゃんやみんなとずっと、ここで一緒に暮らしたいから」
「……ん。分かった」
ロロがもう二度と、人を殺さないよう、私は見守る必要がある。だから、私は後ろからぎゅっと、ロロを抱きしめる。
「ろろちゃん。人を傷つけちゃダメだよ」
「ん」
もし、ロロが暴走するようなことがあれば、それは私の責任だ。だが、そんなことは、もうさせない。
ちなみに現在、ゾンビ事件は帝国のせいだということになっている。教団に利用されただけのこの子に、罰は与えられないからだ。あれだけ殺しておいて、虫のいい話だとは思うけど。
「あ、こら、ロロ! ママの膝は私の場所なの! 取っちゃダメなの!」
「……やっ」
「ロロずるい! ママー……」
「アイネはさっき座りましたよね? ろろちゃんに譲ってあげてください」
「やだやだやーだー!」
「あら、また始まりましたね、アイネのいやいや攻撃」
「またとか言わないの! やだやだやだやだ──」
芝生に寝転んで、じたばたと暴れる。昔から、手のかかるところは変わらない。
ちらと見ると、ロロが勝ち誇ったような笑みを浮かべていて、それを見たアイネが、さらに喧しく騒いでいるらしかった。どっちもどっちだ。
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