きっとその優しさが 出逢いを呼ぶ
卯瑠樹 夜
きっとその優しさが 出逢いを呼ぶ
今年高校生になった加奈は、スマホで占いをチェクしていた。
[今日はあなたの運命の日。
特別な出会いがあるでしょう!]
「やったぁ!えっと、
ラッキーアイテムは…ハンカチ!」
加奈はバタバタと自分のタンスの所まで行くと、お気に入りの薄いピンク色のハンカチを取り出した。
「うん!春っぽいし、これに決まり!」
今日から始まる高校生活に少し不安がありながらも胸を弾ませ、暖かな春の陽射しのなかへ一歩を踏み出した。
はずだった。
「なんで雨降っちゃうかな~…」
玄関を出てすぐ加奈のテンションは下がる。
「占いも最高で、髪も上手くまとまったの
に…」
ぶつぶつ文句を言いながら、うらめしい顔で灰色の空を睨むのだった。
それでも学校には行く。なんてったって初登校日だ。田舎道を小雨が降るなか駅へ向かって歩く。
春の日の雨は少し暖かく、どこからか流れてきた甘い花の匂いが混ざっていて、なんだか心をざわつかせた。
駅に着くと、改札のそばで真新しいランドセルを背負った女の子が悲しげな顔で1人うつ向いていた。
(保護者はどうしたんだろ?)
加奈は周りを見渡したがそれらしい人はいない。おまけに他の人達は 女の子のことなど気にもとめず急ぐように通りすぎるだけだった。
(……駅員の人に言えばいいよね…)
そう思った加奈だったが、女の子の悲しげな顔がどうしても気になってしまう。
(ハァ…仕方ない。)
側まで行くと、目線を合わせるように女の子の前に座った。
「おはよう。こんな所でどうしたの?」
突然話しかけてきた加奈に驚いた様子だったが、すぐに悲しい顔に戻り女の子は言った。
「あのね、とれちゃったの…」
悲しげに言いながら、手のひらを見せてくれた。そこにはリボンの形をした飾りのようなものがあった。
「これ、どうしたの?」
「髪を結ぶのに付いてたの。でも触ってたらとれちゃって。」
女の子はポニーテールをしていた。だがそこには茶色いヘアゴムがあるだけだった。
「お気に入りだったのに…」
手のひらのリボンを見つめながら言う。
そんな女の子をみて加奈の心の奥がキュッとした。自分を可愛くしてくれるアイテム。しかもお気に入りが壊れてしまったなんて…
加奈には痛いほど女の子の気持ちがわかった。
「お姉ちゃんにまかせて!」
そういうと自分のポケットからまだ使っていない、お気に入りのハンカチを取り出すと、茶色いヘアゴムを隠すようにリボン結びをしてあげた。
「これでどう?」
加奈は手鏡で見せてあげた。
「わー!ピンクのリボン!」
そこにはさっきまでの悲しい顔はなく、サクラ色の頬に満面の笑顔が咲いた女の子がいた。
「すごく可愛い!お姉ちゃんありがとう。」
嬉しそうな顔に加奈も満足だった。
「ところで、誰か大人の人は一緒にきてる?」
「うん、今お手洗いに行ってるの!」
「良かった。それじゃあそろそろ行くけど、1人で待ってられる?」
「うん!大丈夫だよ!」
「そっか、それじゃあ元気でね。」
「お姉ちゃん!ありがとう、バイバイ!」
可愛い笑顔に見送られ、加奈はホームへ急ぐのだった。
「あ、やっと戻ってきた!遅いよー。」
「あぁ、ごめんな。ところでさっきの知り合いか?」
「ううん。でもね、これしてくれたの!可愛いでしょ!」
女の子は頭を飾るピンクのリボンを自慢気に見せてきた。
「へー…良かったな。」
戻ってきた男は嬉しそうな女の子の顔に安心しながら、加奈の後ろ姿を見つめるのだった。
キーンコーン カーンコーン…
加奈の高校生活もすでに半日たっていた。
(特別な出会いはどこ~…?)
もうお昼になるというのに、加奈は新しい友達さえもできていなかった。
(このまま3年間ボッチとか、イヤだよ~)
うなだれていたが、そんな時でもお腹はすく。加奈は今日のお昼をゲットするため席を立ち教室をでていった。
(売店ってこっちだったよね…?)
うろ覚えで、自信なさげに加奈は歩いていた。その時…
ドンっ!
突然背中を押され、倒れる加奈はとっさに手をついた。
「いったぁ~…」
「あ、ゴメン!急いでるんだ!」
そう言って、上級生であろう男は走って行ってしまった。
「なっ!なによ!もう~」
膝の汚れをはたきながら立ち上がった加奈。幸いケガはしなかったものの、手は黒く汚れてしまった。
「今からご飯なのに…ハァ…」
側にあった洗い場で手を洗いながら、加奈は少し落ち込んでいた。
(雨は降るし、友達はできないし、転んじゃうし、……最悪だぁ…)
そう思いながらポケットに手をやると、あるはずのハンカチがない。
「!えっ、あ!そっか…」
女の子にハンカチをあげた事を思い出した。
濡れた手を見つめながら、どうしようかと考えていると、声をかけられた。
「良かったら、これ使って。」
薄い青色の生地に桜の刺繍がしてあるハンカチを差し出される。
「えっ!?あの、でも…」
加奈は困ってしまった。見ず知らずの人、しかも男子にハンカチを貸してもらうなんて…
「使ってないし、汚くないから」
「そっ、そういう訳では!」
これ以上断っても失礼だと思った加奈は、お礼を言いながらハンカチをうけとった。
「さっきの奴、友達なんだ。ごめんな。
俺から言っとくから。」
「大丈夫です。ケガもしてないし。」
「そっか、なら安心した。あ、俺
2年の葉山 竜二。」
「わ、わたし、1年の日比野 加奈です。」
先輩だとわかった途端、さらに緊張した。
(先輩からハンカチ借りちゃった…)
少し気まずい気持ちで借りたハンカチを見ていると、
「それ、あげる。今日買ったばかりなんだ。」
「ええ!?そんな!洗って返します!」
大慌てで言う。
「いらないなら、捨てていいから。」
「捨てるなんてそんな事!こんなに素敵なハンカチなのに。」
正直に言うと加奈はハンカチを凄く気にいっていた。まるで桜の花を見上げた時を思いださせるデザインに一目惚れしていたのだ。
「ハハっなら、もらってくれよ。」
葉山は優しく笑った。
その笑顔に心臓がドクンッと強く跳ねるのを感じた。
「あ、ありがとうございます。」
ドキドキと先輩に反応する心臓に戸惑いもあったが加奈は嬉しさでいっぱいだった。
「いや、お礼を言うのは俺のほうだから。」
「?えっと?」
突然の言葉に言っている意味が分からないという顔をする加奈。
葉山はそんな様子を見て今度は無邪気に笑う。
「分からないならそれでいい。」
(なっ、なんだろう!?からかわれてるのかな?)
戸惑うような目で見る加奈に、満足した葉山は、
「じゃあまたな。日比野も昼、急げよ。」
と言うと友達を追って行ってしまった。
(また…会えるのかな…会えたらいいな。)
まだドキドキする胸をおさえながら、先輩が向かった先を見つめていた。
終わり
きっとその優しさが 出逢いを呼ぶ 卯瑠樹 夜 @UKIYORU
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます