第7話 こざるのミミがやってきた

 ルルンおばさんが田舎の小さな一軒家で一人暮らしを始めて五ヵ月が過ぎました。ルルンおばさんの朝はお日様に挨拶をすることからスタートします。

「お日様、おはようございます」

 ルルンおばさんはお日様に挨拶をしてから今日も元気にお散歩に出発です。ルルンおばさんの家の近くにある空き地には、大きな桜の木が一本あります。その空き地は農家の三智子さんの持ち物です。以前は人が住んでいたのですが、その人が遠くに引っ越してからは、空き家になっていました。なので、三智子さんは空き家をこわして、この地域の人たちと交流できる場所にしようとしています。ルルンおばさんは空き地に着くと桜の木を見上げて、ニッコリしました。

「あら、小さな芽が出てきたわ。もうすぐ春がやってくるのね、ルルルン」

 ルルンおばさんはとても嬉しそうでした。


 その日の朝も、ルルンおばさんは桜の木のある空き地にやってきました。すると、そこにはパン屋の一子さん、漁師の次郎さん、肉屋の志郎さん、大工の吾郎さんがいました。

「みなさん、おはようございます」

 ルルンおばさんはいつものように、元気に挨拶をしました。

「ルルンおばさん、大変なのよ」

 一子さんが言いました。

「どうしたの?」

「ここにゴミを置いた人がいるから、どうしようかと相談しているところです」

 漁師の次郎さんが言いました。桜の木のある空き地には、冷蔵庫やテレビや本棚などが捨ててありました。

「あらあら、これは大変だわ」

 ルルンおばさんも困ってしまいました。

「勝手に捨ててしまうのはいけないことなのに、どうしてこういうことをしてしまうのだろう」

 肉屋の志郎さんの言葉にみんなが頷きました。

 するとそこに、この空き地の持ち主である農家の三智子さんがやってきました。

「ここが空き地だから、誰かが間違って捨てていってしまったのね」

 三智子さんも困り顔です。

 それからみんなでこの空き地をどうすればいいか、話し合いを始めました。

「みんなが集まれるカフェなどどうかしら?」

 パン屋の一子さんがいいました。

「それはいいわね」

 農家の三智子さんも大賛成です。

「キッチンカーを置いたらどうかしら」

 ルルンおばさんが提案をしました。

「そうですね。それならお金も沢山はかからない」

 漁師の次郎さんも乗り気です。

「キッチンカーの前にテラスを作ろう」

 大工の吾郎さんがはりきっています。

「カフェならパン屋のわたしがパンを・・・」

「漁師の俺が魚を・・・」

「肉屋の自分が肉を・・・」

 最後は皆がそろって、

「持ってくればいいね」

「それならわたしは料理をするわ」

 ルルンおばさんは料理が得意なので、カフェで料理を作ることになりました。


 ルルンおばさんは置いていかれた本棚の奥を覗き込みました。

「あら、こんなところにこざるがいるわ」

「こんなにかわいいぬいぐるみなのに、捨てられてしまったのね」

 パン屋の一子さんがいいました。

「わたしが家につれて帰ってもいいかしら?」

 ルルおばさんはみんなに聞きました。

「そうしてあげて」

 農家の三智子さんがいうと、反対する人はいませんでした。


 ルルンおばさんは家に帰ると、こざるを洗ってあげようと思いました。洗面台にお湯をはり、こざるを入れると

「あ~、あったかい」

 こざるが手足をうごかして、しゃべりはじめました。

 ルルンおばさんは笑いながらいいました。

「やっぱりね。そうだと思ったわ」

「こんにちは」

 こざるはルルンおばさんに挨拶をしました。

「こんにちは、お名前はなんていうの?」

「ミミといいます」

「かわいいお名前ね。ミミ、よろしく」

 ルルンおばさんはこざるのミミをきれいに洗ってあげました。

 ドライヤーでかわかすと

「あ~、さっぱりした」

 こざるのミミはとても気持ちよさそうです。

「ごめんください」

 パン屋の一子さんと農家の三智子さんが遊びに来たようです。

「いらっしゃい、どうぞあがって」

 パン屋の一子さんは、おいしいパンとクッキーをもってきました。

 農家の三智子さんは小さなかわいい服をもってきました。

「一子さんも、三智子さんも、やっぱりわかっていたのね」

 驚いたのはこざるのミミです。

「もう、動いてもいいのよ」

「こんにちは、ミミといいます」

 ルルンおばさんに促されて、こざるのミミは二人に挨拶をしました。

 農家のみちこさんはお孫さんが赤ちゃんのときに着ていた服を、こざるのミミにあげました。

「かわいい」

 こざるのミミはうれしそうにスキップをしています。

「よかったわ。喜んでくれて」

 こざるのミミはパン屋の一子さんが持ってきてくれたパンとクッキーを食べました。

「おいしい」

 こざるのミミは大はしゃぎです。ところが喜んでいたこざるのミミの目から涙が溢れてきました。

「ミミ、どうしたの?」

 ルルンおばさんは優しく尋ねます。

「あの、ミミはここにいてもいいの?」

 こざるのミミは哀しそうに言いました。

「ずっとここにいていいのよ」

 ルルンおばさんの声はとても優しさで溢れています。

「ほんとうに?」

「ずっと、仲良くしましょうね、ルルルン」

 ルルンおばさんもパン屋の一子さんも農家の三智子さんも、優しくこざるのミミに笑顔を向けました。

「ありがとうございます。よろしくおねがいします」

 こざるのミミも満面の笑顔で答えます。

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