第3話 次郎さんの奮闘

 今日のルルンおばさんは一子さんと三智子さんと漁港にきて、散歩を楽しんでいます。

「海のある街に住むのが私の夢だったの」

 ルルンおばさんは気持ちよさそうに海風を浴びています。一子さんも三智子さんもそんなルルンおばさんを優しく見守っています。

「こんにちは」

 元気よく挨拶をしてくる若い漁師さんが三人に近づいてきます。

「あら、次郎さん。こちら最近この街に引っ越してきたルルンおばさんよ」

「初めまして、よろしくお願いします。ルルンおばさんと呼んでください」

「こちらこそ、よろしくお願いします。漁師の次郎です」

「良かったら今日水揚げしたばかりのシラスを持って帰りませんか?」

「あら、嬉しい」

 三人は大喜びです。でも、次郎さんは何だか心ここにあらずといった様子です。

「次郎さん、いつもは元気溌剌なのに今日はちょっとお顔が冴えないわね」

 するどい三智子さんは言いました。

「あっ、いえ、そんな・・・」

「わかったわ。スミレさんと喧嘩でもしたのね」

 一子さんに遠慮はありませんでした。次郎さんは黙って下を向いてしまいました。

「図星ね。何があったの?」

「俺もスミレも来年三十歳になるから別れ話が出ていて・・・」

「どうしてよ。どっちから出た話なの?」

 一子さんと次郎さんの会話を三智子さんとルルンおばさんは黙って聞いていました。

「俺からだよ。だって辰也もいるしお袋だって面倒をみないといけないだろ」

「弟の辰也君は今、高校生よね」

「ああ、高校二年生だよ。結構勉強ができるからさ、大学に行かせたいと思っている」

「それでスミレさんとはすぐに結婚ができないと次郎さんは思ったのね」

「あっ、俺は仕事がまだ残っているから」

 次郎さんは深々とお辞儀をすると三人の前から走り去りました。


 次郎さんの実のお母さんは病気で亡くなっています。辰也さんとは腹違いの兄弟です。お父さんも数年前、漁に出て海難事故で亡くなりました。次郎さんは弟と義理のお母さんと三人暮らしです。ちなみに、次郎さんにはお兄さんがいますが外国で働いているそうです。ルルンおばさんは三智子さんから教えてもらいました。

「次郎さんって若いのに義理のお母さんや弟さんの面倒をみているなんて、とっても偉いですね」

 ルルンおばさんは感心していました。

「そうなのだけれど、一人で背負い込み過ぎなのよ」

 一子さんは少し怒っています。

「ねえ、そのスミレさんというのはどこに行けば会えるのかしら?」

 ルルンおばさんは質問しました。

「スミレさんは役場で働いているの。ルルンおばさんも会ったことがあるはずよ」

「だったら役場に行ってスミレさんとお話をしましょう」

 ルルンおばさんはスタスタと役場に向かって歩き出します。

「ルルンおばさん、ちょっと待ってよ」

 一子さんと三智子さんはルルンおばさんを慌てて追いかけました。


 仕事が終わったスミレさんがルルンおばさんの家にやってきました。勿論、一子さんと三智子さんも来ています。ルルンおばさんの作った料理を四人で食べています。

「ルルンおばさんってお料理が上手なのですね」

 スミレさんは明るく言いました。

「スミレさん、お節介だったらごめんなさい。でも、今朝、次郎さんと話をして心配だったものだから」

 一子さんが言い出します。

「いいえ、みなさんに心配してもらって、嬉しいです。どうしたらいいのか、本当にわからなくて・・・次郎の言い分もわかるし・・・」

「次郎さんとはどこで知り合ったのですか?」

 ルルンおばさんが聞きました。

「幼馴染で高校生の時から付き合っています」

「もう十年以上になるのね」

「はい、長すぎた春ですね」

「スミレさんはどうしたいの?」

「どうって・・・次郎とはずっと人生を歩んでいきたいと思っています。でも、私は結婚をして子どもも産みたいから、グズグズはしていられないし・・・」

「グズグズね・・・」

 一子さんはちょっと不思議そうな顔をしました。

「確かに子どもを産んで育てるのは早い方がいいからねえ」

 三智子さんはしみじみと言いました。

「スミレさんは次郎さんの義理のお母さんと弟さんのことはどう思っているの?」

 ルルンおばさんが聞きました。

「義理のお母さんも弟の辰也も昔から仲良くしています。小さい頃の辰也は私たちのデートにもついてきたがって、三人で遊園地や動物園にはよく行ったものです。大きくなるにつれて一緒に行きたがらなくなりましたが・・・」

 スミレさんは思い出して笑顔になっています。

「それならグズグズしたままでもいいのではないかしら・・・」

 一子さんは自信がなさそうな声で言いました。

「グズグズしたままで?」

「そう、だってもうすでにスミレさんは次郎さんの家族になっていて楽しそうじゃない。だったら今のままの状態が続いても問題はないはずでしょう」

「でも・・・次郎が・・・」

「スミレさんは次郎さんにちゃんとそういうことを話したの?」

「そうですね。次郎は勝手に私を家族の問題に巻き込みたくないと思っています。私は家族になって一緒に色々な問題をクリアしていきたいのに・・・」

「だったら、そう話をしてあげたらいいのではないかしら」

 スミレさんは一子さんの話に大きく頷きました。


 数日後、スミレさんがルルンおばさんの家に遊びに来ました。

「ルルンおばさん、次郎がちゃんとプロポーズをしてくれました」

「あら、おめでとうございます。よかったわね、ルルルン」

「はい、まあ籍を入れるのも式もまだまだ先なので、きっとこのままずっとグズグズしてしまうのかもしれませんが、それもありかなって思っています」

 スミレさんの笑顔にルルンおばさんも心から嬉しくなりました。

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