KAC20216 私と読者と仲間たち

第六話 相棒は手札を切って思い切る

※とある医師のブログから抜粋。


「私の娘は異世界のお姫様だった」


 普段から私の緩いブログを楽しみにされているみなさんこんにちは。


 のっけからこいつ何言ってんだ?

 と私の脳を疑う気持ちもわかります。私だって客観的には自分の脳ですら疑いますもん。

 混乱してます。

 なかなかです。


 間違いかもしれないのでもう一度書いてみます。スーハー。


「私の娘は異世界のお姫様だった」


 ええ、冒頭と一字一句違いません。コピペじゃないよ?


 なんでこんなことになったのか、落ち着くためにちょっと回想というか、経緯を振り返ってみようと思うのです。

 お付き合いください。


 え? 付き合いきれない?

 いや、頼みますよ。だって、私と読者と仲間たちに関わる重大な内容なんだよ?

 お願い一人で抱え込まさないでくださいよ。

 一蓮托生、呉越同舟、みんなで渡れば怖くないってね。


 そう思ったが、どこから書けばよいのか……。


 とりあえず、娘と初めて会った時のことからにするか。

 こう書いてみて、普通は娘と初めて会うって、産まれた時だよなぁと思うが、実際の出会いは、まあ普通のシチュエーションじゃなかったんだなぁと感慨深い。


 今から十年前の春。

 私はね、二人の少年少女を拾ったんです。

 二人とも傷だらけで、変な服装でね、なんかのコスプレか? と思ったんよ。

 

 そうそう、特定が怖いので、ちょいちょい事実と違うこと混ぜるけど、まあ、作り話だとご理解ください。


 二人は記憶が無いって言うんだよ。

 少年なんか体の一部も欠損しててさ、こりゃあただ事じゃないって思ったんだ。

 知っての通り私は医者で、ちょうど自分の診療所を構えたばかりでね、ウチに連れ帰って治療やら面倒みたりしたんだよ。

 あ、変な事はしてないから通報しないでね。

 その頃はまだ奥さんが生きててさ、ホント、いい奥さんでさ……。


 ま、回想はともかく

 厄介事とは思ったけど、その時はなんとかしなくちゃって気持ちがいっぱいでさ、警察には言えなかったんだ。


 少年の方は記憶どころか、心神喪失って感じ。

 少女は常識的なことは全然知らなくって、ホントに現代人か? なんて思ったけど、一度教えれば全部覚えるし、とにかく文字も単語もすごい勢いで覚えたね。

 天才だよ天才。

 仕事柄さ、英語だのドイツ語だの専門書だの文献だのってウチには転がってんだけど、全部読んでてさ、最初は単語の意味が分からなかったけど、辞書渡したらもう全部。家にある私も難解な書物、みんな理解しちゃったの。


 お察しの通り、この少女が娘。今でも超可愛い。


 でネットを始めたと思ったらすぐ、とある事件の資料を見せてくるの。

 詳細は省くけど、三年前に行方不明になった男女の事件。

 そのうちの男の方が少年だって言うんだよ。


 もう、泣きながら「彼を実家に帰してあげて」なんてさ。

 こっちももらい泣きよ。

 だって絶対訳ありじゃん? じゃあもう一人の少女ってキミなの? って聞いても違うって、確かに容姿が全然違うらしいんだ。


 娘はさ、金髪碧眼なわけ。それでモンゴロイドの私の娘ってどうなの? って、まあ養子にしたんだけど、戸籍だのなんだのは、まあチョイチョイ。これ、創作だからね!


 で、警察を経由して少年を実家に帰したんだけど、その時、少年が五体満足になってて驚いた。

 娘がなんかしたんだろうって思ったけど、自分の勘違いだったって思った方がいいよね?

 もう一人の少女のご家族は何度もウチに来たけど、そもそもホントにこっちは知らないから、まあ、やるせなかったし、娘は何か知ってそうだし。でも、悲しそうにして「今は聞かないでください」なんて言われてごらん?

 世界中を敵に回しても守っちゃうよ! なんて、奥さんと三人で泣いたね。


 それから娘は、ずっと勉強してた。

 お金も自分で稼いで、いろんな大学や研究者に会いに行ってるみたいだったね。

 最初の頃こそ、交通機関の利用や宿泊の作法なんかに慣れてなかったからさ、一緒に行ったりもして、すげぇ楽しかったな。

 奥さんがさ、子供の出来ない自分を責めてたこともあったから、三人でいろんなとこ出かけて、あの数年はホント宝物だったな。


 娘はおよそどんな場所の言葉も話せてさ、ことによると動物の言葉も理解してたっぽくて、いいなって言ったらさ「理解できることが幸せと限らない」なんて超クール。

 そりゃそうだろうけど、好きな人の事はなんでも理解しようとしちゃうんだよ。


 まあ気付いてたけど、娘はいろいろと不思議な持ち物を持っていてね、訳ありなんだなとは思えど、別に質問したりしなかったよ?

 その中には、少年の怪我を治したような秘薬もあったみたいで、某国に出かけた際にリムジンや高級ホテルとか、VIP待遇で扱われたこともあって「ち、違うの私こんなの頼んでない!」なんて慌ててたっけ。


 奥さんが死んだとき、病気だったんだけど、娘は海外にいてさ、機密性が高い研究ってことで連絡も取れなかったんだ。

 メールだけは入れておいたけど、四十九日が終わったあたりで、ほんと飛んでくるように帰ってきたんだ。

 そんなに急ぐなよ、お前まで何かあったらどうするよ。なんて笑ったのにさ、あいつボロボロ泣いて、ごめんなさいごめんなさいってずっと泣いてんの。

 そんとき初めて、「お父さん、お母さん」って言ってくれたんだよ。


 まあ、その時も「重要な仕事してて、今は話せないけどちゃんと話す」なんて言ってさ、まだ歳の頃二十代前半くらいの小娘のくせに、生意気だよね。


 私の方ではそん時、娘と一緒だった少年の家族に頼まれて、少年に会いに行ったんだけど、ずいぶん変わってた。

 学校も復学できず、世間の目もあったのかな? 引きこもって、ひどい状態だったから、あらためて主治医になって健康の指導なんかしてたんだ。


 それからしばらくして娘が帰国して、なんか会社とか作っちゃって、社長とかになってんの。

 結構有名なソフトウェアメーカーなんだけど、秘密。

 

 で、その辺りからスピリチュアルなこと言いだしてさ、精神、心、マナ、魔法とか、あ、こりゃあヤベェ宗教とかはまったな? なんてよく聞くと大真面目でさ、そん時、娘には二つの目的があるって聞いたんだ。

 一つは、心だけになった人を元に戻したい。

 もう一つは、この世界を守りたいっての。


 一つ目は、なんかAIってやつ? その技術を使って、ある特定の刺激に対し反応するパターンを人格化させて、今この世界に広がってるAIの元みたいのを作って、刺激と反応の膨大なデータを集めてるんだと。ネット大活躍だってよ。


 二つ目は、いろんな国を巻き込んで、身内でケンカしてる場合じゃないって、争いを治めてるんだって、そん時は、あ、こいつ世界平和を企む聖女に違いないって思ったね。スケールデカすぎるんよ。


 で、少年の状況とか知っちゃって、すげぇ心を痛めてさ、娘のせいじゃないのに「私のせいだ、守れなかった」ってまた泣いて、お前泣いてばっかだなって、私も泣いちまったよ。


 結局、彼をなんとかしなくちゃって気持ちがあったのと、どうやら、娘の二つの目的と少年は関係してるっぽくて、どっちも少年の存在が不可欠なんだって言ってた。

 で、自分の会社に少年を引き込んだんだけど、合わす顔が無いなんて言って、他人のふりをしてるみたい。

 つっても、少年は娘の事も最初から覚えちゃいなかったんだけどな。


「彼は心を、彼女は体を失ったの」娘が呟いたセリフなんだけど、そん時は意味不明だったな。


 で、少年に危機が訪れた。

 端的に言うと、肥満体が暴走で糖尿やら高脂血症やら高血圧やら、世界の命運の前に間違いなく死ぬって時に、秘密兵器の登場。

 まあスマートウォッチなんだけど、特別性ってやつ。

 外装は市販品なんだけど、AIの部分に娘の言う「オリジナル」が使われて、開発中の人格アプリが完成すれば、会話も可能になるんだって。

 少年も何かに反応したのか、ウォッチのいう事はよく聞いてさ、危うくやり過ぎで、今度は痩せ過ぎて死んじゃうとこだった(笑)

 

 でだ、今日なんだけど、娘が久しぶりに実家に帰ってきて、一緒に夕飯食べたんだよ。娘の好きなシチューを用意してさ、美味しかったな。

 食後にたくさん話をしたんだ。

 娘の目的が最終段階らしくてな、少年と少女が目覚めるってさ。

 二人が間に合えば救世主になるんだって。


 でだ、「私、この世界の人間じゃないの」って。


 バッカ、知ってるわそんなこと。

 だから言ってやったんだよ。


「それがどうした?」って。


 もう、それだけ。もうずっと娘、泣いてさ、今も私の足を枕にして寝てんの。

 泣き疲れたあと、淡々といろいろ、自分の生まれたとこ、どんな国でどんな家族で、どんな終わり方だったとか。

 そこで、少年と未だに行方不明の少女に、どれだけ助けられたか。

 二人と二人の世界を助けたいんだって。

 お前だって被害者なのにさ、すげぇ辛い思いしたくせにさ、ここまでがんばって来たのが、その二人と、この世界のためだってんだからアホだよな。


 でもさ、そんなアホな娘だから、私がしっかりしないとな。

 なんたって、世界で一番愛してる娘のためなんだからさ。


 つーわけで、この世界に危機が訪れるんだって。

 でも、なんとかできるんだって。

 少しだけでもいいから健康になって、マナ、いや自然の力を感じてほしいんだ。

 勇気を出して戦ってほしいんだ。


 世界中が力を合わせれば、滅びを回避できる。


 んで、それが回避できた暁には、私と読者と仲間たち、娘も呼ぶからさ、みんなで一緒に乾杯しようや。

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