第14話 2017年 4月1日 ~ 2018年 7月31日 ③ カクヨムへの道

「…それって、どういうこと?」

 僕は思わず事務女子に質問していた。

「小説投稿サイトですよ!」

 彼女が笑顔で答えた。…どうやら僕のために調べてくれたようだった。

「ふ~ん…だけど、僕に簡単に利用できるものなのかなぁ !? … どうやって小説を載せるんだろ? 僕は PC も持っていないし…」

 僕が訝しい顔を見せると、

「でも、誰でも小説を投稿出来るみたいだし、サイトの中でいろんな人に読んでもらえるし、お金もかからないし、良いと思いますよ!…森緒さんなら PC さえ持てばどんどん書いてバンバン読まれる作家さんになれますよ !! … いくつかサイトがあるみたいなので、良いと思うやつを選んでやってみて下さい!」

 事務女子にそう言われて、僕は自分の席のパソコンから「小説投稿サイト」を検索してみた。

 ざっと出て来たのは6つくらいあったが、興味を持ったのは「カクヨム」だった。何とあのカドカワが運営してるサイトだ!

「良い情報をありがとう!…面白そうだからやってみるよ、サイトを」

 事務女子にそう応えて、僕はその日、会社を定時にスパン ! と上がると迷わずヤ○ダ電機に向かったのである。


 …とりあえず店内に入ると、あまり家電品店に普段なじみの無い僕は周りをキョロキョロ見回しながら、何とか PC コーナーを見つけることが出来た。

(…やっぱり、小説を書くとなると持ち運べるノートパソコンかなぁ ! )

 などと思いながら商品をあれこれ見ていると、店員のお兄さんの姿が目に入ったので手を上げて呼んでみた。


「…ノートパソコンをお探しですか? お仕事でお使いになるものですか?」

 店員さんはそう言いながら僕の前に来てくれた。

「いや、個人の趣味用に欲しいんだけど…」

 僕はそう答えて、素直に小説投稿サイトへ作品を書いて送りたい旨を説明した。

「なるほど~、え~と、ご家庭でいつも執筆なさってるんですか?」

 店員さんは営業スマイルを見せつつ訊いてくる。

「いや、車で外出した先とか…家ではあまり書かないなぁ、だから持ち運べるノートパソコンが良いかなって考えてるんだよね!…我が家にはパソコン無いしさ」

 そう答えると、店員はちょっと驚いて、

「えっ !? …普段パソコンを使ってらっしゃるんじゃないんですか?」

 と言って僕の顔を見た。

「うん!ま~ったくパソコン未経験者です、会社のパソコンも、見積書を作るときくらいしかいじらないもん」

 まっ正直にそう言うと、店員さんは顔を曇らせて

「え~と、まさかノートパソコンを買われたとして、御自宅のコンセントに繋げばすぐに使えるという訳ではないってことはご存じですよね?」

 と言った。

「えっ !? そうなの?」

 真顔で僕がそう応えると、さらにガックリとパワーダウンした表情の店員が、やれやれといった感じでノートパソコン使用開始までの超パソコン初心者向け説明をくどくどと始めたが、それを聞いたところであちこち OA 用語や PC 用語がちりばめられた話は到底そんなの理解出来るはずもなく、僕は途中から半ば呆然状態となって聞き流す他なく彼の口元を見ながら店の真ん中で立ち尽くしていた。

「…と、まぁ以上の準備をして頂くことが必要になります」

 店員が自分の義務責任を果たしてスッキリしたかのような口調で言った。

「う~ん、ちょっと何言ってるか分からないです…」

 正直にそう応えると、彼はあからさまにうなだれて、

「そうですかぁ~…… ! 」

 と、ため息まじりに小さく叫んだ。


 そして PC コーナーでの会話は途切れ、しばし空虚な沈黙の時間が二人の間に流れたのであった。


「…え~と、とりあえずパンフレットを2つ3つもらって、家で妻と相談してちょっと考えてみようかな…」

 店員の落胆顔を見ながら僕はそう言って、結局その店舗を後にしたのだった。


 しかしどう考えてもノートパソコンなんぞ自由自在に使いこなせることなど出来ないであろうと、今日の店員の対応から思い知らされた僕は、実際には妻と相談することなく、意気消沈しながら翌日会社へと出勤したのである。

「…どうやら僕にはノートパソコンは無理みたいだよ… ! 」

 昨日のヤ○ダ電機店の店員との一件を事務女子に話すと、

「そうですかぁ… ! 残念です」

 文明の利器を使えぬ昭和原人の僕に同情と憐れみミックスの気持ちを込めた言葉を返された。

「…例えばね、新幹線の座席なんかでスーツ姿のビジネスマンがノートパソコンでカタカタと何か入力してどっかにデータ送信したりしてさぁ、それで車販のお姉さんが回って来たら、あっ ! ホットコーヒーひとつ下さい!とか言ってさ、ノートパソコンをパタンと畳んで旨そうにそいつを飲んだりするじゃん !? …ああいうふうに小説を書いたりしたらカッコ良いだろうなぁ、と夢見てたんだけど… 悔しいです!」

 自虐的に僕はそう叫んでいた。


「…ノートパソコンがダメなら、ちょっと面倒くさいけど、スマホ入力で投稿するしかないですねぇ」

 すると事務女子が僕にそう言った。

「えっ !? ちょっと待って!スマホで出来るの?それ !! 」

 驚いて思わず叫ぶと、

「はい、出来ますよ!」

 彼女がこともなげに答えた。














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