第10話 2016年 6月10日~7月20日 放射線とシン・ゴジラ ②


 …という訳で、その後は予定通りに山形へ向かい、さくらんぼ狩りを楽しんだ僕たちだったけど、途中放射線による帰宅困難エリアの実状を目の当たりにして、気持ちには複雑な思いが交錯していた。


 …そして翌月、僕が待ちに待ってた東宝映画「シン・ゴジラ」が封切りとなった。

 日本の実写版ゴジラ映画は、前作「ゴジラ Final Wars 」から実に12年ぶりの放映となる。…ハリウッド版ゴジラ映画に不満と違和感を覚えていた僕にとっては待望のゴジラ邦画なのだ。

 …もともとゴジラは、単なるSF娯楽映画ではなく、かなり重いテーマを持って製作されて来た作品である。

 第1作が封切られた1954年の3月、アメリカは太平洋ビキニ環礁で水爆実験を行い、日本のマグロ漁船「第五福竜丸」が被爆、後日船長らが死亡する事件が起きた。

 当時それは大きな社会問題となり、そして年末に放射能怪獣「ゴジラ」が封切られたのである。

 度重なる水爆実験の核エネルギーを吸収し、海底に眠っていたジュラ期の恐竜が被爆変異して出現したのが「ゴジラ」なのだ。

 身長50メートルに巨大化し、口から吐く放射能熱線を武器に日本に上陸、東京の街を破壊するゴジラ。…破壊され炎上する東京の街のシーンは、太平洋戦争末期の東京大空襲からまだ9年しか経っていない当時の人々にはかなり重いリアリティーを感じさせたに違いない。

 つまり、「ゴジラ」は核兵器開発へのアンチテーゼと、放射能に対する恐怖を具現化した怪獣であり、円谷英二の特撮スペクタクルによってリアルにそのテーマが表現された傑作なのだ。

 以降、数多くのゴジラ作品が製作されて来たが、「反核、被爆への恐怖」というテーマは常にゴジラがその存在とともに負っているものである。


 当然ながらハリウッド版ゴジラではその点はほとんど描かれず、単なるモンスターパニック映画としてCGを駆使した派手なパフォーマンス映像をアピールしているように思える。

 生粋のゴジラ映画ファンを満足させる作品にならないのは当然だ。


 という訳であの原発事故の後、未だに放射線被害が消えぬこの時に、12年ぶりの「本家日本の東宝ゴジラ」が放映されることに、僕は大きな期待とワクワク感を持って映画館に向かった。

 何しろ今回の「シン・ゴジラ」は、特撮映画の職人と言って良い、樋口真嗣と庵野秀明が製作した作品。僕は東宝ゴジラの本来のキャラクターに沿った話にしてくれるんだろうと思っていた。


 …だが、公開初日に胸躍らせて観に行った結果は…正直言って僕からしたら全く期待外れのガッカリな出来であった。

 最もガッカリしたのが、ゴジラの本来のキャラクターや誕生の意義などとは全くかけ離れた未知のモンスターとして描かれていたことだった。

 何か分からないけど、身長118メートルとやたらでかくなった怪物が海から出て来て訳もなく東京を壊して、日本政府や防衛省や経済界やらスタッフ連中がおたおたアタフタするだけの話になっていた。(観た人なら分かると思う) … しかも後半からラストへのストーリー展開がやや雑な印象である。

 映画の内容はこれ以上言うとネタバレになるので、これで黙ることにするけど、従来のゴジラ映画ファンはアレをゴジラ作品とは認めないだろう。


 ただし、この映画自体の興行成績は良好で、観客動員数も伸び、大ヒット作品となった。

 …まぁそれは不思議でもない。

 庵野&樋口のコンビと言ったら、エヴァンゲリヲンを製作した二人だ。

「シン・ゴジラ」以前にはすでに、新劇場版エヴァンゲリヲン「序」「破」「Q」が公開済み、そして今回のシン・ゴジラはまさしくキャラクター不明の「使徒」のように描かれている。

 つまりこの映画は、エヴァンゲリヲンのファンをそのまま劇場に引っ張って来ることに成功したのである。

 …という訳で、従来のゴジラファンには大きく不満を抱かせながらも興行的には大ヒットを飛ばし、さらにはこの年の「日本アカデミー賞」にも輝いた作品となった。

 クソ面白くない !!

 あんな「ゴジラもどき」の亜流エヴァンゲリヲンみたいな作品が日本アカデミー賞だとぉ?

 なまじ「シン・ゴジラ」を観てしまったばっかりに僕はその後しばらく不満にイラつく日々をおくることになったのである。


「期待してただけにクソつまんなかったなぁ…シン・ゴジラ!あんなのゴジラじゃ無いよ全く !! 」

 僕がそう言って愚痴ったある日に、妻マキが、

「そんなにアレが気に入らなかったんなら、あなたが代わりにオリジナルストーリーのゴジラを書いて東宝映画に送ってやったらどう?」

 と思いがけないことを言ってきた。

 僕は一瞬戸惑ったけど、そう言われてみれば、

「…なるほど ! 」

 と思った。

 その時、僕の脳裏には先月福島県の常磐道で見た放射線量表示パネルや、薮に埋もれた帰宅困難エリアの家屋の景色が浮かんで来た。


「よし、本来のキャラクターでゴジラを描いてやる!…エキサイティングなオリジナルストーリーを書いてやるぞ!」

 僕の心に急に火が着き、胸中がいきなり盛り上がって来るのを僕は感じていた。









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