第8話 2011年 5月1日~ 5月 5日 ② 松島の状況
僕たちは松島の海岸通り (国道45号線) 沿いの観光客用駐車場に車を停め、愛猫みにゃんをリュックに入れて背負うと車を離れた。
リュックのサイドジッパーを少し開けると、みにゃんはそこから顔を出して右手の海に散らばる松島の景色を眺めた。
今日の天気は薄曇りの空、沖合いの島影はやや霞んでいて、観光歩きにはちょうど良い涼しさだった。
…まだ震災から2ヶ月足らずの今日は、ゴールデンウィークにもかかわらず観光客はまばら、さらに言えば海岸通り沿いに軒を並べる土産店はみな一階の店舗部分ががらんどうで何も無い状況になっていた。
もちろんあの巨大津波に全てさらわれてしまった結果だろう…逆に言えば波に押し寄せられ、ぶちまかれた雑多な瓦礫や物などが散乱した状態から懸命にそれらを取り除き、片付け、清掃してようやくここまで…観光客を受け入れられる状況までもって来たのに違いない。とても一口では言えないような大変な思いと労力をかけて来たんだろうなと推察した。
そんな中、一軒だけ、二階建ての土産店がその二階部分で商品を並べて営業しているのを見つけた。
店には入らなかったが、おそらく名産の笹カマボコなどを頑張って販売しているのだろう。…店には入らなかったけど、応援したい気持ちになった。
という訳で応援したい気持ちのまま朱塗りの橋を歩いて雄島に渡り、日本三景の海と島々を眺め、その後松島の代表的スポットの五大堂に行ってみた。
土産店舗などには津波などの影響がハッキリ表れていたけど、松島の景観自体は変わらぬ美しさを保っていた。
海に散らばる白崖の島々はそれぞれ青松の鮮やかな色を載せ、その間を白い観光船がゆっくりと行き交う、全くもって観光地らしい絵が、生で僕たちの眼の前に広がっていた。
しかし…今日の観光客の姿は少なく、せっかくの絶景はまるで僕たちだけが独占しているかのような感じだ。
ただし、もちろんそれは良いことではない…。
次に僕たちは海べりに建つ「観瀾亭」という史跡建造物に行ってみた。
この建物は、伊達政宗が豊臣秀吉から桃山城を拝領したときの、城内にあった茶屋一棟を最終的にこの地に移築したもので、県の有形文化財の指定を受け、一般解放されている。(拝観料は大人200円)
…というような説明板を見つつ、建物外観を眺めていると、拝観受付窓口のお姉さんに笑顔で、
「よろしかったら中でお抹茶セットでも如何ですか?…」
と言われた。
多少歩いて足もくたびれて来たのでそれは正直とても甘い誘惑だった。
「お抹茶セットは是非とも頂きたいんですけど、僕たち今は猫を連れていまして…拝観入場出来るんですか?」
僕はそう応えて背中のリュックをお姉さんに見せた。…リュックの側面 (ジッパーの隙間) からみにゃんが顔を出してお姉さんに「ニャ~ ! 」と小さく鳴いた。
「あら~っ !! そうだったの~ !? …可愛いわねぇ!」
お姉さんは驚いた顔を見せたけど、
「…本来はペット入場はご遠慮頂いているんですけど、今日はお客様も少ないですし、せっかく猫ちゃんと松島まで来て下さったんですから入場して下さい、猫ちゃんは放さないで下さいね」
と言って僕たちを受け入れてくれた。
…思いがけぬ特別措置に感謝しつつ、僕たちは門を入って海を見下ろす縁側席に座ってお抹茶セット(和菓子一品付き)を頼んだ。
…周りには他にお客もいなかったので、みにゃんをリュックから出して縁側に座らせる。(リードは装着)
今日は太陽が薄曇りの中に隠れ、暑さが遮られた空の下、爽やかなそよ風を感じつつ、さざ波揺れる松島を眺めながらみにゃんと一緒にお抹茶セットを頂いて二人と一匹はへよ~んと寛いだ。
「いや~、ラッキーだったね、空いてて ! …」
「でも松島の人たちにはラッキーじゃないやね ! …」
などと言いつつもやはり絶景を見ながらのお抹茶は美味しかった。
…その後、遊覧船に乗ろうかとも思ったけど、さすがにそれにはみにゃん同乗は無理だろうということで諦め、民謡「大漁節」で有名な瑞岩寺を参拝したのち、僕たちは松島を離れた。
仙台方面に向かい、高速道路に乗って帰路についたが、市街の東側を走る高速道路 (仙台東部道路) を走行しながら見た景色は、かなり衝撃的なものだった。
道路自体は土を盛った土手上に路面があり、車はそこを走る訳だが、道路右手 (西側) は普通に住宅地になっているのに対し、道路左手 (東側かつ海側) は一面茶色い土砂に覆われ、家屋は見えず、土砂の間から傾いた電柱がぱらぱらと立っているだけだった。…おそらくこっち側は田畑が広がり家屋がポツポツとあるような田園風景だったと思われるが、津波はここまで押し寄せて景色を一変させてしまったということか……結果的にこの道路が最終防波堤となり、西側は無事だったのである。
「…分かりやすくて、やるせない景色だなぁ」
「そうだね…」
「ニャ~…」
二人と一匹はそう呟きながら仙台を後にしたのであった。
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