第7話 2011年 5月1日~5月5日 ① 松島へ

 テレビ画面は宮城県松島からの情報を映していた。

 松島といえば、日本三景の一つに数えられる東北の景勝地だ。

 映像には、地元の観光協会のスタッフらしき女性が懸命に訴えている姿があった。

「…私たちも何とか、またお客様に松島へお越し頂けるようにと頑張って、このゴールデンウィークから松島巡りの観光船を就航させることと致しました。復興への道のりはまだまだ途上ではありますが、多くの皆様に来てもらえるようお願い申し上げます!」

 …それを見てマキは、

「観光客が行くことが復興の手助けになるなら、私たちも行ってみようよ!」

 と僕に言ったのである。


 という訳で僕とマキは、愛猫みにゃんを連れて、車で自宅を出発した。…ゴールデンウィークに突入した五月一日の夜のことである。

 夜に出発するのはもちろん連休中の渋滞を避けて行くためだ。

 松島へ向かうならば千葉県からだと常磐道ルートで行くのが便利なんだけど、あの原発事故の影響で福島県の浜通りが通れないため、福島から宮城県に抜けるには東北道が走る「中通り」経由で現在は行くしかない。

 だが、千葉県から東北道に乗るとなると、埼玉県岩槻~群馬県館林~栃木県佐野経由となり、関東圏内でかなり遠回りになってしまうのだ。

 なので、僕は東北に行く時のオリジナルルートで行くことにした。

 それは、流山~野田~板東~結城~真岡~那珂川~黒羽~白河へと抜ける一般道ルートである。

 これは栃木県内を「東山道」と言われる奥州街道(国道4号線)の裏街道で抜けるルートであり、現在は国道294号線となっている。

 里山風景の中をマイペースで走れる快適なドライブルートなのだ。


 …星空の下、車の少ない国道を調子良くアクセルを踏んで来た僕も、しかしさすがに夜中の0時を過ぎて眠気と疲労感を感じてきたので、「道の駅 東山道 伊王野」に車を入れて眠ることにした。

 栃木県は蕎麦の産地。…この道の駅は蕎麦打ち場所があり、旨い蕎麦を出す食堂もあるが、真夜中の今はひっそりと数台の仮眠クルマが駐車場に止まっているだけだった。

 そして僕もすぐに睡魔に呑まれて行った…。


 …別に急ぐ旅でもないけど、翌朝は早く目覚めた。

 助手席のマキはまだ寝ていたが、僕は車から出て大きくうめきながら伸びをして、トイレに行った。

 外はすでに明るくなっていたので、鳥の鳴き声が聞こえる中を車に戻ると、僕は素早くエンジンをかけてスタートした。


 緩やかな登り勾配の国道を北上して栃木県から福島県に入り、白河インターから東北道に乗ってさらに北へ向かう。

 …朝まだ早く、車の少ない東北道から見る福島県中通りの景色は、山の若葉がまぶしかった。

 福島県と言っても、実際には県土はかなり広くて、白河~郡山~福島といった中核都市が南北に並ぶ「中通り」、いわきから途中今回事故が起きた原発がある双葉町を経由して相馬へと続く太平洋岸の「浜通り」、そして県の西部に独自の文化歴史を経て栄えてきた「会津」と地理的に3エリアに分かれている。…それぞれのエリアは阿武隈山地や磐梯山塊などで仕切られているので、原発事故の影響は中通りや会津エリアにはほとんど無いんだけど、「福島原発」の事故と報道されてしまったから、風評被害は全県下に広がっているらしい。酷い話だ。

 だいたい、自分たちの国なのに日本の人たちは自国の地理に疎い奴がほとんどだ。最近はカーナビゲーションが普及したからか地図も読めない奴が車を運転しているんだからなぁ。

 ちなみに僕は小学生の頃から道路地図帳を自分の小遣いで買って読んでいた。父親がドライブに連れて行ってくれる時はナビゲーター役だった。

 愛用していたのは東京地図出版社製の「ミリオンデラックス道路地図帳」だったが、最近は出版を廃止したのか本屋から姿を消してしまった。実に残念なことである。


 車は国見インターを過ぎて福島盆地からの下り坂をするすると走り、宮城県へと入って仙台市の泉インターで高速を降りて海へと向かう。

 仙台市街の北側は低い山がだらだらと連なる丘陵地帯で、山あいの道 (県道8号線) から右折し松島パノラマラインで丘越えすれば、突然眼下に海原が広がり大小の島々が散らばる日本三景の一つ、松島の絶景が目に飛び込んで来た。

「いや~、さすが松島!…良い眺めじゃん」

 …途中で車を止めて、僕は景色を楽しんだ。

 ちなみに日本三景とは松島の他に、安芸の宮島、天橋立のことを言うが、三景とも海の景色であり、さらに松島と天橋立は高い場所からのパノラマビューじゃないとその全貌が見えない。


 という訳で、しばしその絶景を眺めた後、僕は坂を下って松島の海岸へと車を走らせた。

 はたして間近に見る松島には、震災の爪痕が残っているのかどうかという一部不安な気持ちが、にわかに胸をよぎっていた。
















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