第5話 2011年 3月12日~3月27日 ③ ひたちなか市
僕とマキは愛車のマツダデミオ(当時) にて常磐道を北へ向かう。
…異変は守谷サービスエリアを過ぎ、谷和原インターを通過して切通し区間を抜けてから目につき始めた。
田園風景の中に点在する民家の屋根には、一様にブルーシートが掛けられていた。
「何だろう?…」
ハンドルを握る僕が呟くと、
「地震で、屋根瓦が落ちたからじゃない?」
マキが応えた。
「えっ !? …でもあんなに?…ほとんどの家の瓦が落ちたってことか!」
予想外の状況に僕は小さく叫んでいた。
さらに、走行中の常磐道の路面にもあちらこちらに補修の跡が目立ち始めた。
まず、舗装路面の亀裂にアスファルトを詰めて補修した箇所が多数見られた。
さらに、盛り土の土手上道路と、橋梁部分の路面に、段差が出来ていた。…おそらく、盛り土の土手路面が地震によって沈下したと思われる。
これもまた、取り敢えず補修ということで、段差をアスファルトで盛って、どうにか車が通れる程度にはした…といったところか。本当にやっつけ突貫工事でやった感が否めなかった。
「千葉県と全然状況が違うなぁ… ! 」
あらためて巨大地震の威力をまざまざと感じた僕たちだった…。
その後友部ジャンクションから東水戸道路に入って、いつもだと水戸南インターで降りて酒門から国道51号線を突っ切り、那珂川 (勝田橋) を渡って行くのだが、今日現在はまだ勝田橋が通行止めという話らしいので、高速で那珂川を越えて二つ先のひたちなかインターで降りた。
茨城県ひたちなか市は1994年に勝田市と、隣接する那珂湊市が合併して出来た市だ。
マキの伯父さんの家は旧勝田市内にある訳だけど、取り敢えず僕たちは降りたインターから近い旧那珂湊市街の中のスーパーに寄ってみた。
駐車場に車を入れると、その舗装面には何筋かの亀裂があり、砂泥が吹き出た跡が見られた。…那珂湊は那珂川河口の街、海に近い土地なので液状化現象が起きたようだ。
「何か、伯父さん家に買って行く物…何が良いのかな?」
二人でそう言って思案したが、それはもちろん手土産じゃなくて生活物資の話だ。
ところがスーパー店内に入って見ると、食料品、日用品、ペーパー類など、おおよその物が僕の家の近所のスーパーよりも多く揃っていた。
「…被災県に優先的に物資を届ける措置がとられたってことね!」
マキが言った。
…考えた結果、僕たちはミネラルウォーターのペットボトルを何個か買って伯父さんの家に向かう。
…那珂川の北岸沿いに西へと走り、伯父さん家に行く前に通行止めとなっている勝田橋の様子を見に行ってみた。
「うわぁ!…」
僕たちは状況を見て思わず声を上げた。
てっきり橋自体が破損しているものとばかり思っていたが、通行止めの原因は全く違うものだった。
勝田橋は那珂川両岸の土手に架かるコンクリート橋なので、橋を渡る道路は橋に向かって登り勾配のスロープ道になっている。
ところが今回の地震で橋両側の地盤が沈下して、橋両端で30センチメートル~50センチメートルくらいの段差が出来てしまっていた。…これでは車の通行は無理である。
那珂川土手に近いマキの母親の実家を訪問すると、痩身実直な伯父さんと小柄だがガッシリした体躯の叔母さんが僕たちを笑顔で迎えてくれた。
「…茨城県もかなりの被害があったんですねぇ、大変でしたでしょう?」
…ここに来るまでの道中の様子を話しながらそう訊いてみると、お二人は大きく頷きながら、地震発生時の恐怖を僕たちに話した。
「だけど、この家も壊れなかったし、みんな無事で良かったわ…」
マキがそう言うと、
「いや、実はお寺がねぇ…酷いことになってるのよ」
叔母さんがやや顔を曇らせて言った。
…お寺というのは水戸市内にある定善寺のことでこちらの家の御先祖と、六年前に癌で他界したマキの母親が眠るお墓がある所だ。
ひとしきり今回の地震の話やら世間話をして、先ほど買ったミネラルウォーターを渡すと、丁寧なお礼の言葉を返されてかえって恐縮してしまった。
…とりあえず様子も分かって安堵したので、僕とマキはそろそろ帰ることにした。
「…何のお構いも出来なくて悪かったねぇ…!」
叔母さんの言葉にまた恐縮しながら手を振って僕たちは車を発進させた。
…勝田橋が通れないので帰りも那珂湊に迂回し、漁港の様子を見に寄り道してみた。
普段なら、水産会社が直営している魚市場は誰もいない状態で、海産物や鮮魚が並んでいるはずの売り場はがらんどうだった。
津波が全て呑み込んで持っていってしまったらしい。
いつもは地元の人や観光客で賑わう「ひたちなか市の台所」が、消え失せていた。
「…………………!」
あまりの現状に言葉を失う僕たちだったが、それでもお彼岸の休日なので次は先ほど話に出た「お寺」に墓参することにした。
…だがしかし、その「お寺」ではさらに酷い風景を目の当たりにすることになったのである。
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