第4話 2011年 3月12日~3月27日 ② 震災の影響

 ひたちなかの伯父さんの家というのは、妻マキの母親の実家で、茨城県ひたちなか市の那珂川に近い田園にある一戸建てである。

「那珂川に架かってる勝田橋が通れなくなってるらしいの!…ってことは地区孤立状態?…になってるのかも!…那珂湊の漁港も津波を被ってダメになってるって !! 」

 マキが僕に言った。

 しかし水戸や日立のエリアは現在JR常磐線も不通の上、常磐道も通行止めになっているので僕たちで何をする事も出来ない。

 マスコミは宮城や福島の報道はしても、茨城県の状況は全くニュースにも取り上げていなかったので詳しいことは何も分からなかった。

「私のお父さんが、やっと今日ひたちなかと連絡がついたらしくて…そしたら地震の被害が思ったより相当酷いらしいの…!」

「えっ !? … 茨城県もか?」

 僕はマキの報告に驚きを隠せなかった。テレビニュースは茨城県や千葉県など関東エリアについてはほとんど報じていなかったのだ。


 …だが、間もなく首都圏の暮らしを大きく揺るがす知らせがやって来た!

「計画停電」である。

 福島原発がダメになった訳だから、当然ながらその分の電力供給が不足するので、東京電力は首都圏でエリア別に一定時間停電させることにしたのだ。

 僕の勤める会社では、顧客管理から売り上げデータ、見積書作成まで全てパソコン入力のプリンター発行でやっている (もちろん他の会社も同様だろうけど) ので、電気を止められると仕事にならない。

 …という訳で本社の経営管理室スタッフは大慌てで対策に走った。


 しかし幸か不幸か結果的には私の会社のエリアは営業時間帯での停電はほとんど無く終わり、さほどの影響は出なかった。

 しかし、ホッとしたのもつかの間、さらに大変な事態が突然やって来てしまうのである。


 それは週末の朝、会社はお休み…僕とマキは車で出掛けるためにいつものガソリンスタンドに寄ろうとして、流山街道にハンドルを向けた時に見た情景から始まった。

「えっ !? …何だコレ!」

 …流山街道 (県道5号線) は沿道のいつものガソリンスタンドを頭に延々と車の列が続いていた。

 実は3月11日の地震発生後に、千葉の京葉コンビナートの石油タンクが爆発事故を起こし、ひょっとしたらその影響なのか首都圏のガソリンがにわかに供給不足に陥ったのである。

 …呆然としながら車を列につかせ、結局2時間かかって給油完了。

 その後車を走らせながら他のガソリンスタンドを見れば、「ガソリン売り切れ」「本日ガソリン入荷無し」などという表記を出して臨時休業しているところなどもあった。

「これじゃあうっかり車で出かけることも出来ないなぁ…」

 僕は思わずそう呟いていた。


 しかし、ガソリンが容易に給油出来ないとなると、僕の勤める会社の中でも大変なことになっていた。

 何しろ会社の主業務というのが、客先現場に車輌を運転して行って作業するものなので、ガソリンを入れられなきゃ話にならないのだ。

 この問題もまた、本社経営管理室スタッフを慌てさせたが、社用車と特約している馴染みのガソリンスタンドの他に、新たに特約する給油スタンドを増やして、何とか業務に支障を出さずに済ますことが出来た。社用車は特約スタンドでは優先的に給油してもらえるのである。

 しかし一般の個人の車は相変わらず給油出来るスタンドを求めて迷走し、かつ順番待ち渋滞の列に並ばなければならなかった。

 ここでも僕は思ったが、せめてガソリン携行缶(10リットルくらいまで)を手持ちでやって来た人には優先的に給油してくれれば良いんじゃないか?…

 そうすれば少なくとも車の給油渋滞はかなり少なくなると思う。

 こういう非常事態なんだから行政指導で特別措置にてやってくれれば…と思うが、原発対応でも下手うったその頃の政治家の無策を見れば、なおさら非常事態には素直に役立たずのままなのは目に見えていた。

 また、ガソリンに限らず物資流通も当然あちこち途切れてスーパーやコンビニではカップ麺や水などのストック食料品があっという間に無くなり、生活面でも不安な状況になりつつあった。

 また、供給電力の不足に対応して大きく節電対策がとられ、街のイルミネーションは自粛、街灯は消され、テレビの深夜番組は無くなり、プロ野球は日程や球場の変更がなされた。ドーム球場だとデーゲームでも照明が要るため屋外球場に変更されたり、ナイターからデーゲームに変わったりの対策がとられたのだ。

 また、球場の照明も何割かカットされ、少し暗くなった中でゲームが行われることになった。


 そんな中、東関東の高速道路を管理する Nexco東日本は突貫工事にて地震で傷んだ高速道路を補修、常磐道で茨城県へと向かうことが可能になったので、マキと僕はひたちなか市の叔父さんの家を訪問してみることにした。

 …そしてお彼岸連休の中、車で自宅を出発し、流山インターから常磐道に乗り僕はアクセルを踏んでスピードを上げて行ったが、利根川を渡って茨城県に入るとそこには僕たちが想像もしていなかった景色が広がっていた。








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