第3話 2011年 3月12日~27日 ① 震災報道


 そして、以降のテレビ報道は連日、地震と津波に関することばかりになった。

 マスコミによる現地取材や被害映像などで状況が明るみに出る度に、被災地のダメージの大きさがとてつもないことが分かって来た。

 さらにそのテレビ映像を見ていると、途中福島県の原子力発電所が爆発を起こした。

 僕は偶然そのシーンをリアルタイムに見て驚き、思わず「やばっ !! 」と叫んだが、テレビ局の用意したコメンテーター (おそらくどこかの大学あたりから呼んできた年配の学者) は画面上で、

「大したことありません、大丈夫でしょう」

 と発言した。

(原発の建物が内側から爆発したってのに大丈夫な訳ないだろ! 放射能漏れるだろ?…この学者こそ大丈夫なのかっ !? )

 僕はテレビ画面に向かって思わず胸中で叫んだ。


 結局、津波の被害は全く未曾有な大きさで、多くの海辺の街がまるでSF映画みたいに壊滅した。

 そして原発爆発による放射能もまた、福島県の海辺の街から多くの人々を避難所へ押しやり、それまで平和だった街をゴーストタウンにした。

 …やはりテレビ局が急遽スタジオに引っ張って来た学者コメンテーターの言うことなど、信用出来るものじゃなかったのだ。

 さらにその福島原発は他の棟も爆発する可能性があり、人為的にメルトダウンさせる必要がある、とニュースキャスターは伝えていた。

 すると、民主党の菅直人首相が、原発現場に対して直接指図したり、現地視察を急に言い出したりして、かえって現地での救助救出活動している人々を混乱させるような行動に出た。

 これは結果論ではなく、素人でも解ることだ。

 今日まで安全第一に原発を動かして来た現場スタッフの人たちが必死に対応している中、全く運転に関わってない奴が半端な知識で上からあ~しろこ~しろと指図したら、普通の人間なら迷惑と怒りの感情しか出て来ない。

 首相が突然現地視察するとなれば、現地ではそれなりに出迎えて案内しなけりゃならない。そんなことに無駄な時間を費やしたところで、せいぜい首相は「頑張って下さい」程度の言葉を残してとんぼ返りとなる。

 正直僕は、

「バカなのか?菅直人 !! 」

 と思ってしまった。


 さらにマスコミ報道が進むにつれ、被害の深刻さがどんどん広がって行った。

 その一方で、被災地や被災者、避難所へ支援物資を届けようという動きも当然ながらわき起こったが、震度7という烈震と、街を呑み込み壊滅させた大津波の傷跡は道路や交通機関にも及んでいて、さらに携帯電話も繋がらない、情報も通信も一般には事実上断たれた状況にあり、思うように配給できていなかった。

 被災地区の家族身内の生死さえ分からずに心を痛めている人も多くいた。


 僕はこの時、この未曾有の国難というべき大災害の時は、政府の指示でマスコミの報道管制が出来ないものかと感じていた。

 マスコミは、こうした時はどうしても被害の酷い場所の、さらに酷い状況の絵が撮れるところに集中する。

 家族の生死も分からずに茫然と立ちすくむ人にマイクを向けて、

「今、どんなお気持ちですか?」

 などと平気で訊いたりするのだ。

 しかしこうした災害の際に必要な情報とは、どの場所がどういう被害で、被災者がどういう状況で、必要な支援物資(衣類、食料、医薬品、その他日用品など)は何か、届ける手段はどうすれば良いのか?…というようなことだと思う。

 そんな必要な情報を伝える使命を果たせずに、何のためのマスコミなのか!

 だから例えば、被災した県別に放送局の取材を仕分けさせたら良いと、この時思った。

 宮城県はNテレビ、岩手県はTテレビ、福島県はFテレビ、茨城県はAテレビとか…。

 そうすればかなり細かく、より精度の高い取材や、適格な情報を迅速に報道しやすくなると思うので、何故これを政府や有識者コメンテーターらが誰も言わないのか不思議に思う。

 何らかの利益損得メンツしがらみにこだわっているのか?


 話は変わるが、私と妻はプロ野球大好きの巨人ファン。…毎年東京ドームの開幕戦のチケットを取り、観戦に行く。

 しかしこの3月のこの震災により野球日程は大幅に変更、東京ドームの3月の開幕戦は無くなった。

 仕方ないとは言え、ガッカリである。

 そんな時、スポーツ新聞の紙面から阪神の主力K選手の談話を見た。

「もう野球をやるどころじゃない!」

 そう語るK選手に僕は怒りを覚えた。

 野球やることで人生やって来た奴が何言ってるんだ!それなら今すぐ引退して現地に飛んでってアンタが救助作業のボランティアでもやるのか?

 …そんなことにイラついてたら、妻から仕事中の私の携帯に報告が入った。

「茨城の、ひたちなかの伯父ちゃんのところが今回の地震で大変なことになってるらしいの!」

 …その時、震災被害が僕らのところまで押し寄せて来たのを感じた!








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