風吹けば……

クロロニー

風吹けば……

「先輩! 風吹けば桶屋が儲かるゲームしませんか!」

「なにそれ?」

「『風吹けば桶屋が儲かる』って言葉は知ってますよね?」

「あれだろ、風が吹いたらなんやかんやが起こって最終的に桶屋が儲かるやつ」

「そうそう! それです! それを二人で交互に繋げていって、『桶屋が儲かる』というゴールを目指すゲームです!」

「えー、それそんなに楽しい? こじ付けていくだけでしょ。虚無じゃん」

「絶対楽しいですって!」

「さては何かの動画にでも感化された?」

「ほら、他人が楽しそうにやってるの見ると楽しくなりませんか?」

「感受性が豊かだこと」

「先輩が乏しすぎるだけですよ! たまには先輩も私を楽しませてみてくださいよ。ただでさえ陰気なオタクなんだから!」

「そーいうのは人生に余裕のある人間がやる余興なんだから、俺がやんなくてもいいんだよ」

「ごちゃごちゃうるさいですね! じゃあ先輩からどうぞ! 風吹けば?」

「走りたくなる」

「イヤー!! キチ〇イ! 妖怪Bダッシュ! 網走脱走囚!」

「いや、お前も陸上部なんだから向かい風の練習くらいしとけよ」

「いやですよあんな爽快感の欠片もない苦行」

「そんなんじゃいつまで経ってもタイム縮まんないぞ」

「別にいいですよ。それこそタイムとか記録なんて人生に余裕のある人間のためのものですよ。じゃあ次は私ですね。えーと、走りたくなると、えーっと、なんだろう。走りたい……? 知らない感情ですね」

「なんで陸上部入ったし」

「我々陸上生物の逃れ得ぬ定め、ですかね……」

「いや、部からは逃れられるだろ。そんなに嫌ならやめちまえよ」

「先輩それパワハラです」

「そっか……ごめん」

「先輩程度の人間力で年功序列程度の圧力を振りかざさないでくれます? こんな部活程度の活動で、ただ虚しいだけですよ」

「どう考えてもお前の言葉の方が暴力的だと思うんだが、該当するハラスメントは存在しないのか?」

「ありませんね。先輩は年功序列の無力さに打ちひしがれていてください」

「俺は近い将来ハラスメントハラスメントの第一人者になると思う」

「あっ、こういうのはどうです? 走りたくなると、足痛くなる」

「まだ続いていたのか……。というか走りたいのに足痛いってどういうことだ?」

「いやー、本当は走りたいんですけどねぇ、いたたたた。まだぐねったところが痛くて」

「ただの仮病じゃねーか」

「いつもお世話になっております」

「仮病のお前を世話した人全員に謝れ」

「言っても2回ぐらいですけどね」

「いや1度でもダメだからな? 信用だだ下がりだからな?」

「ちなみに仮病したっていうのが嘘だと言ったら、先輩からの信用は更に下がりますか? それとも元に戻りますか?」

「やめろ、人間のバグを利用しようとするな」

「まあ嘘なんですけどね」

「もう何が嘘で何が本当かわからないけど、とりあえず信用がゼロになることだけはわかった」

「ここまで嘘がつき合えると、なんだか気の置けない仲って感じがしますね」

「どちらかというと気の抜けない仲だな」

「……どう違うんですか?」

「……とりあえずお前の発する言葉全てがあらゆる観点から信用できないことがわかった」

「先輩の人間不信、早く治るといいですねー」

「他人事のように言ってるが、全てはお前次第だ」

「でも、信じるか信じないかはあなた次第です」

「都市伝説より信憑性が低いことを自覚して欲しい」

「それよりゲームの続きやりましょうよ。次は先輩の番ですよ? 足が痛くなったら?」

「安静にしてろ。風呂桶に氷水張ってさっさと足冷やせ」

「……おっしゃる通りで」

「ほら、これで桶屋が儲かったから終わりな。おめでとう」

「そんな投げ槍にならないでくださいよ。それとも長距離走から槍投げに転向でもするんですか? そんなんで儲かっても桶屋は納得しませんよ?」

「納得せんでも全然OK。問題なし。OKやから、もう帰る。……じゃあな」

「あっ、ちょっと待って。あったった! いったぁ!」

「おいおい、どうした?」

「いてて、ちょっと足ぐねっちゃいました。下駄箱のところまで負ぶってくれませんか、先輩?」

「……まさか仮病じゃないよな?」

「今ここで仮病使って何のメリットがあるんです? 歩くの嫌がる子供じゃないんですよ?」

「まあ、確かにそれもそうか。しょうがねえな。帰ったらちゃんと足冷やせよ」

「先輩は優しいですねぇ」

「……風が吹かなくても桶屋が儲かったな」

「……儲かりませんよ、絶対。その鈍感な頭、ちゃんと使ってあげてくださいな」

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風吹けば…… クロロニー @mefisutoshow

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