お題6 私と読者と仲間 『私も読者』

 私は読者あなたが嫌いだ。


 読者あなたは我儘で、協調性もなく傲慢で、相手をしてもらえないと直ぐにゴネて鬱陶しい。かまってちゃんだ。


 私は読者あなたが好きだ。


 読者あなたは気配り上手で、文章のミスをいつも教えてくれる。初めて感想を言ってくれたと聞きなんて、涙が出る程に嬉しかった。


 私は読者わたしが嫌いだ。


 読者わたしは好き嫌いが激しくて、同じジャンルの物語ばかり読んでいる。ランキングに映るものは全て面白いと感じないし、それを人の所為にしがちだ。


私は読者わたしが好きだ。


 読者わたしは、気に入った物語を自分のショーケースに並べる。少しずつ充たされる空欄は、いずれ星が沢山飾られた読者わたしだけの宝箱になるだろう。


「なぁ、愛?」


 私は小説投稿サイトの5周年記念に投稿する作品から筆を置いて、モニターに映し出された友人と顔を合わせる。


「なに?」


 眼鏡を掛けて寝ぐせだらけの頭を気にする様子も見せず、太郎は話を始める。


「この第6回目の課題『私と読者と仲間たち』って、ふざけてるのかね?」


 太郎の言葉に私は自信をもって答える。


「当たり前でしょ。こんなのまともな神経してたら、題材に用意しないわよ。どうせ参加者が多くなり過ぎたんで、全員篩いに落とすつもりなんじゃないの?」


 私はどうしようもなく、このお題が嫌いだ。


 私と読者との関りは当人同士だけのものであるし、色々と厳しい事を言われたことあるけど、それは心から有難いと思っている。インターネットに投稿している作家なんて、感想を寄せてくれる読者を何より大切に思っている。それぞれのエピソードは宝物であり、アマチュア作家にとってかけがえのない経験なのである。


作家として得た経験は、作品を書くだけでは得られない唯一無二の生きた経験なのだ。その経験は作者の知となり二句となって、息づいていく。そして小説を公開している様な作者は、そうした経験を他の作者に知られたくない物なのである。数多くの作品を預かって於きながら、そんなことも理解していないのかとガッカリした。


ついでにくっ付いて来た『仲間たち』なんて、完全にプライベートの事だ。作者が仲間とどのように話しているかを調べたがっている様にしか思えない。


私のではない。


 数多くの投稿者たちがどんな生活をしているのか、プライベートの様子を調べようとしていると思わずにはいられない。


「気分は良く無いよねぇ」


 私の思い過ごしで、被害妄想だと流されても良い。


「愛…俺投稿しないよ。ここ嫌いだから、投稿して無いし」


 太郎が面倒くさそうに呟いた。


「好きにすれば、私も好きに愚痴書いて仕立ててやるから」


 と言って見たけど、期日までに投稿できないだろう。私が住んでいるマンションでリホームをしている部屋がある。それは丁度私の部屋の真上で、その工事会社が下手くそな工事をしたせいでインターネットに衛星放送まで物理的にカットされたからだ。


 今日、3月22日月曜日中に、見に来ると業者から言われたが、同日の午前中までに復旧が出来るとはとても思えない。


 お陰でこの二日間の間は、かなりの量がある映画のDVDを再生しっぱなしだ。


「んじゃ、おやすみ太郎」


 スマホの通話停止をソフトタッチし、極々短い通話を終える。


「工事費用って上の階の人に請求できるよね?」


 被害に遭っているのは私だけではない。リホームしている部屋の下から、直進すること一列に被害が出ているのだ。


「さーて、愚痴はこんなもんで良いかな。今度はなに見よっかな…?」

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