お題5 スマホ 『位置情報確認中!』

 スマートフォン。


 この革新的な携帯端末が生まれたのは、1992年の事だった。それまでの積み重ねた努力の結果か、スマートフォンは姿形を変え世界に浸透して行った。


 そして100年後の現在。スマートフォンは、体に埋め込む超小型携帯端末として普及している。


「いたぞ!」


 起動警察隊が日本刀を片手に、民家に押し入ろうとした凶悪犯を発見した。人体一体化型スマートフォンによって、位置情報を読み取ったのだ。


「クソォオオォ!」


 犯人は最後のあがきと日本刀を振り回すが、機動警察隊によって容易く確保された。


 犯人がどれだけ自分に有利な証言をしても、体内に接続されたスマートフォンからデータを呼び起こせば、いとも簡単に真実が明らかになる。


「怖いねぇ」


 あらゆる物がデータで管理されるようになって、人々の生活は様変わりした。体内に寄生したスマートフォンは、外部からの強制力で持ち主の記憶を映像、文章問わず呼び出される。


 昔に使われていたスマートフォンによる位置情報は、オフ機能を削られて今では常に国に監視されている。


「くわばら、くわばら」


 データ通信技術だけじゃない、ロボット工学や医学も100年前とは比べ物にならない進歩を遂げた。何しろ人間が働く必要がほぼ無くなってしまった程だ。


 異星への移住が、20年前から始まったのを皮切りに発信機を埋め込むような人体一体化型スマートフォンへの反発もなりを潜めた。宇宙航海時代の始まりに、通信機のスペースを削れるのは大きな利点となった。


「…俺は御免だね」


 何処の時代にも変わり者がいる。


 先程まで捕り物を見物していた中年の男は、吐き捨てる様に呟いた。


「…自分の位置を常に見張られて、なんでお前らは笑っていられるんだ?」


 この時代の人間にしては珍しく、彼はスマートフォンどころか携帯端末の一つも所持していない。


 火星への移住を切り捨て、地球に残る事を選んだ者は多くいた。今その地球で活発化している市民活動の中で、人体に物を埋め込む事に反対する団体と、プライバシーの保護は人権に含まれていたのではないのかと主張する団体が合流して社会問題になっていた。


 人頭が増えれば、過激が生まれるもの。


 肯定派の多くが宇宙に旅立ったのを良い事に、過激派の一部が散発的なテロ活動を始めた。統括政府がテロ活動を認める訳もなく、硬質的な態度で弾圧を行った。その結果、過激派の実行犯が逮捕され、団体の本部も閉鎖された。


 これで全てが解決するハズだった。


 過激派と政府間の攻防の最中、巻き込まれた人々がいたのだ。最初こそ政府が謝罪をする事で静まっていたが、スマートフォンを持たない人間に過剰に反応する様になった市民の私刑が始まり手が付けられなくなった。


「…見つからねぇ内に消えますか」


 治安の悪化が始まると、丸いボールが坂を転がる様に手が付けられなくなった。そうすると、政府の部隊が出動しての繰り返し。


 男は自宅に帰り、数少ない情報源であるテレビを見て異常事態を認識した。


「全スマホ生産工場が、爆破された?」


 この日を境に独立戦争が相次いで発生していく事になる。後の世に続く、宇宙関戦争の第一歩となった。

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