第17話 青い海へBBQの材料を取りにいきました。

 翌日、師匠に湖の腕輪を見せると魔力が貯まった量としては半分くらいとのことだった。

 魔力循環の効率もあがり明日辺りにはいっぱいになるんじゃないかって話だ。

 最初に溜めた池の腕輪はなぜかルミンが腕にはめて、魔法で遊んでいた。


「こうやって貯まった魔力は自由に引き出すことができるんですよ」

 ルミンは俺の魔力を使って炎をだすと、その周りに氷の魔法で覆って幻想的なランプのようなものを作る。


「すごく綺麗ですね」

「でしょ? 人の魔力を無駄に使うのってとても楽しいんですよ」


 そんなことを言っていたが聞かなかったことにした。きっと俺のためにこんな魔法もあるっていうことを教えてくれているのであって、決して俺の魔力をダダ流ししているわけではないと信じている……信じたい……大丈夫だよね?

 結構頑張ったんだけど、本当に無駄遣いだったら泣くよ。


「師匠……冗談ですよね?」

 ルミンは俺にニコリと微笑んできただけで、否定も肯定もしなかった。

 氷の中の炎はゆっくりと燃えている。氷に反射することで炎の明かりがより輝いていた。


「それじゃあ、昨日は山へ楽しいピクニックに行ったので今日は海に魚を釣りに行こうと思います。コロンはどう思いますか?」


 ピクニック……昨日のはピクニックだったのか。

 そう聞くとすごく楽しそうな感じに聞こえるから不思議だ。


 だけど、普通の下位の冒険者がコカトリスに追いかけられたらトラウマになるレベルだけどな。


「はいっ師匠! 安全な修行がしたいです。もう死にそうな修行はしたくありません。強くはなりたいですが、闘技大会へ出場するのが目標なので怪我とかしないのがいいです。」

「残念です。そんな消極的な姿勢で弟子入りしていただなんて。師匠としてはショックで仕方がありません。ただ、今回のは昨日のとは違いますよ。海と言えば何を想像しますか?」

「溺れさせるとか? 溺水は嫌です」


「どんなイメージを持っているんですか。もっとまともですし、そんな危険なことをするわけがありません。白い砂浜に青い海と言えばなんでしょうか?」

「石を持って海にダイブ? あっ! 砂浜に生き埋め」 


「この数日でどれだけ悪いイメージになったんですか。海と言えば魚釣りにBBQでしょ! 想像してみてください。白い砂浜があって奥には青い海です。そこで釣りたての魚や貝を焼いてほふほふ言いながら食べます。頬に触れる風には塩の香りがして、夜には暗い海岸で焚火をしながらこれからのことを語りあうのです。師匠と弟子との信頼関係を築きあげる絶好のチャンスだとは思いませんか? 昨日頑張った戦士の休息ってやつです」


「えっ……そんな楽しそうなイベントでいいんですか? 辛くない修行がいいとはいいましたけど、でも全然修行にならなくないですか?」


 魚釣りにBBQでなにが修行になるというのだろうか? 

 でも、浜辺でBBQとかカッコイイ冒険者たちがやっているのを聞いたことはある。青い海に白い砂浜、そこで可愛い女の子たちとのひと夏の思い出……。

 悪くない。そんな修行も悪くない。


「修行はもちろん大切です。でも今まで冒険者になれなかったコロンが昨日しっかりと修行をした結果、コカトリスの卵をゲットしてきたんですよ。こんなに大成長した弟子には大変な修行だけではなくご褒美として楽しい時間も必要だと思いませんか? もちろん、少しは修行要素も混ぜますけど、キツイだけの修行の方がいいですか?」

「師匠、俺師匠のこと誤解していました。そんな修行もありですよね。飴と鞭があるから成長に拍車がかかるわけですよね!」


「そうでしょ。たまには息抜きも大切じゃないですか。理解の早い弟子で助かります」

 ルミンはすごく楽しそうな笑顔で俺を見てきた。

 空は快晴、なんていいBBQ日和なんだ。今日は一日思いっきり楽しむしかない。


 それから俺たちは近くの海岸へとやってきた。まわりには人がおらず、俺たちだけの貸し切り状態だった。いつもはもう少し人がいた覚えがあるが……今日は誰もいなかった。


 白い砂浜につくと、ルミンは黒熊くんから手漕ぎボートを取り出す。

「それではこれで沖まで釣りに行きましょうか。コロン漕いでください。これを漕ぐのも修行の一環ですからね。バランスをしっかり取らないと上手く進みませんから」

「師匠、こんな楽しい修行……一生ついていきます」


 俺はいきようとようとボートへと乗り込んだ。

 オールを使ってゆっくりと漕いでいくと、予想外に波の影響を受け、漕いでも漕いでも戻されてしまう。天気の割に波がだいぶ荒れてきているが気にするほどではない。


「まずはバランスをとることを考えてくださいね。ボートを転覆させてしまったり、回してしまうと女の子をデートに誘えなくなりますから」


 ルミンは楽しそうに両肘を顎の下に置いて俺の方を見てくる。

 これは、将来女性をデートに誘うための修行だったのか。より気合が入る。


「任せてください。これも魔力を循環させれば簡単にいけますよ」

 俺が魔力を込めるとオールはスイスイと水を掴み進んで行く。これは楽しい。


「どんどん沖に行きましょう。沖へでればでるほど大きな魚に出会えますからね」

 俺はルミンに乗せられてどんどん沖まで漕いでいく。

 こんな修行なら毎日でもしたい。

 沖へ行くと先ほどよりも波がでてきていたが、ルミンは平気な様子で俺に大きな釣り竿を渡してきた。

 

 ルミンが怖がっていないのに、俺がビビるわけにはいかない。


「少し天気が荒れそうですが、早めに魚を釣ってしまいましょうね」

「多少の天候の荒れなんて今の俺なら楽勝ですよ」

「それは楽しみです」


 ルミンのことをまだ理解できていなかった俺はまだこの時には余裕だと思っていた。


 しばらく釣りをしていると、予想外に入れ食い状態だった。

 両手で抱えるサイズの魚が何匹も連れて、黒熊くんの中に収納していく。

 これはもうBBQには困らない。むしろこれで数日間の食事には十分な量だ。


 段々と海が荒れてきて、先ほどまでの晴れていた天候が嘘のように雷が鳴り、雨の匂いがしてくる。そろそろ引き返した方がよさそうだ。


「師匠、そろそろ戻ってもいいんじゃないですか?」

「まだメインじゃないですよ。本格的な修行はこれからですよ? 雷と海が荒れるのを待っていたんですから」


「えっ? 本格的な修行ですか? 今回はBBQで楽しい修行じゃないんですか?」

「ご飯を最高に美味しく食べる方法を知っていますか?」


「最高級の食材と調味料に料理人の腕です」

「残念。空腹が一番の調味料です」

「それはずるくないですか」

「これから楽しいところですよ?」


 ルミンが船の上で立ち上がると、荒波がルミンを襲う。

「師匠!」

 荒波は小さな身体の師匠を飲み込むと、そのまま海底へと引きずりこんでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る