第18話 ダイオウイカとの戦い
「嘘だろ! どうするんだよこれ。あぁもう!」
一瞬何かいい方法がないのか考えたが、結局答えがないことに気が付き、そのまま海の中に飛び込んだ。海の中では流れが早く、自分の身体を支えるのもきつい。
だが、少し離れたところにルミンの姿が見えた。
だから戻ろうって言ったのに。
今さらそんなことを考えても仕方がないが、ルミンにもっと強く言えば良かったと自分も油断していたことを後悔する。
ルミンは意識がないのか、波の中でもまれながら波に翻弄されている。
一生懸命泳いで近づこうとするが、流れに飲まれ上手く近づくことができない。
水中で何度も手が空を切る。
ルミンは目の前でどんどん海底へと沈んでいく。
……ダメだ。このままじゃ助けられない。
『本格的な修行はこれからですよ』
ルミンの声が頭の中に響く。俺にできることは……修行の成果を見せるんだ。
両手から風魔法を放ち、ルミンの方へ一気に近づいていく。
慌てて魔法を放ったせいで、上手く加減ができない。
両手から放たれた風が一気に俺をルミンの方へと動かすが、今度は勢いがつきすぎて通りすぎてしまう。
水の中でも高速で移動が可能になったのはいいけど……けど息がどんどん苦しくなってくる。あんまり長い時間は水の中に潜ってはいられない。
どんどん深く沈んでいくルミンの側まで移動し、服を捕まえようとするが、またしても勢いつきすぎて通り過ぎてしまう。加減が難しい。
なにかルミンから泡がどんどん吐きだされていく。
ルミン今助けるからな。
魔力切れの気持ち悪さがあるが、そんなことにかまってはいられない。
徐々に加減をしつつルミンを抱きかかえ、そのまま海上へと一気に飛び出す。
「はぁ、はぁ、はぁ……呼吸が……危なかった」
ボートがだいぶ流されている。
「師匠! 今助けますからね」
ルミンが呼吸できるように顔を水面にあげながら、ボートの横までくるとボートの中にルミンを投げ入れる。少し乱暴になってしまったが仕方がない。それよりも今はルミンの呼吸を確認しなければいけない。
俺がボートの上に登ろうとしたところで、足に何かが絡んできた。
「なんだよ。こんな時に!」
水中には何か大きな影が見えるが、それがなんなのかわからない。
風は吹き荒れ、どんどん波が押し寄せてくる。足をバタつかせ、絡んだものを取ろうとしたところでいきなり海中に引きずりこまれた。
いったい何が起こったんだ? 俺の身体は自分の意思とは関係なくどんどん海中へと沈んでいく。
足に絡んだ何かを思いっきりナイフで斬りつけ、海上にもう一度浮かび上がり大きく呼吸し、再度水中を確認すると、大きな金色の目と特徴的な足がウニュウニョと動いている。
そこには大きなダイオウイカが俺を狙っていた。
ダイオウイカは俺の身長の数倍はあり、近すぎてわからなかったがどう考えても勝ち目がある魔物ではない。
だけど、ダイオウイカの足を斬りつけたことで完全に敵として認定をされているが怒りくるって攻撃をしてくるようなことはなかった。
かなり用心しながら狙ってきていることから、どうやら頭の悪い魔物というわけではないらしい。
どこまで認識しているのかはわからないが、俺が水中では自由に動けないのを知っているようだ。
ダイオウイカの身体を見てみると、そこには剣で受けたような傷が多数ある。
今までも冒険者などと戦ってきた歴戦の猛者のようだ。
ゆっくり考えていたいが、俺の方には時間がない。
まずは逃げることを考えたいが……水中のダイオウイカから逃げ切るだけの自信はない。なんとか……いやこの思考回路が間違っているんだ。
逃げることを考えるんじゃなくて、どうやったら勝てるかを考えなきゃいけない。
魔力を循環させながら顔のまわりに空気の層を作り出す。そんなに長くは持たないが、視界が開け少し呼吸が楽になった。
さて、どうやったらこのイカを倒せる?
先に動いたのはダイオウイカだった。足を延ばしながら俺を捕まえようとしてくる。ルミンのことも心配だが……まずは目の前の敵に集中しよう。
まわりの空間が照らせるように光魔法でうす暗かった水中を照らし出し、風魔法を使いながらダイオウイカの方へ高速で接近していく。
先ほどは加減に失敗して気持ち悪くなったが、最小の魔力で最大限の効果をだすことを考える。体内から魔力が減っているのを感じるが、俺のいいところは貯める量は少ないが回復力が早いことだ。
風魔法で十分に距離を縮めたところで炎の魔法でダイオウイカの身体を火で炙る。水の中では効果は薄いが、俺の水魔法とかよりは効果があるはずだ。
ダイオウイカは一瞬炎にひるんだが、さすがに水中での光にビックリしただけであまり効果がなかったようだ。
襲ってきていた足の動きが少しだけ止まっただけだった。
何か打てる方法はないのか。
ダイオウイカは少し警戒しながら俺のまわりをまわりだし、俺の死角へ回り込もうとグルグルと回転しだした。なにかないのか……魔力量の少ない俺でできることが……。
その時、海上で大きな雷がピカリと光った。
水中にいてもわかるほど空が明るくなる。
視線をそらした瞬間にダイオウイカが俺の両手と身体へと一気に足を絡ませ、海中深くへと引きずりこんだ。
必死に両手から風魔法を放ち、海上を目指す。
ダイオウイカの足がゴムのように伸びるが、徐々に海中へと引きずり込まれていく。このまま死んでたまるか。
伸びきっている足に風魔法を刃のように鋭くして斬り付けた。
俺はそのまま海上へと飛び出す。
「はぁ、はぁ、はぁ」
空には雷がなり海は大きなうなりとなって荒れ狂っている。
その中で、ルミンが乗った小舟が見えた。
小舟の上では……ルミンが笑顔で俺に手を振っていた。
はぁ? どういうことだ?
もしかして……やられたのか!?
ルミンは最初から気絶などしていなかったのか。
多分……海中に飲まれたことも予測積みのことだった?
今までの訓練もそうだった。ルミンは俺に自分で考えることをさせてきていた。
今回も自分で考え、行動させるためのものに違いない。
自分の魔力がないなら……他から魔力を流用すればいいのだ。俺が土魔法で地面から魔力を借りたように、ここには最高の魔力がある。
ダイオウイカが自分の魔力を使って水中から水を吐きだしながら飛び出してくる。
頭のいい魔物なだけに、俺の弱さに感づいたらしい。
足の先端が鋭くとがり、狙いもスピードも十分に俺を殺すことができる。
「ありがとう。おかげで俺は強くなれる。だけど、死んでやることはできないんだ。雷撃!」
空に大量に溜まっている雷の魔力をダイオウイカへむけて誘導する。
空に溜まった大量の魔力が俺の魔力に誘導されてダイオウイカへ直撃し海上を明るく照らしていった。
意外と簡単なことだったのだ。
気が付いてしまえばたいしたことではない。
自分に力がないなら借りてくればいいのだ。だけど、さすがにいきなりこのエネルギー量は……身体の中にある雷の魔力を循環させると、雷の魔法の感覚もしっかりとつかむ。
だけど、許容範囲を超えた魔力俺の身体は一瞬の油断で海へと落下していった。
パチッパチッと火が燃える音がする。
ここはどこだろうか?
うっすらと開けた目の前には大きなダイオウイカが転がっていた。
無理矢理にでも身体を起こして臨戦態勢をとる。
「起きました? 身体の不調などはどうですか?」
海に落ちたはずの俺は浜辺まで引き上げられ、砂浜に寝かされていた。いつの間にか天候は回復し、空には綺麗な星がでていた。
浜辺から見上げる満天の星空は優しく俺たちを照らし出している。
俺はじっくりと、身体に力を入れていく。
どこも痛くない。むしろ調子は良さそうだ。
「大丈夫そうです。師匠……わざと波にさらわれたんですか?」
「んっ……もちろんですよ。最近の人は与えられることに慣れてしまっている人が多いですからね。大切なのは自分の中にあるもので戦うことを知ることです。今回は及第点、花丸あげちゃいます」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
「なにかを教わるのはすごく大切ですけど、教わることよりも自分で閃ける能力の方が本当は大切ですからね。さて、それじゃあダイオウイカを美味しく頂きましょうか」
ルミンがナイフを取り出すとクルクルと回転させる。
「師匠俺が料理しますから」
ルミンが切り分けようとしているが、何が起こるかわからないので一応止めておく。せっかく捕った食材は大切だ。
「刺身ならできるかと思ったんだけど」
「せっかくの食材ですからね。師匠の料理はまた今度にしましょう」
「起きたばかりのコロンよりは……」
「師匠、座っててください。それならお茶を入れてくれると嬉しいです」
俺はさっと砂浜でBBQができるように準備をする。
釜土を作るにしても、最小魔力を循環させることができ作成スピードが速くなっている。
「ずいぶん上達しましたね」
「おかげさまで、魔力の循環がよくわかるようになりました」
BBQ用の準備をしてダイオウイカを焼きだすと、またいつの間にやってきたのか、ケットシーのナツがお皿を持って待っていた。
「さすがコロンさんですね。この近海の覇者であったあのダイオウイカを倒してしまうとは、そのお力に感服いたしました。これ少しですがBBQのネタにしてください」
ナツはポケットから大量の生きた魚をとりだしてくれた。
ナツのポケットも空間魔法でできているらしい。
今回は魚介づくめのBBQだ。
「また大量に焼いた方が方がいいですか? 親戚の方に持っていくなら焼きますけど」
「焼いてもらえるんですか? 前回の料理が本当に人気で仲間たちからの人気も高かったんですよ。焼いてもらえるとすごく嬉しいです」
「そんなことを言ってもらえると調子に乗って他の魚も焼いちゃいますね」
「さすが太っ腹!」
ナツが容赦なく大量の魚をポケットから取り出してきた。
「おっ……結構な量ですね」
「お願いしてもいいですか?」
「もちろんです」
それから俺たちは3人で魚料理を食べながらのんびりと満天の星空の下でBBQを楽しんだ。ナツは途中からどこから取り出したのかお酒をだすと一人で飲みだしてしまった。
かなり陽気な猫のようで途中から俺の肩を組んだり、キャットシーの妖精踊りとか言いながら踊っていた。なかなか楽しい奴だ。
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