第13話 コカトリス
俺が悪戦苦闘しながら、魔力循環に魔力の充填をさせられた翌日、俺は早朝から近くの火山の麓の森へ連れてこられていた。
俺は街からでるのが無理だと思っていたが、師匠が俺の手を引っ張りながら門を通過するとすんなり出てくることができた。
子供の前で恥をかきたくないという、変なプライドのせいなのか、はたまた師匠の安心感なのかはわからないが、それでも1歩前進できた気がする。
森の中では、師匠が歩くのめんどくさいから肩車をしてくれというので、現在肩車をしながら森の中を歩いている。
「賢者になるためには、自分の意識外にも注意をむける必要があるんだ。だから森の中では意識外になりやすい私のことも……イテテッ! だから言ってるだろ? 気遣いって大事だから、枝とかにも意識して」
「わかりましたけど、でも、足元が悪いんですよ」
まだ道が比較的整備されているが、それでも転ばないように足元を見ながら頭の上まで意識をむけていくというのはかなり大変だった。今後けもの道を歩いていくのことなどを考えると頭が痛くなる。
自分で歩いてもらいたいが……歩幅があわないので結局俺が肩車した方が早い。
「師匠こっちでいいんですか?」
「ん? 不満なんですか?」
「不満ではないですが、たしかこれ以上先に行くとA級のコカトリスとかの縄張りに入るんで、冒険者Bランク以上推奨エリアになりますよ」
「大丈夫ですよ。コロンはAランクくらいの冒険者なんでしょ?」
師匠は冗談のつもりなんだろうけど、もう少し現実味のあるランクを言ってもらったほうが嬉しい。Aランクなんて言われたお世辞どころか馬鹿にされているようにさえ感じてしまうからだ。
「はい? 師匠、自分のランク言ってなかったですけど冒険者ギルド職員なんでランクもらってないですよ。冒険者Eランクにすら入れなかったので」
冒険者ギルドではSランクからEランクまで階級がわかれている。Eランクになるためには街の外に一人で行って魔物を狩ってくるだけでの力が求められるので、一人で外に行けない俺はランク外扱いになっていた。
「そっ……そうなんですか。よくそれで賢者の弟子になろうと思いましたね」
師匠の視線が痛い。ごくごく真っ当な意見だった。
たしかによく考えれば俺の力じゃ賢者様の弟子になるなんて身が持たない気がしてくる。
でも……挑戦せずにこのまま自分の力がないからって見送っていたら、次のチャンスなんてあるかどうかわからない。
しばらくルミンの言う通りに森を進んで行くと、やがて道が終わりけもの道を進んでいくことになった。
「師匠本当に大丈夫なんですか? この道であってます?」
途中から道を外れ、けもの道を進んできている。
冒険者たちの足跡と山の方角からコカトリスの縄張りにすでに入っていそうだ。
ギルドの人に見られたら間違いなく笑われて馬鹿にされるに違いない。
ランク外の俺がこんなところに来ること事態自殺行為でしかないのだ。
師匠の魔法が使えるとは言っても……不安しかないがルミンはピクニックにでもきているかのように明るかった。
「もちろんですよ。何度も来てますから安心してください。でも、油断しているとそこの骸骨みたいになりたくなければ言うことを聞いた方がいいですよ」
ルミンが指をさした先には冒険者の骸骨が横たわっていた。結構な時間がたっているのか、魔物によって一部骨はどこかへ持ち去られている。
道具や武器などが、他の冒険者に持ち変えられていないので、この人が亡くなってから他の冒険者は来ていないらしい。
「師匠、冒険者カードだけ取ってギルドに届けてあげてもいいですか?」
「もちろんですよ。亡くなった人に祈りを捧げてあげましょう」
ルミンは器用に俺の肩から飛び降りてくれる。
冒険者ギルドの会則に、旅の途中で冒険者が亡くなっているのを見つけたら、冒険者カードを持ち帰ってきて欲しいというのがある。
冒険者は仲間を募って旅にでる奴もいれば、完全に個人で活躍するやつもいる。
家族がいればこの冒険者カードが戻ってくるだけでも、一つの判断材料になる。
それに、ここならまだ街から近いので家族が冒険者を雇ってくれば死体を見つけることもできるだろう。
ルミンは膝を折り両手を組んで、亡くなった冒険者に対して祈りを捧げてくれる。ルミンが唱えた言霊が光となって冒険者の身体のまわりをまわり、そして天高くまであがっていった。
これは聖魂送りと呼ばれる魔法で、聖属性でも上位の神官や巫女クラスでなければ使えない魔法とされている。
この魔法かけておくことで、亡くなった人は天へと導かれて行き、放置されたままでも骸骨兵士やゾンビなどにならないと言われている。
「師匠、名もなき冒険者のためにありがとうございます」
「いいんですよ。ここで私たちと出会ったのも何かの縁ですから。この世界は流転していると言われています。彼とこの世界でまた会えるかはわかりませんが、また別の世界でも会った時には力を借りるかもしれませんから。それよりも先を急ぎますから冒険者カード探してしまってください」
俺が、彼の冒険者カードを探していると後ろから声が聞こえてきた。この性格の悪そうな声はこないだ聞いたばかりだ。振り向きたくもなければ、相手にもしたくない。
「おぉこんなところで死体漁りとは、なかなかギルドの雑用だけでは食べていくのは大変らしい。それにしてもギルドの雑用がこんなところにいるなんてよっぽど死にたいらしい。まぁ街の近くだったら死体も他の冒険者に漁られているからな。実力がない奴は大変だよ」
そこにいたのはB級冒険者のケルクとその仲間たちだった。闘技大会まではまだ時間があるのでこの辺りで魔物でも狩りにきたんだろう。
「冒険者カードを探すのは冒険者として当たり前のことだろうが」
「当り前? そんなことしてるやついるか?」
ケルクがそう仲間に聞くと、他の男たちは笑いながら首を横に振る。
どうやら、こいつらは他の冒険者を仲間だとは思っていないらしい。冒険者同士が仲良くする必要なんてないとは思うが、でも最後にどこで亡くなっていたのかとか、知りたい家族だっているはずなんだ。
それを教えてやるのは冒険者として最低限必要なものだと思っている。
「コロン、相手にしなくていいですよ。死者を冒涜する人間には、それなりの罰が当たりますから」
「そうですね。冒険者カードを俺が届ければいいだけだし」
俺は無視をして冒険者カードを探す。
「せいぜい、自分の冒険者カードを忘れないように気を付けるんだな。あっお前の死体なんて貧弱すぎて誰も漁らないか。そこのクソガキもせいぜい魔物の餌にならないようにな。まぁ骨と皮だけじゃ魔物も食わねぇだろうけど」
男たちはどこが面白ろかったのかわからないが、笑いながら森の奥へと進んでいく。俺の握る拳に力が入る。いっそのこと殴りつけてやろうかと思ってところで、その手をルミンがとり、ゆっくりと開かせる。
「冒険者同士で争ってもなんのメリットなんてないですよ。これでコロンが手をだしたらコロンが悪者にされかねないですから。そうなったら私は悲しいですし。それに……大丈夫です。仕返しする機会は必ず来ますから」
「ありがとうございます。どっちにしろ殴ったところで勝てはしなかったのについ熱くなってしまって」
「さぁ、私たちは私たちの目指すものを探しに行きましょう。いつもの感じならもう少しだと思うんですよね」
ケルクたちのことは見なかったことにして、冒険者カードを探して、最後にもう一度手を合わせる。
気を取り直して、ルミンと森の中を歩いて行くと、大きな池の側までやってきた。
地図上では何度も確認したが俺はここまで来るのは初めてだった。
火山の下にある極楽の池だった。
なんとも毒々しい色の池で、背中に何か嫌な汗がながれる。
できることなら、今すぐここから離れたい。
これのどこが極楽の池なのかと言うと、一口飲めばまるで極楽に導かれるようにあの世へと行ける池ということらしい。
こんな毒の水を飲めるのはコカトリスの尻尾にある蛇だけだった。
普通の魔物は近づかないのでコカトリスが子育てするにはちょうど良いらしく、コカトリスの繁殖地になっている。
「多分、この辺りに……あった! あれです!」
ルミンが指差した先には紫色の樽くらいの大きな石?が置いてあった。
「なんの石ですか? 魔石にしては大きすぎですし、見たことないんですけど」
「この街ではあまり出回っていないんですね。あれはコカトリスの卵ですよ」
「コカトリスの卵って? 身体が鳥で尻尾が蛇の鳥ですよね? たしか尻尾を見ると石化するとかって話ですよね? あの鳥の卵ってこんなに大きいんですか?」
「実物見たことありますか? かなり大きいですよ。卵を狙うといっきに危険度が増してなかなか楽しくなりますよ」
「答えの予想はつくんですけど……一応聞きますね。この卵をどうするつもりですか?」
できれば外れて欲しいと心の中で必死に祈っていたが、俺の願いが通じることはなかった。
「もちろん、持って帰えりますよ。たまには栄養つけないといけないじゃないですか? それに最近の食事はコロンにご馳走になってばかりですから」
コカトリスの卵を持って帰るって、無茶ぶりすぎるだろ。俺の身体は、コカトリスに石化される前にすでに石化したように動かなくなっていた。
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