第12話 それって高確率で意識不明になるやつ!!

 俺が気絶から回復したあと、今度はまともに朝食を作る。師匠がどうやって暗黒物質を作り出しているのかはわからないが、料理をしっかり教えるのは闘技大会が終わってからになった。


 闘技大会までの合間に少しずつ基本は教えていくが、さすがに味見で気絶していたら俺の修行が進まないからだ。


 まずは俺の修行を優先してもらう。

「師匠、それでこの腕輪のことなんですけど」

「どうしました?」


「右手に池の腕輪をつけて、左手に湖の腕輪をつけて寝たんですけど、池の方にしか溜まってなかったんですよね。なにか原因とかってわかりますか?」

「壊れてはいないと思うんですけど」


 ルミンが俺から腕輪を受け取ると、魔力を出し入れしてみる。特に問題はなさそうだ。


「あっコロンっていつも、右手だけで魔法を使っていないですか?」

「えっ……あっでも確かにそうかもしれないです」


「ちょっと服を脱いでください」

「なんでですか?」


「いいから、言われたことはやってください」

 師匠は魔法のことになると言葉遣いが変わる。少女キャラから急に大人びる。

 俺は師匠に言われるがまま上半身を裸になった。


「下もですか?」

師匠がいきなちみぞうちに風魔法を打ち込んできた。先ほどよりも加減はされているが痛いものは痛い。


「師匠なんで……質問をしただけです」

「レディの前で下まで脱ぐなんて発想はやばい奴の発想ですよ。弟子の不始末は師匠の責任ですからね」

 ルミンが顔を赤めていて少し可愛いが、あまりにも理不尽だ。

 俺が回復するのを待って、ルミンに対して背中をむけたまま座らせられた。


「なにをするんですか?」

 師匠は俺の背中をペタペタと触ってくる。妙にくすぐったいというか、温かいというか。変な感じがする。


「ちょっと右手で風魔法を使ってみてください」

 俺は手のひらを上にして風魔法を放ってみる。 

 そよ風よりも少し強い風が手のひらからでてくる。


「いいですね。じゃあ次は左手でお願いします」

 今度は左手だけで風魔法を使おうと思ったが、まったく風が起きていなかった。


「これってどういうことですか?」

「コロンの場合、魔力の維持時間が少ないから、利き腕でしか魔法を使ってこなかったんじゃないですか? 魔力回路の接続が右手に集中しているんだと思います」

「それって何か問題なんですか?」


「賢者の弟子になるなら左右使えないと話になりませんよ。まぁこれは裏法則みたいなものなんですけどね。魔力を循環させる魔法とかの場合、左から循環させることで威力を倍増させるものとかがあったりするので」

「そんなことあるんですね! それはすごい」


 ルミンは俺の背中を二度ほどパンパンと叩いた。

 何をするつもりなのだろうか?


「少し痛みがはしりますが、男の子ですから大丈夫ですね」

「えっ」

 返事をする前に俺の背中に激痛が走る。その痛みは背中から左の肩、そして腕から指先へと走っていく。身体が熱い。腕がとれそうで思わず口から変な声がでそうになってくる。


 この痛みはかなりヤバい! だけど……この痛さ以上にルミンが作った暗黒物質の方が身体が受けたダメージとしてはでかい気がする。


 現に今意識を失っていないというのが何よりの証拠だった。

 変なところで役にたつものだ。

 どれくらいの時間がたったのかわからないが、徐々に身体の痛みが引いていく。少し熱っぽい感じの身体のだるさはあるが……。左手に力が入るのかグーパーと握ったり、開いたりをするといつもよりも感覚が強くなった感じがする。


「師匠、めちゃくちゃ痛かったですよ。痛いなら痛いって言ってくださいよ」

「大丈夫ですよ。今のところこれをやって意識不明になったのは1人しかいないから」


「意識不明ってめちゃくちゃ危ないじゃないですか。ちなみにそれって何人中ですか?」

「……30人中」

 ルミンが一瞬目をそらすのを俺は見逃さなかった。


「師匠、それで本当は何人なんですか? 怒りませんから」

「そういうこという奴ってだいたい怒るじゃん」


「言わない方が怒りますよ。それで何人ですか?」

「三人中です」

 結構な高確率だった。


「もちろん、安心してください。コロンをいれて3人ですから」

「それかなりの高確率で意識不明になるやつ!! 全然安心できる要素が一つもないわ」


「良かったですね。無事で」

「思いっきり他人ごと! 殴りたい。この幼女師匠を殴ってやりたい。もちろん、そんなことは思っても口にはだせないが」


「おーい。思いっきり口にでていますよ。それよりも冗談はこの辺りにして左手でもう一度風魔法を使ってみてください」

 俺は言われた通り、先ほどを同じように風魔法を使う。

 今度は右手よりも大きな風が左手から飛び出していった。


「今のって俺の魔法ですよね?」

「そうですよ、右手よりも本来は左手の方が利き手だったみたいですね。結構あるんですよ。魔法の利き腕と自分の普段使う利き腕が違う場合って」


「師匠、ありがとうございます! 一生ついていきます」

「げんきんな奴ですね。それができたら、両方の手のひらを向かい合わせて、そこに魔力を循環させてみてください」

 俺は言われた通りに魔力を循環させる。


「おぉーすごくスムーズに魔力が回っているのがわかります」

「コロンは意外とセンスがいいんですよね。そしたらそれをどんどん高速回転させてみてください。身体の中の魔力が動いているのもあわせて意識してくださいね」


 俺は言われた通りに身体の中を魔力で循環させる。なんだか、ほかほかと温かくなってくる。


「これが魔力操作の基本です。これができるとこんなこともできるようになりますよ」

 師匠は俺の目の前に手を広げた状態で突き出してきた。

 その指の先には炎の魔力が5つ浮かんでいる。


「師匠、魔法の扱いも天才的なんですね」

「もっと褒めてくれてもいいですよ?」


 師匠がやっているのは魔力の固定と呼ばれる高等技術だった。

 意外と簡単に思っている人が多いのだが、この魔力を指先に固定しておくというのはかなり難しい。


 俺も魔法は使えるが、基本的に下級の魔法使いができるのは体内の魔力を放出するだけだからだ。


 イメージとしては、俺は魔力を外にだすときに垂れ流し状態で魔法を使っている。

 だけど、師匠はその魔力を形として維持しているのだ。これには相当な集中力とコントロール力が必要になってくる。


 しかも、それを5本指全部の上でやっているのだ。

 これが1つくらいなら、練習すればなんとかできる。


 だけど、5つ同時に操作するというのは、並列思考で5つのことを考えながらやっているのと変わらなかった。俺には到底無理だ。

「師匠って本当にすごい魔法使いだったんですね」


「へへへ。一応弟子とかとっていましたからね。でも、コロンは呑み込みが早いのですぐに上達できますよ。50年くらい軽く修行すれば私を超えられると思います」


「50年たつ頃にはさすがに賢者になるか料理人になってますよ」


「それもそうですね。それじゃあ、身体の中で魔力循環をしながらこの湖の腕輪に魔力を注いでいってください」

 ルミンに吞み込みが早いと言われて調子に乗りそうになったが、これはなかなかハードだった。


―――――――――――————————

コロン「魔力循環の感覚が段々とわかってきました」

ルミン「そうでしょ? あとは私の手料理が食べられれば完璧よ。ほら口あけなさい」

コロン「……はっ⁉ 夢か」

悪夢を見るほどのトラウマだった。


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