第11話 ダメだ……これは社会的に死ぬやつ

「師匠、少し疲れるくらいで修行になるんですか?」

「大丈夫ですよ。まだ修行の入口ですから。まず、魔力池、魔力湖、魔力海っていう3種類の腕輪を知ってますか?」


「いえ、聞いたことないです」

「この腕輪は池から順に溜められる魔力量が変わるんですよ。海の方が魔力量が多く溜められるようになります。それで、コロンにはこの腕輪に魔力を溜めてもらおうと思います。魔力が入ると中の魔石に段々と赤みが強くなって輝きだしたら終わりです」


「池から始める理由は何かあるんですか?」

「腕輪に慣れるっていう意味もあるんですが、池の方が魔力が入りにくいというのがあります。いきなり海の腕輪からやってもいいんですが、コロンのように魔力が少ないと一気に吸収されて気絶する恐れもあるので気を付けてくださいね」


 そう言って3つの腕輪を渡してくる。

 まずは池の腕輪をつけてみる。

 自然に魔力がとられる感覚はない。

「それでは魔力を込めてください」

 ルミンに笑顔で言われて俺は魔力を込めていくが、すぐに気持ち悪くなりそうになる。

「はい。辞めて」

「ふぅ。すぐに気持ち悪くなりそうになるんですよね」

「はい、込めてくださーい。でもさっきよりも腕輪に入る量を少なめにイメージしてくださいね」

「えっすぐにですか?」

「はい。ほら入れて」


 俺は言われた通り魔力を少なめにして込める。先ほどよりも気持ち悪くなるまでの時間が長くなる。そしてまた、気持ち悪くなる前まで入れて休憩して、すぐに入れる。それをひたすら繰り返す。


 全然気持ち悪くはならないけど、さすがにこんなに魔法を連続して使用したことがないので少しずつ疲労がでてきた。


「これってなんの修行なんですか?」

「正直に言うとまだ修行にすら入ってないですよ。これは外部に魔力を蓄えているだけですからね。コロンの場合、魔法の才能はあるんだけど魔力を溜めておく器が小さすぎるんですよ。イメージとしては滝の水をバケツで受け止めているような感じかな。だから、まずはそのバケツで他の大きな樽に魔力をうつしていく感じです。でも、これを真剣にやっておけば魔力の流れを今までよりも把握しやくすなると思いますよ」


 たしかに徐々に入れる量が少なくしていくことで、魔力の流れがより鮮明に感じることができる。


「俺って魔力回復は早いってことなんですか?」

「結構常人の中では早いと思います。ただ、この腕輪はそうそう世の中に出回るものではないから魔力量が少ない人っていうのはそのまま世間に埋もれていくことが多いんですよ」


 ルミンの話では魔石など元々魔力を込めた石などはあるが、この腕輪のように魔力を繰り返し保存できるものは少ないとのことだった。


「師匠! 俺にこの腕輪ください」

「それはできません。でも、逃げずに最後まで修行を受けられたら腕輪の作り方なら教えてあげますよ。ただ、作れるかどうかは才能などもあるのでわかりませんが」


「それはめちゃくちゃ楽しみですね! なんとしても修行を完遂します」

「最初、池から始めてこの宝石が満タンになって光り出したら湖の腕輪に交換してください。最後は海の腕輪が満タンになれば終了ですが、1週間で海まで行ければいいくらいに思っていてくださいね。地味で疲れますけど外部に予備の魔力があるのとないのでは全然変わってきますから。目標としては普段生活をしながら、あまった魔力を腕輪に流したり、止めたりを意識せずに自然とできるようになるといいですね」


「わかりました!」

「適度に休みながらで大丈夫ですので。無理はしないでくださいね」


 それから俺はほぼ丸一日魔力を腕輪に込め続けた。最初は魔力が入れすぎてしまったり、その感覚に慣れるのが大変だったが、それが徐々に鮮明になってくると、何か他の作業をしながらでもできるようになった。


 ルミンは……そうそうにテントの中で色々作業をしていたようだが、いつのまにか寝てしまったようだ。


 俺も、普段こんなに魔力を使い続けたことがないので、段々と眠気が……。

 でも魔力を入れないと終わらない。

 

 だけど眠い。

 そうだ。寝ながら充填すればいいんだ。俺って頭いい。


 収納魔法から毛布を1枚引っ張りだし、寒くないように焚火に少し太めの木を投げ入れておく。これでしばらくは大丈夫だろう。


 池の腕輪がいっぱいになったら、そのまま湖の腕輪にも充填ができるように、両手に腕輪をしてそのまま横になった。


 寝ながらだと感覚が変わってつい魔力を注ぎすぎてしまい、少し寝苦しいが疲労感の方が勝ってしまい瞼をあけていられなくなる。

 

 俺はそのまま眠りについた。虫の鳴き声が聞こえ優しい風が頬をなでるそんな夜だった。


 翌日起きると、俺はいつの間にかテントの中で寝ていた。

 たしか、昨日は外で火の番をしながらそのまま毛布一枚で寝たと思っていたんだが……ルミンが移動してくれたのだろうか?


 眠い目をこすりながらルミンを探すが、もうすでに起き出してしまったのかテントの中にはいなかった。


 右手につけていた池の腕輪はすべて魔力が満たされたのか、魔石が赤くキラキラと光っている。


 昨日寝る時よりもかなり光が増しているので確実に寝ながら充填はされている。


 意外と余裕じゃんと思ったのだが、湖の腕輪は全然入っていなかった。いったいどういうことなのだろうか? 腕輪が壊れているってことなのだろうか?


 池の腕輪を外して湖の腕輪にだけ魔力を込めてみると少しだけ赤みが入る。壊れてはいないようだ。あとでルミンに相談してみよう。


 そろそろ起き出して、朝食の準備をしなければ……俺は大きなあくびをして身体をのばす。


『ボフッ!』

 テントの外から、前にどこかで聞いたことのある不吉な音が聞こえてきた。あの音は……嫌な予想しかしない。


 俺が急いで外に出ると、ルミンが鍋ごと暗黒物質を熊の口の中に突っ込もうとしているところだった。やっぱり熊が涙目に見える。


「師匠……また失敗したんですね」

「おっ……おはよう。今日は天気がいいから卵でも採りに行こうと思っているんですよ」


 師匠が誤魔化そうとした暗黒物質は慌てていたせいか熊の口から外れテーブルに落ちてしまった。


「答えになってないですよ? 料理なら俺が作りますから」

「いやだ―私だって料理のできる料理女子になりたいのーお願いします。私にも料理をするチャンスをください」


 どうやら師匠は料理ができないことがコンプレックスだったらしい。

 テントから俺がでると……ん?


「師匠! いったい何回失敗したんですか!」

 暗黒物質はすべて証拠隠滅されていたが、そこには大量の卵の殻やベーコンを包んであったと思われる木の葉などが大量に置かれていた。


「なぜバレたんですか! 証拠はすべて黒熊くんにしまったはずなのに!」

 ルミンは本気で言っているらしい。俺が無言で散乱した卵のからなどを指さすと、ハッとしたような顔をして目線をさける。


「食べ物で遊んではダメですよ」

「遊んでないもん。遊んでるんじゃないんだもん……コロンのバカァ!!」


 師匠はそのまま走って逃げようとしたが、とっさに服を掴むんでしまい逃走に失敗する。


「師匠、逃げないでくださいよ」

 力で俺に勝てないとわかると、師匠が俺の前に手をだす。えっ嘘でしょ?


「ぐふっ」

 タメなしでの風魔法が放たれる。俺を殺すために放ったわけではないのに身体が空中へと浮かび顔面から地面にキスするような形になった。


「くそっ師匠とは言っても……」

 逃げる師匠を追いかける。


「来るな変態!」

 少女を追いかける俺……ダメだ。これは社会的に死ぬ。


「師匠! ちゃんと話、聞きますから逃げないでください」

 俺が大声で呼びかけると、まわりのテントから冒険者たちが顔をだしてきた。


「なんだ?」

「どうしたんだ?」

「変態とか声が聞こえてきたけど」


 少女を追いかける俺の姿を見た冒険者たちのが武器に手をかける。

「師匠! ちゃんと話ましょ!」


 騒ぎを聞いて師匠の行く手に一人の冒険者がでてきた。

「嬢ちゃん、アイツがただの変態で逃げるなら俺が手を貸すけど……どうする?」

 ルミンは今にも泣きそうな表情をしながら、立ち止まると小さく首を振る。


「嫌なことがあっても、話し合わないといけない時もあるからな。もし、あれがただの変態ならいくらでも俺たちがボコボコにしてやるから、安心するといい。ただ、師匠なんて呼ばれているからにはわけがあるんだろ?」

「うん」


 その冒険者に促されて、俺の方へ戻ってくるのを見て、冒険者たちはまた、それぞれのテントに戻っていった。


「師匠、ちゃんと話をしましょ」

「別に、無駄に材料を消費してたわけじゃないもん。せっかく頑張ってるから料理を作ってあげようとしただけだもん」


「そうだったんですね。師匠の優しさありがとうございます。とりあえずテントへ戻りましょうか」


 師匠と一緒にテントに戻ると、師匠が証拠隠滅を図ろうとしていた暗黒物質がテーブルに転がっていた。相変わらずヤバい臭いがしてくる。


「師匠が料理をしてくれるのはすごい嬉しいんですよ。ただ、俺だけ魔法を教わるのも悪いので、俺に料理を教えさせてくれませんか? 俺にはまだまだ足らないところがありますけど、師匠がもしできないことがあるなら、俺にだって教えさせてもらいたいんです」


「わかりました。コロン……私に料理を教えてください」

「もちろんいいですよ。まずは弟子の料理の腕前を確認しないといけないですね」


 俺がそう言って、師匠が作った料理を思いっきり口の中にいれると、あまりのまずさに、そのまま半日ほど意識を失った。


 一瞬で俺の意識を刈り取った暗黒物質はやはり食べ物ではなかったらしい。

 この暗黒物質がどんな魔法よりも最強なのではないか?


―――――――――――————————

コロン「あの暗黒物質どうやって作っているんですか?」

ルミン「料理って爆発だと思うんです。だからこうやって魔力をバーンって」

コロン(……弟子入り簡単に決めすぎたかもしれない)


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