第10話 俺を知らないのか→(えっ有名な人なの?💦)

「別に俺が誰を師匠と呼ぼうが関係ないだろ? それに俺たちはもうすでにここにテントを張っているのに移動しろっていうのはおかしいじゃないか」


「うるせぇな。お前俺を知らないのか? B級冒険者のケルク様だぞ。幾多の街を股にかけ活躍しているんだ。お前のような雑用係が何十年立っても口すら聞いてもらえない立場なんだからな」


 ケルクのまわりには手下のような奴が何人かいるが、自分で自分を様で呼ぶヤバい奴だとだいたい決まっている。


 グッドルは顔が広い奴だが、こんな奴しか友達がいないんじゃないかと思うと心配になってくる。むしろ、こんな友達ならいらないと思ってしまう。


「B級冒険者はすごいと思いますけど、だからと言って師匠のテントをどかす理由にはなりません」

「コロン、相手にしないで。テントをどかして欲しいならどかして、別の場所へ行こうよ」

 ルミンは俺の服を引っ張りながら、か弱い少女のようだ。

 俺が守ってあげなくてはいけない。こんな理不尽なことがあっていいはずはないんだ。


「この嬢ちゃんは空気が読めないらしいな。目障りだから絡んでるんだよ。あっさり行かれたらつまらないんだろ」

 ケルクの仲間がルミンの食べかけの食事が置いてある机を蹴り飛ばした。

 派手な音と共に食事が地面に落ち、散乱する。


「弱腰なお前らは地面に落ちたパンでも食べているのがお似合いだよ。ほら邪魔だからどこかへ消えろ」

「……るさん」


「あっ? なんだよその生意気な目つき。あれかないいこいいこして欲しいのかな? フハハハ!」


 ルミンの体内で魔力が渦巻いているのが手に取るようにわかるが、こいつら全然わかっていないのだろうか? それとも自殺志願者なのか?


「ゆるさん!」

「あぁ? どうゆるさねぇのか言ってみろ!」


 ルミンは空中に手をかざし、目の前で手を交差させ炎の剣を出現させると、流れるような動きで朝食をダメにした男の髪の毛を切り落とした。


 髪の毛は一気にチリチリと燃え出し、切られた男は急いで水場へ走って逃げていった。ルミンはさらに他の男たちへも切りかかろうと剣を構える。

 俺も含めだが、ほとんど反応できていない。


「ご飯の恨みは怖いんだぞ」

 ルミンの目には大きな涙が沢山溜まっていた。

 たしかにあんな暗黒物質を日々食べていたら、普通の食事のありがたみがあるだろう。いや、そういう問題じゃない。

 

 これ以上騒ぎを大きくするのは彼女のためにも、俺のためにもならない。

 俺はルミンと絡んできた冒険者たちの間に身体を無理矢理割り込ませる。


「できれば、俺たちは揉めたくないんだ。さっきの失礼な男はうちの師匠を怒らせたからあぁなったけど、お前たちは違うよな? 余計な仕事を増やさないでくれると助かるんだけど」


「あっ……アイツが調子に乗ったのがいけなかったな。俺たちは関係ない」

「それなら良かった。人は見かけではないからな。今後は気を付けて絡む相手を見定めるといいと思うぞ。師匠も朝食はまたすぐに作るからその物騒なものはしまってくれると助かります」


 ケルクはもっと突っかかってくると思ったが、あっさりと尻尾をまいて逃げていった。俺もビックリしたが、炎を形にするなんて下級魔法使いでは、そんな芸当できない。魔術言語だけではなく、魔法にも精通しているようだ。


 それにしても……少し力がつくと見せびらかしたくなる奴が沢山いるから困る。

「師匠助けて頂いてありがとうございます。ご飯作りなおしますね」

「うぅ……私のご飯が……」


 ルミンは本気で泣いているようだった。

 よっぽどご飯を食べたかったようだ。


 仕方がないな。俺は新しく卵を焼きながらナイフとりだして木を削り細い棒を作ると、そこにルミンの顔を書いた紙をつけて旗を作ってあげる。

 

「師匠、これをどうぞ。師匠の旗付きの専用ご飯です」

「おぉー私専用ですか! すごいですね!」


 先ほどまでの泣き顔が、弾けるような笑顔に変わった。

 どうやら機嫌は治ったようだ。


 親父さんのところで子共用のご飯も作っていたかいがあった。でも、こうやって見ると年相応の子供のようにも見える。

 大人びた時と、子供の時の差がある。もしかしたら、弟子がいたくらいだから小さな頃から大人の対応を求められていたのかもしれない。


 俺の師匠だけど甘えさせてあげられる時には甘えさせてあげた方がいいのかもしれない。

「師匠、それで食べながらでいいんですけど俺の修行はどうするんですか?」

「まずは、魔法を沢山使ってもらいますよ」


「ん? そんなことをしても魔力量は増えないんですよね?」

「うん残念だけど、いきなり魔力量は増やせないんです。だけど、増えないなら無理矢理増やせばいいんだよ」


 彼女の言葉を聞いて俺の頭の中はにはハテナでいっぱいになった。

 どういうことなんだろうか?


 増えないなら、無理矢理増やせばいい?

 なんだこの不吉な言葉は……?

「魔力がなくなると人はすぐに活動限界が来て意識を失ったり気持ち悪くなったりするのは知っていますよね?」

「それはもちろんです。最近は意識なくなることはなくなりましたけど、すぐに気持ち悪くなったりしまうので」


 魔法を覚えたての頃、今よりさらに魔力の少なかった俺は、魔法を使うと気持ち悪くなるのを通り越してすぐに意識が飛びそうになっていた。


 最近ではやっと使いすぎると気持ち悪くなるという、身体の防衛反応がでてきてくれるようになったがなんとも悲しいくらいの魔力不足だ。


「今回はそれを気持ちが悪くなる直前まで繰り返してもらいます」

「なるほど……ん? 意識失うまでやれとかっていうスパルタな感じじゃないんですか?」


「今回は目的が違うんですよ。魔力量を一から増やそうと考えたら失神寸前までやってもらうのが一番効率はいいんだけど、それで増えていくなら、コロンの場合もっと増えていてもいいはずなんだよね。毎日料理する時とかに魔法の才能無駄に使ってきたんでしょ?」


「無駄ってことはないですけど、毎日使ってましたね」

「魔力の回復スピードって失神するまで使うと、魔力量が増える可能性があるんだけど、回復するのは遅くなるんだよ。だけど、気持ち悪くなる前まで魔力を使うと回復するのは早いんだよ。しかも、コロンの場合、その回復スピードは結構早い方だと思うんだよね」


「なるほど、なるほど。つまり……?」

 回復が早くなることと、俺の魔力量が少ないことがいったいどういう関係があるんだろうか? なるほどといいつつ全然理解できていなかった。


「コロン、不安はあるだろうけど安心して欲しいの。少し疲れるだけだから」

 ルミンの笑顔は子供の笑顔だとは思えないほど邪悪な笑顔だったのは、俺の勘違いだと思いたがったが、俺は早速弟子入りしたことを後悔することになった。


―――――――――――————————

コロン「さっきの炎の剣俺にもできるかな?」

ルミン「誰でもできるわよ。こうやってぐわんってやって、がらんってお腹の中からね! 簡単でしょ?」

コロン(……弟子入り簡単に決めすぎたかもしれない)


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