第8話 作った料理は暗黒物質だった

「ルミンは今日どこに泊まるんだ?」

「私は……冒険者広場で寝るつもりですよ」


「テントとか持ってるのか?」

「それは問題ないです。これでも旅人ですので」


 冒険者広場とは、各町にある大きな広場のことだった。宿に泊まれない冒険者などが自由に泊まれる広場で早い者勝ちでテントなどを張ることができる。


 ただ、マナーのなっていない冒険者もたまにいるので気をつけないといけない。

 この街の冒険者広場には炊事場や井戸なども常備されているので、冒険者だけではなく、旅費をケチりたい商人なども沢山が利用している。


「テントの設営手伝おうか?」

「いいんですか? ありがとうございます。何から何まで助かります」

「もちろんいいよ。子供が困っていたら手伝うのが大人だからな」

 

 冒険者広場につくと、いつもより沢山の冒険者がテントを張って休んでいた。まだ、賢者様の情報が流れて少ししかたっていないが、外から冒険者が着ているってことは、別の街でも賢者様がこの街に来るって情報が流れていたってことだろう。


 可能性はそんなに高くなくても、賢者様の弟子になれたら、冒険者をやっているよりも夢は広がる。仮に弟子になれなかったとしても従者でもいい。


 賢者様は滅多に街民の前にでてくることはかなり少ない。人知れず街を救い、あとからその功績が発表される。まさに俺の時がそうだった。


 人前に出るのは恥ずかしがっている賢者様だけど、その裏側では街の権力者や王室とも繋がりがあるという話だ。

 ゲスイ話だが、その権力を狙っている奴も多いらしく、なんとかして賢者様とお近づきになるべくつきまとっている奴もいるという。


「コロン、どこにテントを張ればいいですか? おーい、大丈夫ですか?」

「悪い、少しボッーとしていた。テントを張るなら……あそこの端の方でいいと思うよ。あそこならよっぽど人が多くならない限り変な冒険者に絡まれることもないと思うし」


 俺が指差した場所は冒険者広場でも端の場所でゴミ捨て場や、水場から一番遠い場所だった。女の子が一人でテントを張るなら、絡まれないことが一番だ。


 俺の家に泊めてやることもできるんだけど……見かけの割にしっかりしているし、ずっと面倒を見てやるわけにはいかないからね。

 どこかで一線を引いておく必要がある。


 自分でテントを張れるなら張った方がいいし、張れないなら他へ行った時に使えるように教えておいた方がいい。

 魔物肉を与えるよりも狩り方を教えなければいつまでたっても成長はしないからね。


「それじゃあテントをだして」

「えっと……見て驚かないでくださいね?」

「何を恥ずかしがっているんだよ。テントくらいみんな同じだろ?」


 ルミンは少し緊張した面持ちで黒熊のぬいぐるみの口からスノールン性のテントを取り出した。熟練冒険者が憧れる今一番人気のテントだった。


 このテントだけで俺の一年分の金が飛んでいくはずだ。

「どこかのお嬢様なのか?」

「そんなことないですよ。では組み立てお願いします」

「丸投げかい!」


 そうはいいつつも、俺もついスノールンのテントを触れることに興奮していた。触れた瞬間わかってしまった。俺が使っているテントとは素材からして違っていた。

 

 すごい。防魔、防水、防火……その他沢山の魔法陣が図柄として組み込まれている。一般人が見たらただの絵にしか見えないが、この洗練された模様が一つ、一つ魔法力学の法則に沿って作られていた。


「すごいな。魔力循環方式で最小限の魔力で最大の効果がでるように描かれているのか」

「コロンこの魔術言語を読めるんですか?」

 ルミンが驚いたような顔で俺の方を見て来た。

 これくらいの魔術言語であれば、みんな知ってると思うんだけど……そんなに驚くようなことではない。


「さすがに全部は読めないよ。それができていればギルドで雑用なんてやってないからね」

「それもそうですけど、魔術言語は理解が難しくて魔法学校でも中上級にならないと習わない問題ですよ。じゃあここの部分がどうなっているかわかりますか?」


「どれどれ? うーん。あれかな3点魔力の応用でここに力を集中させることで魔力消費を抑えているってことかな?」


「すごいじゃないですか。そうなんですよ。これは私が考えたんですけど誰にも理解してもらえなくて悲しかったんですよ。じゃあこっちはわかりますか?」

「そっちは……って自分で考えたとか天才じゃねぇかよ」


「細かいことは気にしないでください。それよりもこっちですよ」

「まぁいいか。俺も知らないことを知るのは楽しいことだからな」


 俺たちはテントを適当に建てると、そのまま朝まで魔術言語について語り合った。相手が少女だってことを忘れてしまうくらいルミンは博識で天才だった。


 きっと彼女みたいな人間が賢者になるのだろう。彼女の話を聞けば聞くほど、俺がいかに身の程知らずだったのかを思い知った。こんな田舎のタダの人が目指せるものではないのだ。


 彼女のように才能豊かに生まれてきた人を嫉妬してしまいそうになる。

 だけど、俺はこの1週間できることをやろうって決めた。


「コロン、料理を作って欲しいんだけどお願いしてもいいですか?」

「もちろんだ。任せろ」


 寝不足のまま俺たちは朝食をとってから解散することになった。

 ルミンは非常に楽しい夜だったけど、今日はこのまま無駄に惰眠をむさぼりたいと言っていた。


 俺はルミンが使いやすい高さで釜土を土魔法で作ってやる。

 別に必要はないんだけど、昨日色々教えてもらったりしたお礼に細部の飾り絵にまでこだわったて作った逸品だ。

 なんだかんだ言って女の子だからな。


「コロンは土魔法と相性がいいんだね」

「細かい飾りとかを作るのは土魔法が一番得意かな。俺は魔力量が極端に少ないから、一から作る火の魔力とかよりは土は現物を操作したりできるから消費魔力が少なくていいんだよね」


 俺はそのまま釜土に火を入れて、風魔法で風を送りながら太い木に火をうつしていく。

 その間に、収納魔法のところに入っていた卵と麦パンにベーコンを取り出す。

 フライパンにベーコンと卵をのせ、コップを取り出して水をそそぐ。


「……コロンはいくつ魔法が使えるんですか?」

「たしか使うだけなら8種類くらいかな? とはいっても、魔力がないからすぐに魔法が使えなくなるんだけどね」


「でも、その割には今いろいろ使っていませんでした?」

「俺も詳しくはわからないんだけど、俺の体内で作られる魔力と、魔力を貯蔵できる量のバランスが悪いみたいなんだ。だからすぐに空っぽになるけど、すぐに回復できるみたいで」


「ほーう。なんとも面白い身体なんですね」

「面白いかはわからないけど、そんなことより食事の準備をするからベーコンと卵が焼けるの見ててくれないか?」

「……もちろんです」

「なんだ今の間は? 料理できないのか?」

「そんなわけない……ですよ。料理くらい余裕です」


「一人旅してるんだから、料理スキルがないわけはないか。ちょっとテーブルを準備してるから、焼きすぎないうちにフライパンをどかしてくれればいいから」

「任せておいてください」


 俺はテーブルを準備して、あとテントの中を少し整理してやる。

 これから寝るにしても、昨日色々な魔術道具について話し込んでしまったせいでテントの中が汚くなっている。


『ボフッ!』

 テントの中を掃除していると外からなにか不吉な音が聞こえてきた。

 なんだあれ?

―――――――――――————————

コロン「ボフッってなんなんだ?」

ルミン「犬の鳴き声ですかね?」

ルミンの苦しい言い訳だった。


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