第7話 千載一遇のチャンス

「さぁいっぱい食べろ」

 俺たちの目の前には色とりどりの料理が並べられていた。


「親父さんこんなにいいんですか?」

 俺が火竜の息吹亭に彼女を連れて行くと親父さんは困った時はお互い様だと言って料理を沢山だしてくれた。まだ夕方の営業時間前だったというのもあったかもしれない。


「もちろんいいに決まっているだろ? 支払いはコロン持ちだからな」

「ちょっと! こんなに沢山の食事代なんて払えないですよ」


「大丈夫だ。それは後で俺のお願いを聞いてくれるだけでチャラにしてやるから。まずは冷めないうちに食べろ。ほら、嬢ちゃんもどんどんいけ」


 親父さんはニカッと笑うと次から次へと料理を運んできてくれる。一体どうしたっていうのだろうか?


 親父さんは小さな皿に小分けにしながら、できるだけ沢山の料理を食べられるように作ってくれた。仕事前なのにかなり手間だろうに。


 俺も厨房に立つと言ったけど、まだ店を開けてるわけじゃないから座ってろと言われてしまった。


「コロン、全部の料理をお前には教えたから今日だした料理は全部作れるよな?」

「もちろんです。まぁ今じゃ俺の方が上手いって言ってくれるお客さんも多いですからね」


「言ってろ。そこで、俺はお前にこの店を任せたいと思っているって話をしたと思う」

「親父さん、それについては……」


「いいから最後まで聞け」

 親父さんはいつもの優しい笑顔ではなく真剣な眼差しで俺の目をまっすぐ見てくる。


「俺はお前にこの店をやってもいい。俺には妻も子供もいないから、俺にとってはお前が息子みたいなものだ。正直、ギルドでお前がどんなヒドイ扱いを受けていたのかも知っている。だけど、俺はあえてそれを見てみぬフリをしてきた。ってお嬢ちゃんがいる時にこんな話をし始めて悪いな」


「私は大丈夫ですよ。むしろ、すみません。親父さんにとって大事な日だったんでしょ?」

「いや、これも何かの縁だからそのまま聞いていてくれていていいよ」

「わかりました。私はいないものだと思って頂いて大丈夫ですので」

 ルミンはレモンの入った水をゴクゴクと飲みながら、私は聞いていないとでもぬいぐるみと遊びだした。


「助かるよ。それで、コロンが賢者を目指しているのも知っているし、今街中で賢者が来るっていう話をもう聞いただろ?」

「はい、先ほど広場で看板を見ましたから」


「コロン、これを」

 親父さんは俺の目の前に袋に入った金貨の山を置いてきた。

 いったいどういうことなのだろう?


「親父さんこれは……?」

「俺はずっとコロンに夢は見るものじゃなくて覚めるものだと言い続けてきた。それは俺が過去にお前と同じように冒険者になるのを諦めて今の仕事についたからだ。だから、俺もお前には無理だってことをわかって欲しかった。だけど、千載一遇のチャンスがお前には来てしまった」


「千載一遇のチャンス……!?」

「賢者様がこの街に来てくれる。しかも弟子を募集している。これをチャンスと言わずになんというんだ?」

 たしかに、それはそうだ。それで俺は昼間浮かれていたのだから。


「俺は今でもお前に料理人としてこの店を継いでほしい。だけどな、チャンスが来たならチャレンジして欲しいとも人一倍思っているんだ。俺が妥協と諦めでこの店を開いて今までやってきた。それについて後悔はない。だけどな、チャンスを見過ごす奴に残された人生なんてただの残りかすみたいなものなんじゃないかって思う時があるんだ」


「親父さんの人生はそんなことはありません! 親父さんに会えなかったら俺なんて何にも身にもつかなったはずですから」

「ありがとうな。でもこれだけはお前にチャレンジして欲しいんだ。今日から1週間後には闘技大会が開催される。だから、そこに参加してお前の力を試して来い」


「いやでも……俺にはそんな力もないし……」

「力とかそんなのは関係ないんだよ。やるか、やらないかだ。1週間本気だして動いてみろ」

 親父さんの申し出は非常にありがたいと思っている。だけど、これでダメだったらとチャレンジすることに怖さを覚えている自分もいる。


「夢は覚めるものじゃなくて、本当は叶えるものなんだ。俺はそれを信じることができなくて、コロンのことを見ていてもダメだろうと思っていた。だけどお前にはチャンスがやってきたんだ。これを応援しないなんてありえない。街の外にでれないお前にとって人生最初で最後のチャンスなんだ。それに……」

「それに……?」

 親父さんが一呼吸おいてから答える。


「俺の言うこと聞かないなら、嬢ちゃんと二人分の食事代をしっかりと払ってもらうからな」

 親父さんは俺にスッと一枚に紙を渡してきた。


 そこには俺の一か月分の給料と同じ金額が書かれている。明日からギルドの方も来なくていいと言われているのに、こんな金額払ったら間違いなく野たれ死ぬ。


「コロン、親父さんがこれだけ準備してくれているのに挑戦しないのは恥ずかしいことだと思うぞ」

「ルミンまで……わかりました。挑戦します。でも、これは親父さんやルミンに言われたからチャレンジするんじゃありません。俺が、俺自身が夢を叶えるためにチャレンジします。だから、失敗したとしても責任とか感じなくて大丈夫ですから」


「お前の人生の責任なんか俺がとるわけないだろ。何をいちゃってるんだろコイツはまったく」

親父さんの目から一筋の涙がこぼれ落ちていく。


「安心してください。絶対無事に賢者の弟子になってこんなおんぼろの店を継ぎませんから」

「ぼろくて悪かったな。こういうのはぼろいって言うんじゃなくて味があるっていうんだよ。そんな空気読めない発言ばっかりしていたら、賢者の弟子になんてなれないからな」


「親父さん大丈夫ですよ。コロンは賢者にとって一番大切なものを持っていますから、きっと賢者の弟子になれますよ」

「ルミンちゃんもそうなのか? ところで賢者にとって一番大切なものっていうのは? あっ……もしかして、料理の腕かな」

 親父さんが腕で涙を拭いてルミンに冗談っぽく問いかけた。


「そうですね。料理の腕は必要だと思いますけど、一番は誰かを助ける心ですかね。賢者の心得で、魔法が使えなければ人は救えない、魔力がなければ沢山の人は救えない。だけど人を助ける心がなければ賢者になる資格はない。っていう言葉がありますから。コロンは魔法も魔力もないですけど、心は立派な賢者です」


「たしかにコロンの心だは賢者だな。嬢ちゃんはなんでも知ってるんだな」

 親父さんはその言葉がツボにはいったのか腹を抱えて笑い出した。


 目からは相変わらず涙がこぼれ落ちていたが、今ツッコんだところで笑ってでた涙と言われてしまいそうだ。


「ルミン、それって褒めているのか?」

「えっめちゃくちゃ褒めてるじゃない」

 

 出会って間もないその不思議な少女は俺の心はすでに賢者だと言ってくれた。

 心だけとは言え、今まで否定し続けてこられた俺としては少し嬉しかった。


 最初から完璧である必要はないのかもしれない。

 だってそうだろ?


 完璧な賢者になるのを待っていたら、一生賢者になんて名乗れなくなるんだから。

 だけど、一つでも賢者の資格があるなら少しだけ自分の力を信じてあげてもいい。行動し始めなければ目標へはたどり着かないんだから。

―――――――――――————————

コロン(親父さんが泣いている)

親父さん(★をいれてくれる人がいないんだよ(´;ω;`))


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