第6話 闘技大会へ受付をしようと思ったのだが……

 ギルドでの仕事が終わって夕方に闘技場へ受付をしに行く。

 闘技大会の受付は1週間と言われているが早い方がいいに決まっている。


 俺がウキウキ気分で闘技場へ行くと、もうすでに露天商は並び、お祭り騒ぎが始まっていた。みんな気が早い。


 娯楽が少ないこの街では一大イベントではあるけど。

 闘技場横の広場で辺りをキョロキョロと見渡すと、ちょうど広場の中央に大会受付が見えた。その周りには沢山の兵士や冒険者が集まっている。


 俺も最後尾に並び、順番がくるのを待っていると、受付からの方からルンバがやってきた。


 なんでルンバがここに?

 俺はできるだけ目線をあわせずに、そのままスルーして気が付かなかったフリをするつもりだった。だけど……。


「なんでお前がこんなところにいるんだよ?」

 ルンバは俺を見逃してはくれなかった。


「あっいや、ちょっと……」

「もしかして、お前が賢者様の弟子に志願するとか言うんじゃないよな?」

「ルンバさん、まさかそんなわけないじゃないですか。こいつの使えなさはみんな知ってますし、出場してもクレームだらけですよ」


「観光だよな? 仕事もしなくてもお祭りは楽しいものだからな」

「みんないじめるのは辞めてあげてくださいよ。賢者様の弟子になるってことは冒険者ギルドを辞めてくれるってことなんですから」


 ルンバの側近の奴らが俺のまわりで好き勝手なことを言ってくる。

 顔が急に熱くなり、俺がいかに場違いなことをしようとしていたのかを感じる。

 どうせ俺になんて何もできないんだ。


「おい、コロンまさか冒険者ギルドの雑用が嫌で参加するとかってことか?」

「そんなことは……ないです……観光です……」

「なんだ。そうだよな。あっでも言ってなかったけど新しい新人が入ってきたからお前明日からしばらく来なくていいわ。期間は……新人が使えればずっと来なくていいよ。使えなけば1週間後だな」


「そんな……だって、冒険者ギルドをクビになったら……俺は……」

「いまだに冒険者になれると思ってるのか? グッドルからも聞いてるがお前には無理だよ。引導を渡してやる俺に感謝をするんだな」


 ルンバは好き勝手に言いたい放題言っていくと、広場から去っていった。

 俺は……闘技大会の受付をしに行ったはずだったが、諦めて一人街の中をあてもなく彷徨い歩く。


 俺だって街からでれれば……冒険者になれるのに。

 だけど、それを考えるとあの時の恐怖心がでてくる。


 誰かと一緒にいけば街の外にもでれるが、誰も一瞬しか魔法を使えない俺を仲間にはしてくれなかった。


 グッドルも……幼なじみだとはいっても、それとこれとは別だと言ってハッキリと断られた。

 街の中を歩いていると、いつのまには飲食店が多く集まるエリアにきていた。


 賢者様が来るということで街は活気にあふれ、キラキラ光っているが気分が沈んでいる俺はこの街で一人ぼっちな気がしてくる。

 しばらく歩いていると食事処のいい香りが空腹のお腹を刺激する。

「なにか食べるか……」


 時間的にまだ親父さんの店を手伝いに行くには早い。

 近くの手ごろな店に入ろうとした時、店の店主が小さな子供の襟首を引っ張ってきて、道路に投げ捨てた。


「この賢者様が来るっていうかき入れ時に物乞いのガキがくるんじゃねぇよ!」

「子供に施しも与えられない街に賢者が来たって、助けてなんかくれるわけないわよ」


「なんだと! もう一回言ってみろ!」

 店主は手に持っていた、肉切り包丁をその子へ投げつける。

 あっ……危ない!

 とっさに俺は動きその子をかばうように地面に転がる。


 その子はお昼に俺のお弁当を食べた子だった。

 昼間はどこに持っていたのか気が付かなかったが、右手に黒い熊のぬいぐるみを持っている。

「二度と店にくんな!」


 店主は包丁を拾うと店の中に戻っていった。

 他の通行人は俺たちのやり取りを関わり合いになりたくないと遠巻きに見ていたり、少し離れたところを歩き、見なかったことにしていた。


「大丈夫か?」

「昼間の兄さんですか。どうしたんですか? 昼間とは打って変わって今にも死にそうな顔をしているじゃないですか」


 彼女は俺の頭に優しく手を置いてくしゃくしゃと頭を撫でてくれる。

 今自分がされたことに不満を言うわけでもなく、たった一度会っただけの俺の気持ちを優先して気にかけてくれたのだ。


 だからといって、この子に素直に甘えられるほど俺だって子供じゃない。

「ちょっと空腹で……飯がまだなら一緒に食べに行かないか? 俺と一緒なら追い出されることもないだろうし」

「いや、悪いですよ。昼間にもご飯をご馳走になって夜までも……」


『ぐきゅるる~』


 彼女のお腹はどうやら正直だったらしい。顔を真っ赤にしながら目線をそらしてしまった。


「いいよ。俺のバイトしている店がこの先にあるから、そこでご飯を食べよう。あっ俺の名前はコロンっていうんだ」

「私の名前は……ルミン。よろしくお願いします」

 彼女はくしゃとした笑顔で俺の顔を見てきた。


 その笑顔には本当に純粋なものを見た気がしたんだけど……そんなに人生は甘くなかった。でも、彼女との出会いが俺の人生の歯車を動かし始めたのは間違いない。

―――――――――――————————

コロン「別に俺は全然下心とか、怪しくないからね!」

言えば言うほど危ない奴に思えてしまうルミンだった。


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