第5話 少女にご飯を食べさせた。
今日も同じような一日が始まり、午前中から、ルンバに20回くらい怒鳴られたところで一端お昼休憩になった。
いつもならギルドの中で食事をとっているんだけど、さすがに怒られすぎて誰もいないところで食事をしたくなり、今日は街の広場で食事をすることにした。
そこは街の中心部にある公園で、領主がこの街のために手入れをしているため、色とりどりの花が定期的に飾られ椅子などが置いてある。
俺はその中でも一番目立たないところに座り、自分で作ったお弁当を広げる。
今日はオーク肉丼にウズロという鳥の卵で作った玉子焼き、それに道端に生えていた野菜たちだ。その辺りに生えている雑草と呼ばれる草の中にも結構食べられる草はたくさんあるのだ。
俺はこの街からでることはできないけど、それでも食費を浮かせるために食べられる野菜とかは常に把握している。小さな積み重ねが節約への第一歩だ。
「いただきます」
誰も聞いていないのはわかっていたが、小声で挨拶をして一口オーク肉を口へ運ぶ。
うーん! やっぱりお肉が柔らかくて美味しい。
このスリおろしタレがまたオーク肉の美味しさを引き出してくれている。
このタレは親父さんのレシピを参考に俺がアレンジを加えたもので、親父さんにもまだ食べさせたことのない特性ダレだった。
これなら親父さんのところで商品化もできるかもしれない。
賢者になりたいと思いつつも、ついそんなことを考えてしまう。
そんなことを考えながらご飯を食べていると、広場に兵士がやってきて立札を建てていった。遠目になんだろうと思って見ていると、集まっている人達から断片的に話し声が聞こえてきた。
「……これ……ま……賢者様が……で……そりゃ……」
ほとんど声らしきものは聞こえなかったが、一つだけくっきりと聞こえた言葉があった。『賢者!?』
確かにそう聞こえた。
俺はお弁当をベンチの上に置いたまま立札のところまで急いで見にいった。
『賢者様がこの街の方へ来るという噂が流れております。最後に賢者様は目撃された場所では弟子候補を探しているとのことでしたので急遽1週間後に闘技大会を開催します。本当は、領主が賢者様を言い訳にお祭りがやりたいだけです。でも上位入賞者は賢者様の目に止まる可能性がありますし賢者様の弟子がこの街からでたら面白いので賞金もだします。参加希望者は当日までに闘技場で受付をしてください。 領主』
この街の領主は結構ノリが昔から軽い。
本当だとしてもお祭りがやりたいだけとか書いちゃダメだろうと思う。
だけど、これはチャンスじゃないだろうか。
賢者様が俺のことなんて覚えていてくれる可能性なんてほとんどない。
だけど、もし覚えていてくれたら……。
あの時お世辞で言ってくれただけかもしれないが、もし俺の魔法を見てくれたら……それだけでも一つの区切りがつけられる気がする。
俺が先ほどまでご飯を食べていたベンチに戻ると、ベンチの目の前で俺のお弁当とにらめっこをしていると8歳くらいの女の子がいる。
「どうしたの?」
「あっ……つい、腹が減ってしまって……ごめんなさい」
見た目は小さい女の子だが、やけに大人びた話し方をする女の子だった。
「ご飯食べてないの?」
「あっいや……えっと、三日ほど食べていないんです。料理苦手で。そしたらベンチに美味しいご飯が落ちてたから食べていいのかと思ったんですけど……そんな奇跡はありませんでした」
なんとも不思議な女の子だ。このまま盗まれてしまってもおかしくはないのに。
「なにか理由があるみたいだね。よければこのご飯を食べてもいいよ」
「なっ? 本当ですか? あとから返してくれって言われても返せませんよ?」
「いいよ。どうせ夜になったらご飯を食べられるからね。それに今はご飯よりも嬉しいことがあって胸がいっぱい……って食べ始めるの早すぎでしょ」
俺が話終わる前に彼女はベンチに飛び乗ると、そのままご飯を急いでかきこみ始めた。相当お腹が減っていたようだ。
「グホッ! ゴホッ!」
「ほら、これのみな」
俺は水の入った水筒を彼女に渡す。
「すみません。あまりに美味しすぎて……こんなに美味しい料理を食べたのは初めてです」
「それはいくらなんでもおおげさでしょ」
「本当に全部食べていいんですか?」
彼女は口ではそういいながら、お弁当箱を俺から一番遠ざけて取られないようにしていた。
「いいよ。今度この街に賢者様がやってくるみたいで、俺は今幸せていっぱいだからね」
「ゴホッ、ゴホッ……賢者がこの街にやってくるんですか?」
「ほら、急いで食べなくても返してなんて言わないからゆっくり食べな」
もう一度水を飲ませてから立札を指差す。
「あそこにさっき兵士が立てた立札に書いてあったんだよ。この街に賢者様がくるかもって。弟子を探しているみたいだから、弟子候補として名乗りをあげようかと思って」
「そうなんですね。夢があるのはいいことですからね。でも、賢者の弟子になるって言うからには魔法が得意なんですか?」
「それは……」
俺はなぜか彼女の大人びた話し方のせいか、俺の魔法について話をしていた。
それでも諦めきれないということも。
「賢者の弟子になれるかどうかはわからないですけど、ご飯分くらいは応援しています」
「ありがとう。話を聞いてくれただけでも少しスッキリしたよ。これからどこへ?」
「私は……適当にこの街をぶらぶらしてその1週間後の闘技大会でも見学してからまた旅にでようかと思います」
「そんな年齢で冒険者なのか?」
「冒険者って言うほどのものではありませんが旅人ですね。世界を見て回るの好きなんですよ。この街にも思い出があってふらっと立ち寄ってしまいました」
街の中心にある教会からお昼の鐘の音が街中に響き渡る。
「おっと、そろそろ午後からの仕事に行かないと怒られる」
「お弁当ご馳走様でした。美味しかったです」
そのまま少女と別れ、俺は午後からもルンバに怒鳴られ続けたけど、全然頭に入ってこなかった。人生がこんなに綺麗にカラフルに見えるなんて。
ずっと笑っていたら、途中から「気持ち悪すぎる。ついに頭がおかしくなったのか?」なんて言われたけど全然気にならない。
だって、俺の夢がついに叶うかもしれないのだから。
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