トンネルを抜けると

味噌わさび

第1話 そこは――

「ハッ……ハッ……ハァ……」


 長い長い……そして、真っ暗な暗闇。


 俺はずっと走る。走っている。走り続けている。どれだけ疲労しても、俺は走り続けていた。


 遠くには小さな明かりが見える。あれは間違いなく、出口なのだ。


 あそこにさえたどり着くことができれば、この暗闇から脱出することができるのだ。


 思い返せば……なんで俺はこの暗闇の中を走り続けているのだろう? 一体どうしてこんなことに――


「一度入ると二度と出られなくなるトンネル?」


 それは……確か、友達から聞いた話だった。


 話によると、なんでも一度入ると、二度と外に出られなくなるトンネルがあるという。


 所謂怪奇スポットのようなものなのだろう。俺はそういう場所や物事に割と興味がある方だった。


 ネットや友達の情報を頼りに俺は件のトンネルを探した。そして、なんとかそのトンネルを俺は見つけることができた。


 そのトンネルは、所謂廃トンネルというやつで、郊外の寂しい場所にあった。俺はバイクを走らせてトンネルまでやってきた。


 車や人の気配もない。トンネルの中は電気も通っていないようで、完全な暗闇だった。


 と、道端に古びた看板のようなものがある。ギリギリ文字が読めるくらいに古びているがなんとか判読できる。


「『このトンネルは危険です。出られなくなる可能性があるので、入らないで下さい』……なるほど。バイクで入るのは危険かな」


 その判断は後で大間違いであったことがわかるが、俺はバイクを入り口に置いて、「立ち入り厳禁」という立て札を無視して、トンネルの中に入った。


 懐中電灯をつけてトンネルを進んでいく。意外とトンネルの中は荒れ放題というわけではないようだった。


 遥か彼方には明かりは見える。あれがきっと出口なのだろう。


「道路には特にゴミが散乱しているわけでもないみたいだし……バイクで走っても問題なさそうだ」


 そう言って戻ろうとした矢先だった。いきなり俺の足は、俺自身の意志とは全く関係なく、いきなり動き出した。


「え? な、何これ……」


 足を止めようとしても俺は走り続けてしまう。意味がわからない状況に俺はただただ困惑するしかなかった。


 そして、結局、俺は足を止める方法を見つめることもできず、ただただ、トンネルの中を走り続ける。


「ハァ……で、でも……」


 もうすぐ明かりが近い。出口の明かりが大きくなっていく。


「で、出口だ……!」


 ふと、俺はこんな時に昔読んだ有名な小説の冒頭の文章を思い出す。


 そうだ……トンネルを抜けると、そこは……。


 明るい光が俺を包んでいく。


 ようやく俺は外に出ることができた。もう興味本位でこういう危ない場所に行くのはやめよう――


「……え?」


 そう思った次の瞬間、俺は暗闇の中にいた。見覚えのある真っ暗なトンネル……。


 そして、それを理解した瞬間、またしても勝手に足が動き出し、俺は遥か彼方の光に向かって走り出す。


 走る。走り続けるのだ。


 ……きっとおそらく、これから、何度でも。


 俺がたとえ、意識を失い、力尽きても。


 それと同時に俺は理解できた。


 俺は、もうこのトンネルから二度と出ることはできないのだ、と。

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