〜再会〜
ギィ……
恐る恐る開けたドアの中は、真っ暗だった。
奥のほうに私が寝かされていたような天蓋付きのベッドがあって、そこだけライトアップされている。
あそこに、朔夜がいる。
約一ヶ月ぶりの朔夜の気配を感じた。
私はそこまで走って近付く。
途中ドレスの裾を踏んで足がもつれたけど、そんなことかまってられない。
朔夜、朔夜!
朔夜だけを想って、下ろされた天蓋の中に入った。
何年も、会っていなかったように感じた。
でも、そこに目を閉じて横たわる朔夜は記憶と寸分
近付いて、その頬に触れる。
……朔夜だ……。
求めて求めて、やっと見つけた。
やっと取り戻した。
「さくやぁ……」
私は目に涙を溜めながら名を呼び、キスをした……。
数秒触れて離すと、朔夜の目蓋が開く。
「……望」
久しぶりに聞く朔夜の生の声。
それを聞いて、私は溜まっていた涙を一滴零して微笑んだ。
「キスで目覚めるなんて……朔夜、眠り姫みたいだね」
私が冗談を交えてそう言うと、朔夜は一瞬驚いた顔をして、次にニヤリと笑った。
「姫は、お前だろう?」
そう言い終わると、朔夜の腕が私の頭を後ろから押さえつけ、また唇が重なる。
最初は確かめ合うようについばんで、やがて舌を絡める深いキスになる。
私達はお互いに、その存在を確かめ合った。
吐息が混ざり合い、意識も混ざり合うかと思われた頃、そのキスは終わった。
酸素を求めて何度か呼吸してから、私は聞く。
「朔夜、体……動かせる?」
「いや……自由に動かせるのは腕くらいだ」
朔夜の答えに私は眉を寄せた。
朔夜が動けないならここから移動するのは難しい。
いくら満月の夜は魔力が上がるといっても、元々が弱っている体だ。
朔夜を引きずって行けたとしてもここから出られる保証は無い。
「どうしよう……」
呟いて悩んでいると、朔夜が私を呼んだ。
「望」
「何?」
「俺の血を飲め」
「え?」
「もう少ししたらあの女がまた血を注入しに来る。そのときお前に気付いたら戦わなければならないだろうからな。弱ったお前では太刀打ち出来ない」
だから、と朔夜は言う。
だから俺の血を飲め、と……。
私は、いつだったか朔夜の血を飲んで苦しんだ吸血鬼のことを思い出した。
私も、ああなっちゃうんじゃ無いの?
「飲んで、大丈夫なの?」
不安そうに聞く私に、朔夜は自信を持って答えた。
「お前なら、大丈夫だ」
そして、私の頭を押さえていた朔夜の腕に力が入る。
私の頭を、朔夜は自分の首筋に持っていった。
朔夜が大丈夫だと言うなら大丈夫だ。
その自信の根拠がどこにあるのかも分からないけど、私は朔夜の言葉だけで安心できた。
「朔夜、私が血を飲めてないこと……そのせいで弱ってたこと、気付いてたんだね?」
私は朔夜に一言もそのことを言っていない。
「まあ、そうだろうなとは思ってたからな……」
朔夜は私の事、何でも知ってるんだね。
私は最後にそう思ってクスリと笑った。
そして、血を飲むために上の犬歯が伸びた。
こうやって血を飲んだことの無い私は、血の吸い方なんて知らない。
でも、吸血鬼としての本能が勝手に体を動かしていた……。
牙を朔夜の首筋に食い込ませる。
「くっ……」
朔夜の小さなうめきを聞きながら、私は溢れてきた赤い液体を吸う。
甘く
美味しい……。
喉が潤う……。
私は理性が飛んでしまったかのように朔夜の血を貪るように飲み続ける……。
そんな風に朔夜の首筋に顔を埋めていると、突然朔夜の腕が私の頭を引き離した。
一瞬怒りに近い不満を覚える。でもそれと同時にハッとする。
夢中になって飲みすぎた?
「それぐらいにしておけ。でないと俺の回復が遅くなる」
「あっごめん」
苦笑気味な朔夜に謝り、私は咬み痕を舐めて傷を塞いだ。
見る見るうちに傷が塞がり、咬み痕がキスマークとして残る。
「俺の血を美味しそうに飲むお前は可愛くて色っぽいな……。こんなときでなければもっと飲ませてやってもいいんだが……」
そう言って不敵に微笑む朔夜の方が色っぽい、と心のどこかで思った。
私は朔夜の言葉が恥ずかしくて、それをごまかすように「バカ……」と呟く。
それと同時に、部屋のドアが勢い良く開けられた。
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