六頁

 武博は走り続けていた。秋山は空になった弾奏に弾を込め直していた。後続からパトカーが無造作に武博のバイクを追いかけている。その更に後ろに燃え上がってる火柱が数箇所、勢いを増しながら遠ざかっていく・・・。

「俺も・・・、嫌だったのかも知れない・・・」

 武博は口を開いた。

「何がだ?」

 秋山が聞き返した。

「俺、愛子に振られてから一体何の日常を過ごすんだろうって思ってた。・・・でもあんたの日常に比べたら俺のなんてクズだよな」

 秋山は黙っていた。武博が続ける。

「俺は親に勉強をしろと言われ続けて、黙々と勉強し続けた。医者か弁護士になれって言われた。だけど、俺は最後の抵抗で高校を卒業してすぐに就職した。

 両親はかなり怒ってたよ。だけど、俺の人生は俺のだ。決めたからにはそう生きていく、そう思って家を飛び出したんだけど・・・、

 結局医者や弁護士と大差変わらなかったよ。ただ単に収入が少ないだけ。一日一日その繰り返し。働いて食って寝て、働いて食って寝て・・・。」

 愛子とバイクだけが俺の数少ない支えだった。だけど、愛子と別れたらバイクを乗ってる意味がない・・・」

「やっぱりお前も退屈な日常を経験したか」

 秋山がようやく答えた。その声はどこか寂しげな口調だった。

「屈託のない日々の繰り返し、無限に続き、いつか死ぬまで止まることがない。・・・いつからこんな国になったのだろうな・・・」

「だな・・・」

 武博はいつしかこの秋山と会話の輪に入っていた。経験してきた事は違えど、思っていることに共通点があった。

「もう俺は元の日常に戻らない」

 武博がぼそっと呟いた。

「え、何て言った?」

 流石の秋山も呆気に取られた。すると、

「う!」

 短い呻き声と共に秋山が武博に凭れ掛かった。

「どうした!!?」

 武博は叫んだ。

「・・・左肩だな、やられた」

 少し声が弱弱しかったが、秋山は答えた。

 武博は確認できなかったが、秋山の左肩甲骨に丸い血の痕があった。

「・・・あきらめれるか、あきらめれるかッ」

 秋山は呻きだした。

 同時に悔しさの声が響いていた。

 その悔しさの色が武博の耳に入り、脳を刺激した。

「大丈夫だ、もしお前がやられたら俺が引き受ける」

 武博が言った。自分でも信じられない言葉だった。

「・・・ま、巻き込む、わけに・・・、は、いか、ないッ、俺の・・・、信条に反する!」

「あんたのこと聞いて、俺、わかったよ。俺も、戦う」

 武博は、精一杯、頼もしい感じで言った。

「・・・信じて、いいんだな?」

「あぁ、このまま突っ込むぞ」

 その時に全国でこのニュースが報じられており、全国のお茶の間のテレビにこの大追跡劇が中継されていた。

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