三頁

 武博は大人しく従い、男を後ろに乗せてバイクを発進させた。バイクに乗るときは常に恍惚な気分に浸っていたのだが、今日だけは恐怖と怒りだった。

 今後ろにいるのは恋人ではなく、銃を突きつけた、全く以って表情を見せない冷淡な男だ。

 何で今の俺の唯一の楽しみを奪うんだこのキチガイ野郎。いっその事揺ら揺ら運転でもしてやろうか。いや、それはまずい。

 背中に突きつけられた冷たい筒が武博の衝動を止めた。下手に何かをして撃たれるとまずい。まず撃っても奴はバイクから飛び降りれば済む話。俺は撃たれてそのまま転倒して事故死しかねない。何せかなりのスピードで走れと要求しているのだ。何かいい手はないか、武博は模索していた。

 そう言えば・・・、

「何処に向かえばいい?」

 武博は冷淡に男に聞いた。乗ってから男は左に曲がれとか直進しろとしか指示を出さない。

「・・・聞いてどうする?ただ言ったところを通れ」

 男は答えようとしない。更に全くこもってない無感情な声色。

「行き先教えてくんねぇとよ、近道とか出来ねぇじゃん」

 武博はイライラ気味に言った。

 メーターは速度100km近くを行っている。

 今この公道を走れば確実に警察に捕まる。

「ならいいだろう、教えてやる」

 男が口調を変えた。先程の冷淡さとは違い、妙に勝ち誇った声色だ。

「国会議事堂だ」

 男の口元が若干引きつった。それは笑みだった。

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