【エレウシスの秘儀】

アイシェさんは厳しいマルコ班副長の顔に戻って、隊長へと言った。

「隊長!エージェント“エレウシスの秘儀”の交戦ポイントにはマスターエージェントが確認されています!5重深海式封印機構アビスの限定解除の必要を認めます!」

隊長は頷くと号令を出した。

5重深海式封印機構アビス、深度5から深度3までの浮上を許可!遺産『エレウシスの秘儀』の限定顕現を承認する!」

「了解しました!レネゲイド緊急対応班マルコ隊長の非常時権限を以て『エレウシスの秘儀』封印機構アビスを限定解除します!」

「通信を使って現地のエージェントへ通達しろ!──『“海”が溢れるぞ』と!」

そう言って隊長とアイシェさんは私の背中を押した。言葉と裏腹にその手はとても優しかった。

「命令ですコードネーム“エレウシスの秘儀”!──行きなさい!行ってあなたのやりたい事をやりなさい!」

「はいっ」

私は暗い機内からその身を蒼穹へと躍らせた。

太陽に照らされて見えたのは、あの時と比べれば少しは大きくなった身体。MM地区の学校の制服と、ベルトで固定された鬼切りの古太刀を佩いた私の姿だ。

凄い勢いで地面が近づく中、鬼切りの古太刀を鍵とする深海を模した五重のレネゲイド封印機構の一部が解除されていく。

封印機構アビス深度4まで浮上!』

私の周囲の空間が波打ち、“海”が溢れ出す。海はあっという間に周囲へと拡がっていく。

あの時MM地区に居た人が見ればきっと恐ろしく感じただろう。MM地区に遺産【エレウシスの秘儀】が再び顕現したのだから。

だけど、数年前のレネゲイド災害と違うのは、その海がどす黒い海では無く、美しく透き通った青色の海であること。

マルコ班で定期的に行った長くて厳しい訓練の末、私は遺産“エレウシスの秘儀”のコントロールの術を身に着けた。

いや、遺産の仮想人格でしか無かった私が、今こそ“エレウシスの秘儀”になったと言うべきなのだろう。

恐ろしかった。目を逸らしても良いと言われた。

……でも、“願い”があった。その為にこの事実と力を受け入れた。

封印機構アビス深度3まで浮上!』

恐ろしいものが深い海底から浮上してくる感覚。……違う、これは“私自身”なんだ!

私は必死で“エレウシスの秘儀”をコントロールする。無秩序に拡がりそうになる海を押し留める。そして彼等を呼び出す。

海中に現れたのは手足持つ馬面の鯨──では無かった。それは自然の美しさを持ったシロナガスクジラの様なそれ。

「行って!」

私がそう命じると、鯨達は海の圏内にいるFHエージェントへと踊りかかり、レネゲイドを奪って昏倒させていく。

奪ったレネゲイドはネモフィラの様な花の形となってUGNエージェントへと降り注いでいく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る