【MM地区のエージェント】
戦火の煙が上る港湾都市MM地区近郊、上空の高速輸送機の薄暗い機内に私はいた。
「覚悟は良いですか?」
軍服を纏いながらそれでも美しいその人、レネゲイド緊急対応班副長アイシェさんの問いに私は頷いた。
「では現時刻ヒトヨンマルマルを以て、あなたをUGNMM地区支部所属のエージェントに任命します。コードネームは……本当にこれで良いのですね?」
「はい」
「あなたを道具だと後ろ指さす者もいるでしょう。忌み嫌う者さえいるもしれません。それでも?」
「良いんです。そう決めていましたから」
アイシェさんは悩んだあと、その厳しい顔を崩した。失礼を承知で言うなら、私の大好きな優しいお姉さんの顔。
「あなたの一人の友人として言わせてもらうのであれば、そんなモノを背負って欲しくはありません。“あの人”だってそれを望みはしないでしょう」
多分、それはそうなんだと思う。
「こんな事に関わらず、この世界に素晴らしい場所があること、楽しいことが沢山あるのだと、もっともっと知って欲しいのです」
アイシェさんの言葉をありがたく思いながら、でも私は首を振った。
「私、もう充分もらいました」
そう、私は──
「この世界にただいるだけの存在じゃ嫌なんです」
私の言葉に目を瞠ったアイシェさんは、しばらくした後に苦笑して頷いた。
「分かりました。……正直に言えばマルコ班に来て欲しかったんですけどね。隊長もMM地区と交渉していましたよ。最後にはあなたの意思を尊重すると言っていましたが」
マルコ班隊長、厳しい中に優しさを持つ人。
昔日は酷い事を言った私を許してくれて、今に至るまで私の我侭に沢山付き合わせてしまった人。
「はい、私マルコ班が大好きです。」
隊長は困った様に笑うと、アイシェに向かって頷いた。
……私、この二人の空気感好きだなぁ。
「間もなくMM地区上空です。この機はポイント上空を通過後、主戦線へ突入します。あなたはその後隊員と共に“あの人”の救援に向かって……」
そうアイシェさんが言いかけた所で機内にアラームが鳴り響いた。アイシェさんはモニターを確認すると報告した。
「隊長!MM地区エージェントが交戦するポイントにて異常なレネゲイドの増大を確認!ジャーム化の兆候です!」
アイシェさんは苦々しそうに言った。それは“あの人”の交戦ポイントだった。
私は太刀を手に取った。
「アイシェさん、私……行きます」
「なっ……駄目です!機を降下させてから私達と一緒に……!」
「でも、間に合わないかもしれない!」
そう叫んだ私にアイシェさんは驚いた様だった。
「あの時、“あの人”もみんなも来てくれた。命令違反になっても構いません。だから……!」
私の言葉にアイシェさんは苦笑した様だった。
「いえ、耳が痛い話ですね。まさか他でも無いあなたからそんな言葉を聞く日がくるとは」
見れば隊長も仕方ないな、という雰囲気だ。どういうことなんだろう?
「無茶無謀な作戦はマルコの十八番。ふふ、そんな所まで似なくて良かったのに。さ、行ってください私の可愛いエージェント」
アイシェさんは私を抱きしめたあと、微笑んで言い直した。
「……いえ、MM地区所属エージェント、コードネーム──“エレウシスの秘儀”!」
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