【クリスマス特別編SS】アリオン

クリスマスイブの夜、俺とマスターは夜空照らす幾千の光の中にいた。


『マスター。サンタクロースって信じてますかい?』

そうオレはマスターへと問いかけた。

マスターはそのキレイな顔に驚愕を張り付けながらオレを一瞥、何事かを叫びながら回避行動を取った。オレもマスターに届く致命的な光条だけを黒曜石の盾で防いでいく。

『……いやいやマスター。これは至って真面目な話なんです』

そんなオレ達を照らす幾筋もの光───夜空を切り裂き、いっそ美しいと言える機動を描いて迫る色とりどりの光条は、一つ当たっただけで命を失う代物だ。全て喰らえばジャームへ堕ちること間違いなし。

その光条を抱えた袋から放ち続けているのは、不気味な笑い声を上げ続けている「サンタ」だ。

あまりの状況に、流石のマスターでもいつもの様な軽妙なやり取りは期待できないらしい。

仕方ないのでオレは1人で言葉を続けた。寂しい。

『そもそもこの世界で認識されているサンタクロースってのは、「オリジン:レジェンド」である意味本物なんですが、コイツはその内の一体が“クリスマスを呪うぼっち”共の負の感情でジャーム化しちまったってワケですね』

そんなオレの説明に気を取られたのか、夜空を急旋回してきた凶悪な顔をしたオリジン:アニマル───「トナカイ」の突進をマトモに食らってしまう。

マスターのキレイな顔に、不揃いな牙がガチガチと迫る。う~ん、これは中々にピンチ。

あ、ちなみにその涎塗れのマスターの御顔の下で、ブラブラ揺れている黒曜石のアクセサリーがオレ、アリオンです。……って

『あーっ!涎がオレの方まで落ちて来てるやめてやめて汚れる早くなんとかしてマスター!!!』

こんな状況だけど、今日は記念日なのでちょっとオレとマスターの昔話をしようと思う。もし良かったら聞いて欲しい。


───何個か前のクリスマス───


クリスマスには露店が並ぶだろ?ほら、MM地区だと赤レンガ倉庫に並ぶようなちょっとオシャレなアレだよ。オレはどっかの露店で安物のシルバーアクセサリーと一緒に叩き売られてた。

その頃のオレは、殆どその神性……どころか自我や記憶をすら喪いかけていた。それも当然。神馬アレイオーンなんて昔話を覚えている人間は今やもう殆どいない。オレはただの古ぼけたアクセサリーに成り下がっていたんだ。

隣のシルバーアクセサリーが飛ぶように売れていく中、途中で貼られたSALEのタグも空しく、オレはいつまでも残っていた。矯正をあげるカップルも、俺には一瞥もくれやしない。

それも当然だよな。薄汚れた黒い石コロ、しかも装飾もどこか古ぼけたアクセサリーを誰が欲しがるだろう。このまま廃棄されて長い人生(?)も終わり。まぁそれも仕方ないか、なんて思っていた。

だから───

「キレイだ」

なんていう意味の言葉(だったと思う)をかけられた時には驚いた。

ソイツは別にオレの声が聞こえた訳でも無かった。単純にそういう“物好き”だったんだろう。

店主から黒曜石のアクセサリーを受け取ったソイツは───マスターは、嬉しそうにオレを首元にかけたのだ。


───回想終わり───


あれから色々あったんだけど、それはまたの機会にしよう。

(名前を聞かれてアレイオーンと答えたつもりが『あ……い、おん……』ってなってアリオンと名付けられた話とかね)

何故ならマスターが黒い夜空をまっすぐに落下していっているから。

落下先はさっき話題に出したMM地区の赤レンガ倉庫。クリスマスのイルミネーションに彩られたそこに血と肉片が飛び散るのは、クリスマスに流れるニュースにしては酷すぎる。

落ちゆくマスターとオレの視線が交錯した。マスターの顔にネガティブな感情は無い。何かしらポジティブな感情さえ感じられる。

以心伝心、あんまり好きじゃないんだが、オレは馬の姿に変化して夜空を駆けた。掬う様にしてマスターの身体をかっさらえば、背に乗ったマスターがその力を解放する。

『さぁて、反撃の時間ですぜ、マスター!』

幾条もの光の中をオレ達二人は駆け抜ける。いやぁ実にイルミネーション。ロマンチックなクリスマスですね、マスター?

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