【クリスマス特別編】大賀 輝生

【過去 MM地区 校庭】

聖夜に深々と降り積もる雪の中、少年が少女を抱きとめていた。

少女から流れ出る血が雪を染めていく。


「良いんスよ、輝生くん……キミが……走りたいって想ったなら……迷わないで……」


少女の腕が何かを探す様にさまよった後、少年の顔に触れた。


「委員長!良いから、喋らないで!すぐに救けがくるから!」


少年の頬に触れた手から暖かさが喪われていく。

でも、少女は少年のために懸命に言葉を綴った。優しい彼のこれからに必要だと思った。


「それはきっと……誰かのためだから……他の誰が止めたって、ボクがキミの背中を押すから……」

「なんで……なんでそんな事……お、俺は……間に合わなかった、のに」


少女の優しい瞳が奇跡的に輝生を捉えた。


「えへへ、そんな事ないっスよ……キミは間に合った……ボクはずっと救われてきたんスから……」

「ボクは……そんなキミが……だったんス、から……」


少年の頬に触れていた腕がサクリと赤く染まった雪を縁取った。


「い、委員長?……」

「──ううっ……うああぁぁああっ!!!」


遠くサイレンの音をかき消すように、少年の慟哭が降りしきる雪を微かに揺らした。


【現在 MM地区 横浜駅】

接収した横浜駅でアラームが鳴り響いた。

‟あの人”を飲み込んだ“レネゲイド災害”が今再び発生していた。


「支部長!車内でレネゲイド災害が発生してもうすんごい事になってるらしいっス!」

「列車は減速すること無く最高速を維持!恐らく直 前のカーブで脱線転覆しながら横浜駅に突入してくるっス!」


少年の足が震えた。間に合わない。きっと1人で行っても何もできない。

───その少年の背中を誰かがそっと押した。

逡巡は刹那。足の震えは止まり、少年は走り出していた。


「と、取り合えず俺止めてきますっ!!!」


支部長の制止の声は遥か後方。


(走ろう。何度だって。今度こそ)


《完全獣化》。

少年の身体が大きく、力強くなっていく。あの頃より、ずっと。

迫る‟海の雪”の名を持つ災厄の前に立つ。手を広げる。


「───さぁ、やってやるっスよ!」


end.

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