アン王女のバレンタインデー大作戦

アン王女は、夜道を人目を避けながら急いでいた。ネットで知り合ったケイの家に行くのだ。ケイはアン王女と同じ年の女の子とのことだが、実際はわからない。でも、今はケイを頼るしかないのだ。


2時間前、幼い時からの親友でメイドでもあるアイの協力で、何とか厳重な王宮を抜け出すことができた。アイのことも心配だが、今は抜け出したことがばれないことを願うばかりだ。もし、アイがアン王女の脱出に手を貸したことが分かったとしても、アイはメイドとしてとても優秀で、アン王女の両親、すなわち、王と女王にとても気に入られていたので、恐らく厳罰に処されることにはならない。アン王女はそこまで計算済みで今回の計画を実行に移したのだ。もちろん、もし、アイが処罰されることになれば、アン王女は全力で守るつもりだった。


あまり外を出歩くことに慣れていないアン王女だったが、なんとかケイの家に到着できた。アパートに一人暮らしとのことである。ドキドキしながら、チャイムを鳴らした。

「はーい」女の子の声だ。ほっとした。

「王女様だって、ほんとだったんだ」とケイが言った。

「ほんとに同じ年の女の子でよかった」とアン王女は言った。

二人で微笑みあうと、アン王女はケイのアパートの中に入れてもらった。


「では、さっそく今から作りますか」

アン王女には時間がない。

「明日の朝までには、家に戻りたいから助かるよ」

「わかってますよ、アン王女」

二人は、さっそくバレンタインデーのチョコ作りを始めた。

アン王女にとって、それはとても楽しい時間だった。

「できた~」

二人とも、時を忘れ夢中で作っていたため、朝が明けようとしてしまっていた。

「早く帰らなきゃ」

そのとき、アン王女のスマホにアイからのメッセージが入った。

『脱出がばれました』

緊張が走る。

ケイが言った。「ここはいいから、早くチョコを相手に渡してきな」

「ありがとう。今度はうちに遊びに来てね」

「私みたいな一般人が入れるかな」と笑いながら、ケイは見送ってくれた。

アン王女は何としても、今度お礼がしたいと思いながら、今回の作戦の最終目標へ向かいだした。


王宮では緊急事態となっていた。一人娘のアン王女が行方不明となったのだ。それもアン王女自身が計画して脱出したらしいとのことまでわかっていた。王室特別警備隊は国中の情報ネットワークを駆使し、アン王女の捜索を行っていた。王室特別警備隊自身も総動員で散らばり、捜索していた。


アン王女が最終目標である、チョコを渡したい相手の家に向かっている途中、とうとう王室特別警備隊に所在地を突き止められてしまう。

王室特別警備隊の隊長は、隊員に命令した。

「王女を確保せよ。これは国の一大事のため、やむを得ない。麻酔銃の使用を許可する」

「はっ!」

隊員は緊張の面持ちで現場に向かった。


アン王女も覚悟していた。見つかれば麻酔銃で撃たれるかもしれない。でも、そのことも含めて、何か月も考えて決断した作戦だ。やり遂げたい。

なんとか、目的地に近づいてきたころ、王室特別警備隊の制服が目に入った。

「見つかった。。。」

アン王女は絶望的な気持ちとなった。相手は超エリート集団、王室特別警備隊である。

とても逃げ切れない。「ここまでか」とアン王女はあきらめた。


王室特別警備隊の隊員が近づいてくる。

「アン王女、どうか動かないでください。麻酔銃を持っています。でも撃ちたくはありません。」

アン王女は観念したように立ち止まっていた。でも背中を向けている。

隊員は警戒しながら、アン王女へ近づいて行った。

隊員がアン王女の真後ろにきたとき、アン王女が振り返った。

アン王女は、奇跡が起きた驚きと喜びでいっぱいの顔で、こう言った。

「私のバレンタインチョコを受け取ってください。」


おわり

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