ほくさいくんの絵
ほくさいくんが通う幼稚園の先生は悩んでいた。
「今回もだ。。。」
みんなが、「よくできました」や「たいへんよくできました」の大きな花丸シールを付けてもらう中、ほくさいくんの絵には、いつも「がんばりました」の小さな丸シールだけでした。
この一年、ほくさいくんは、ちっとも、まともに絵を描いてくれませんでした。
他の子が、お母さんや、お父さん、どんぐりやお花、キリンやライオンのような動物、電車や消防車のような乗り物を描いている中、ほくさいくんの絵は、いつも線が並んでいるだけ。
先生も最初は幼稚園児なのだから仕方がないと根気強く、教えていましたが、ほくさいくん自身が「これで、いいの!」と言って、聞こうともしません。
先日も、みんなで、お花畑に行って花を描いたりチョウチョを描いたりしている中、ほくさいくんは、時折、ぼんやりと遠くを眺め、これまでと同じように線が並んだ絵を描いてました。
そんな、ほくさいくんの絵ですが、描いている線には、迷いがなく、不思議と魅力も感じます。だからこそ、先生は、ほくさいくんに、ちゃんとした絵を描いてほしいと、一所懸命、絵を教え続けました。
そうこうするうちに、3月になり、年度末を迎えようとしてました。
「とうとう、最後まで、同じような絵だったな。。。」と
先生は、少し空しく感じながら、ほくさいくんの今年度最後の絵を眺めて言いました。
でも、最後の絵を描き終わったときに、ほくさいくんが言いました。
「ぼく、もういちまい、かきたかったな」
ほくさいくん自身は、絵を描くときは、いつも真剣に、とっても楽しんでいました。
先生は考え直しました。
そうなのです。幼稚園児なのだから、楽しんで絵を描くことが一番大事。将来、名前に負けないくらい立派な絵を描く画家になるかもしれない。そう思うと、先生は、ほくさいくんの将来が楽しみになりました。
「よし、やるか!」
この幼稚園では、毎年3月に恒例になっている先生の大仕事があります。
子供1人ずつの1年間の作品集作りです。先生にとっては、大変な仕事でしたが、子供たちの成長も感じられる、うれしい行事でもありました。
いよいよ、ほくさいくんの作品集の番です。
ほくさいくんの絵は、初めから最後まで線が並んだ絵でした。
入園した4月の絵、5月、6月の絵と整理していきます。
「ほくさいくんには、どのような景色が見えているのだろう」と
先生はつぶやきながら、作業を続けていました。
10月までの25枚目の絵を整理したころ、ふと先生は気が付きました。
ほくさいくんが描いた絵は並べていくと隣同士がつながるのです。
「ええ!?」
興奮した先生は、昨年4月から今年の3月までの絵を並べてみました。
全部で49枚。10×5枚の長方形に並べると、
そこには幼稚園からいつも見えている、富士山が描かれていました。
「なんと! ほくさいくんは、いつも富士山を描いていたのね」
そう言って、先生は2枚の新しい画用紙を持ってきました。
1枚はそのまま50枚目として、49枚目の隣に並べました。
そして、もう1枚の51枚目には、大きな大きな花丸と「たいへん、よくできました。さいごの いちまい たのしんで かいてね」と書いて、ほくさいくんの絵の邪魔にならぬように添えました。
おわり
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