第4話 僕カタチから入るタイプですので
練習のための練習をするぞ! と意気込んだ僕がまずしたこと、それは練習着の調達だ。
宅オタの僕。現地に行くことはないながら自宅に応援グッズ一式常備している。
自分の家で動画見たりするだけなのになんで? 必要なくない? って思う人は全然わかってない!
気分が大事なんだ。こういう事って。
団扇だったりペンライトは手にしたら、応援するぞー!! って気になるし。Tシャツ着たらやる気がみなぎってくる。
だからまったく気乗りしないマラソンの練習でも、練習するぞー!! って……なったら、いいなぁって。
という淡い期待感でデパートにウェアを買いに来た。のはいいんだけど店がたくさんありすぎる……。
ナイケとかピューマとかちょろっと眺めてはみたものの、結局、見覚えのあるウェアをたくさん置いてある自社のショップに入ってしまった。
それでもウェアの種類が多すぎて何を買ったら良いか皆目検討がつかない。
一歩も走っていないうちからなんかもう疲労感満載だ。
「何かお探しですか?」
途方に暮れてた僕の背中に、天の助け。
「あ、あの、あの、ちょっと走ってみようかと思ってっっ」
ショップのお姉さんは心得たとばかりに頷く。
「初心者の方ですね? 一番最初は動きやすさを重視した感じのものがお勧めなんですが」
あ、初心者だって、見た目バレしてるや。
お姉さんは少し離れたところから僕をみると
「少しお勧めさせていただけるなら、お客様の場合……」
僕の前を歩いて話ながらひょいひょいとラックからウェアを外してゆく。
「トップスはこちら、もしくはこちらでしょうか。ボトムスなんですけれど最初からバリバリっぽいよりは街に出てもそんなに浮かない感じのものがよろしいのではないかと……」
「あ、じ、じゃあそれで一式」
「え? ご試着は……? お客様は細身でいらっしゃるのでサイズに関しては問題ないとは思いますが」
細身、というよりヒョロイがしっくりくる僕にその言葉のチョイス。気遣いがなんか逆に鋭利な刃物チックだよ、お姉さーん!
「あ、試着します! します!」
「お客様? いかがですかー?」
試着室の外からお姉さんが聞いてくる。
本当ならここでカーテンをシャッと開けるべきなんだろう。
でも僕は今、鏡の前でそれを躊躇している。
「絶望的に不似合い……」
ダメだ。カーテン開けちゃダメ、絶対。
わざわざお姉さんにネタ提供する必要は、ないよね。
カーテンの隙間から顔だけだして外で待機してくれていたお姉さんと目が合うと
「これ、買います!」
と宣言する。
若干試着で気持ちが盛り下がった気がするけど、これでウェアの準備はできた。
後は走るだけ。
まずは自宅で「逆さま坂15」の動画でもみながらご飯を食べて、夜、ひと気がなくなるくらいの時間に練習に出かけてみようか。
確か動画の新着通知来てたよなー、なんて考えながら紙袋を抱えて店を出ようとすると
バンッッ!
と誰かに思い切りぶつかってしまった。
いけない! ぼんやりしすぎた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます