第21話 ふわり
「婆さん譲りやなぁ……おもろいわ」
ぶんぶんと振り回される金棒に逆らうこと無く、ゆらゆらと絶妙な間合いで流れる様に避ける咲耶。その顔にはふわぁっとした笑みさえ浮かべている。
その足捌きには砂埃さえも立たず、妖魔の振るう金棒の風圧でひらりひらりとセーラー服のスカートが舞うだけであった。
「にゃぁぁぁっ!!」
猫又が一声鳴いた。
とんっ
振り下ろした金棒を上げる暇を与えずに咲耶が先程の動きとは別人の様な速さで金棒を握る妖魔の手首を斬りつけた。
大きな音と共に握ったままの手首がついた金棒が地面へと落ちる。
しかし、妖魔はそれでも怯むことなく、鼓膜が破れそうな程の咆哮を上げると、金棒を逆の手で拾い上げぶうんと振り上げた。
しゅんっ
空気を斬り裂く様な音がした瞬間、妖魔の体を下から斜め上にきらりと光りが走る。
「見事な連携や……茨木の服ぅ斬っただけのことはあんなぁ」
顎を擦りながら感心したように呟く酒呑。それに頷く熊童子達。阿だけがきょとんとしている。
耳を塞ぎたくなる様な大きな叫び声と共に、その大きな身体を真っ二つに斬られた妖魔が闇の中へと霧散し消えていく。そして、霧散した後に現れたのは、魂玉を拾う鴉丸と
「作戦成功ですっ!!」
咲耶も
「竹子達と同じやなぁ。血は争えんか」
喜び合う二人を見ている酒呑はにやりと笑い瓢箪を口につけた。ぐびりと喉がなる。
「おい!! 喜ぶんは早いやろ!! まだ一体目やぞ!! 気ぃ抜くなや、ボケッ!!」
大声で声を掛ける酒呑。しかし、言葉とは裏腹にその声色は明るかった。そんな酒呑を見て熊童子と金熊童子の二人がくすりと笑う。
「牛頭がおるなら馬頭もおったりしてな」
鴉丸が冗談を言うような口調で佳代達二人にそう言うと、へへへっと鼻を擦った。
「この阿呆娘!! フラグ立てんなやっ!!」
ぶんぶんと腕を振り上げながら酒呑が怒鳴っている。そんな酒呑を不思議そうに見ている鴉丸。
「……フラグってなんやの、咲耶?」
「フラグって言うのはね……」
咲耶が鴉丸へ『フラグ』の説明をしようとした時である。
鼻をつく腐臭と共にゆらゆらと空間の歪みが三つ、佳代達を囲む様に現れた。いきなりフラグ回収イベント突入の予感である。
「佳代様達、早く……」
金熊童子がそう声を掛けようとしたのを酒呑が止めた。そして、金熊童子へと首を振る。
「手出し口出し無用やで」
「……」
佳代達を囲む歪みが徐々にその形がはっきりとしたものになっていく。どれもが先程の牛頭の様に大きな身体をしている様だ。
「……!! あかん、二人共早く斬らな!!」
鴉丸が佳代達へそう叫んだと同時に二人は抜刀し、陽炎の様に揺らめく妖魔へと斬りかかったのである。
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