第四章 妖魔討伐合戦

第19話 笑顔の裏側

「この分かれた二組でそれぞれ妖魔を退治してもらいます」


 鈴鹿御前の突然の申し出に静かに耳を傾けていた皆がざわついた。阿吽達も聞いていなかったようである。


「鈴鹿御前……それはどう言う……」


「どう言うもこう言うも、私がそう決めたのです。それが何か?」


 戸惑いを隠せない阿が鈴鹿御前へと尋ねるが、にこりと微笑む鈴鹿御前は有無を言わせない口調で答える。


 その口調に黙り込む阿。


「妖魔を退治する事は分かりました。それで、その妖魔とは?」


「ここから少し行った所にある敷地に十体の妖魔がいます。その妖魔を退治してもらおうかと」


 にこやかな表情を崩さず淡々と話し続ける鈴鹿御前。最早、座卓を囲む八人は黙って話しを聞くだけである。


「ルールは簡単。より多くの妖魔を退治した組が勝ちです。それと、酒呑一派と玉藻一派はもしもの為の用心棒代わり。それ以外の手出しをしないように予め話しております。


 まぁ、無いとは思いますが……その討伐途中で四家の誰かが命を落としたとしても、それはそれでその方の運命だと思って諦めて下さいね」


 笑顔を崩さない鈴鹿御前の目がぎらりと光ったのを佳代は見逃さなかった。ぞくりと背中に走る寒気。改めて、この可愛らしい童女姿の鈴鹿御前の恐ろしさを感じた。







 鈴鹿御前に案内されたのは、朽ち果てた家屋が無数に点在し、そこら中が伸びきった雑草に埋めつくされ、明らかに廃村となりかなりの年月がたった場所である。


 妖魔どころか、幽霊や物の怪が出そうな雰囲気であった。


 しかし、佳代と咲耶はこの場の空気感をつい最近体験していた。そう、茨木の家の中にあった荒野である。


「そや、茨木んとこの部屋と同じもんや」


 二人の心の中を読んだかの様に話しかけて来る酒呑。


「ここは鈴鹿御前の作った世界や。でもな、妖魔だけはほんもんやで。気ぃ抜いとったら、ぱくりと喰われておしまいや」


 そう言うと酒呑は腰に下げていた瓢箪に口をつけると中の液体をぐびぐびと呑み始めた。中身を聞かなくても辺り一面に広がる酒の臭いに、熊と金熊の姉妹が呆れ顔で酒呑を見ている。


 そして訳も分からずに組み分けされた鴉丸がぶるぶると震えながら佳代の腰へとしがみついている。


「お嬢には荷が重いとは思いますが、阿もついております故、東に負けないよう頑張りましょう」


 阿は鴉丸を励ます様にそう言うと、鉄の棍をぶうんと一振した。


「阿呆。勘違いしたらあかん。あくまでも妖魔をやるんは佳代と咲耶の二人や。お前らは手伝うだけや。うちらは見届け人ともしもの時の護衛やっちゅう事忘れたらあかん」


 酒を飲みながらも冷静に注意する酒呑に、ううむと唸る阿。そして、佳代達二人へと心配そうに視線を送る。


「やるしかなかとやけん、覚悟は決めちょるよ酒呑姉さん」


 真っ直ぐに酒呑を見つめそう言う佳代に、酒呑はにやりと笑う。


「流石、茨木の服を斬ったっちゅう事だけはあるなぁ。おい、阿よ。意外とこの二人、おもろい事してくれるかも知れへんで」


 佳代と咲耶はお互いに顔を見合わせると、こくりと頷きあい、鬼切安綱と菊一文字則宗を握りしめ、廃村の中へと入って行った。

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