第11話 女は度胸
開けた襖の向こう側は草一本生えていない荒野であった。茶色。一面がその色しかない。ごろりと転がる大小の岩。土煙を上げ吹き付ける風。
屋敷の中のはずであった。
佳代と咲耶の二人が呆然とした表情で目の前に広がるその光景に釘付けとなっている。そんな二人を心配そうに見つめるお花に、虎熊が大丈夫ですよと声をかけた。
「さぁ、行きましょう♡」
そう言うと立ち上がった茨木がはいている真っ赤なスカートが佳代達の目の前でひらりと舞い上がる。そして胸元の大きく開いた白いシャツを押し上げる二つの豊満な胸がゆさりと揺れた。
思わず佳代は自分の胸へと目をやる。そして人知れず揺するも、うんともすんともいわない。
一足先に部屋を出て荒野で待つ茨木が早くぅと甘い声を出して二人を手招く。その手にはいつの間にか大きな斧が握られている。
佳代と咲耶は互いに顔を見合わせ頷くと、鬼切安綱と菊一文字則宗をそれぞれ握り、部屋を出て荒野へと足を踏み入れた。
「そうそう、女は度胸ってね♡可愛がってあげるわよぉ、仔猫ちゃん達♡」
緩くパーマネントをかけた髪を風に靡かせると、華奢な細い腕でぶうんっと斧を振り上げた。そしてそれをぴたりと頭上で止めた茨木は、にやりと二人へ綺麗な顔に似合わない笑顔を浮かべている。
かちり……
佳代は鯉口を切ると深く膝を曲げ腰を落とし柄に手を添えた。そして大きく息を吸い込むとすうっと瞼を閉じる。
そして咲耶はすらりと菊一文字則宗を抜刀すると、左脚をぐっと前に踏み出し、刀身を我が顔の横にくるほどの高さに上げ水平に構えた。
「そう来なくちゃぁ♡名家の看板が泣いちゃうよぉ♡」
とんっと軽く地面を蹴ったかの様に見えた茨木の姿が消えたかと思った瞬間、二人の目の前へと現れ、轟音と共に斧を横へと薙ぎ払う。
とてつもないパワーである。その斧の起こした風圧だけで人間を吹き飛ばしそうな勢いであった。ぶわりと佳代たちの髪がその風で舞う。
しかし、驚く事にその斧をふわりと受け流し上へと跳ねあげた咲耶。そして、隙が出来た茨木の胴へと斬りこむ佳代。見事な抜刀術である。そして、初めて共闘するとは思えない程に二人の息があっていた。
しかし、手応えはなかった。
「やぁんっ♡」
なぜなら、佳代の鬼切安綱は空を斬っていた。その鋒に茨木が爪先で立ち、佳代と咲耶を見下ろしている。佳代の抜刀術が遅かった訳では無い。十二分に速かった。しかし、茨木の身体的能力がそれを凌駕していたのだ。
「うぅん、惜しいわぁ♡」
「くっ……」
くるりと宙に舞いふわりと地面へ降り立つ茨木を悔しそうな表情で見詰める佳代。その横で、ちっと舌打ちをした咲耶がまた構えた。
先程と同じ霞の構えである。
じわりと間合いを詰めていく咲耶に、ふんふんと鼻を口ずさむ楽しそうな様子の茨木は、くるりと斧を回すと柄を肩へ担ぐように乗せ、片方の手を腰に置いた。
見た目と裏腹に勇ましい姿である。
「まぁ、酒呑お姉様の一の子分である私に何処までやれるかしらねぇ……仔猫ちゃん♡」
「その仔猫ちゃんに手ば引っ掻かれんごつせにゃいかんですよ、お姉様♡」
にやりと笑い仔猫ちゃん呼ばわりする茨木に対し、佳代も負けずに言い返す。そして、咲耶もそんな佳代を見て頷いた。
「その意気よぉ♡」
「来ますわよ!!」
今度は咲耶から茨木へと詰め寄る。その咲耶の頭上へ斧を叩きつけるように振り落とすが、咲耶はひらりと避けるとその首めがけ鋭い突きを入れる。
突きを半身で避けた茨木へさらに横へ刀を走らせる咲耶。それさえも余裕で避けられてしまっている。それでも何度も突きを入れていく咲耶の太刀筋をまるで蝶が舞うようにするりするりと躱している。
しかし、避けられ続けている咲耶に全く焦りの色は見られない。それどころかにやりと笑った。
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