君💧
キザなRye
全編
君はいつも走っている。
走ること以外にやることがないかのように私
が見るときは大抵走っている。
私はそんな君が好きだ。
君の走っている姿がかっこいいということではない。
君自身に私は惚れているのだ。
一度君に
「どうしてそんなに走っているの?」
と聞いたことがあった。
君はあの時ニコッと笑って
「まだ教えられないよ。」
と焦らしてきた。
“まだ”と言われた私はもっと仲良くなったら教えてくれるのかなとか時期が来たら教えてくれるのかなとか教えてくれることが前提で期待感が膨らんでいた。
君には君なりの考えがあるんだよねと自分に言い聞かせながら自分に対して一種の暗示をかけていたのだと思う。
君について私が知っていることは他の男子たちから呼ばれているあだ名と部活くらいであとは知らないと思う。
あくまでも私は君を遠いところから眺めることしかできないモブキャラでしかない。
君に話しかけに行きたくても私は人に話しかけること自体があまり得意ではなくてなおかつ男子だらけのところに女子一人で突っ込むみたいな陽キャ的なことはできないし、基本的には走っている君のペースに付いていって話をしながら走るなんてことは到底無理で眺めているだけで手一杯だ。
君は私の気持ちなんて知らない。
私がどれだけ、どのように悩んでいるか知らない。
毎日のように今日一日を振り返っては今度こそは、と思って自分を鼓舞するまでは良いが結局できなくて同じループの繰り返しにいるのだ、君は私になんか興味がないのかもしれないけれども。
こんな日々を相談したくても親身に寄り添ってくれる人なんていない、君は一目置かれているから。
君に好意があることがバレてはいけない。
そのあとに何が待っているのか私には予想ができないから。
こうやって一日が過ぎ、また一日が過ぎた。気付いた頃には季節も変わっている。
そろそろちゃんと行動を起こさなきゃなと君を目で追って考えていたら近くにいた人たちにその様子を見られた。
しかも私が少し頬を紅くしていることすらも、だ。
「ねえ、里子ちゃん、隆司くんのこと目で追って紅くなってたでしょ。
好きなんでしょ。」
何もかもお見通しのようである。
その言葉を聞いた私の心情は到底想像がつかないだろう。
強いて挙げるなら
「目が泳いでる、やっぱりそうなんだね。」
心と身体が追い付いてなくてついつい心情が表れてしまっていたのだろう。
もう既に取り返しのつかない状況に陥ってしまったなと気を落としていると
「私たちは応援しているよ!」
と思いもよらぬ言葉が彼女たちから飛び出してきた。
驚きとかそんな簡単な言葉では言い表せなかった。
「あ、ありがとう」
どうにかこうにかお礼を言わなければ、と言葉を絞り出したがぎこちなさは残ってしまった。
彼女たちはそんな私の様子を見てクスッと笑った。
私も何だかおかしくなって笑った。
彼女たちに私のここまでの思いを打ち明けてみたところ、一緒に今後どうしていったら良いのかを考えてくれた。
私よりも恋愛経験豊富な彼女たちに支えられていたら何でもできる気すらしてきた。
今まで独りで一生懸命考えていたことが馬鹿だったんじゃないかと思えるくらい活発な議論ができて私は君に対しての恋に真剣に向き合えたと思う。
数日して機が熟した。
私はようやく君に、いつも走っている君に、走る理由を教えてくれない君に好意を伝えられるのだ。
機会を得られていなかったけれどいつかはどうしても伝えたかった。
恋愛を、片想いを楽しみたかった。
その気持ちの頂点に私はある。
その終止符は伝えることにあると思う。
だから私は気持ちを伝えるのだ。
でも
朝のチャイムが鳴っても君は来なかった。
給食の時間になっても君は来なかった。
すべての授業が終わっても君は来なかった。
君は来なかった。
私が気持ちを伝えたい君は来なかった。
帰りになって先生から君に関して言葉があった。
「隆司くんは今日から別の学校に通っています。
ここから遠いところに引っ越しました。
本当はさよならの挨拶をしたかったそうなのだけどお父さんのお仕事の関係で残念ながら挨拶なしで引っ越してしまいました。」
私の耳にはその言葉は聞こえない。
聞きたくない。
信じられない。
昨日まで普通にいたのに急にいなくなるなんてあり得ない。
考えられない。
考えたくない。
私の目は温かくなっている。
君がいないからではない。
絶対に君がいないからではない。
私の周りに人が沢山いる気がする、でも私には見えない。
もうこの世界の何もが見えなくてもいい。
だって君がいないのだから。
君💧 キザなRye @yosukew1616
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます