第2話
同日午前9時。
「おはようございまーす」
【ギルティー】の裏口の店員出入口に白いフリフリのドレスを着た、少女が入ってきた。
少女は、お菓子屋の家の住宅部分を歩き、キャンディの仕事部屋へ向かう。
「おはようございます。アリスが来ましたよ。」
少女アリスは、満面の笑みで仕事部屋のドアを開ける。
その部屋には、誰もいない。
「あれ?キャンディ様~どこですか~。」
アリスは、家の中を探すがキャンディは居ない。
「かくれんぼですか~。飴とクッキーはありますが、そろそろ注文のケーキを作りましょ~。」
アリスが声をかけるが、家から物音一つしない。
おかしい。
キャンディ様がこんな朝から出かけることは、ありえません。今日の注文のケーキは、一つも出来ていませんね。
保冷庫を見るが、材料しか入ってない。
あっ!アーモンドチョコレート発見。
アリスは、アーモンドチョコレートを一つぱくりと食べながら考える。
店の外には、お客様が並び始めている。
どこに行ったのでしょう?
「おはようございます」
店員入口から渋い男性の声が聞こえた。
アリスは急いで入口に向かう。
「おはようございます。ベルさん、キャンディ様知りませんか?」
「キャンディ様ですか?部屋に居ないのですか?」
銀髪の大柄の男性が答える。ベルドルド、【ギルティー】の会計担当だ。
「居ませんね。もうすぐ開店なのにどうしましょう」
二人で開店の準備をしながら考える。キャンディにかかればケーキは1分もあれば完成するが、肝心のキャンディがいないのだ。
店の棚にクッキーと飴玉、保冷庫にあったチョコレートを並べていると、時刻は午前10時。開店の時間になってしまった。
「すみません。キャンディ様、来てませんか。」
アリスは、店の鍵を開けて外の列に声をかける。
「いや。キャンディさんはいないよ。」
最前列に並んでいた主婦が答える。
「そうですか。実はキャンディ様が朝から居ないのです。」
アリスが説明しようとすると街全体にビービーと警告音がなる。
国に戦争などの一大事がある時使われる、映像照射魔法が城から空中に写された。王様が神妙な顔つきで玉座に座っている映像だ。
「これは訓練ではない。ただいまお菓子屋【ギルティー】の店主キャンディ・スイーツは国家侵略加担容疑によって防衛長官ナリアン・オワリンヌにより、罪人として投獄された。お菓子の家に今から防衛長官ナリアン・オワリンヌが調査に向かう。決して邪魔だけはしないでくれ、防衛長官に危害を加えないでくれ。これは訓練ではない、事実だ。【ギルティー】店主キャンディ・スイーツからのお願いだ。ちなみに調査の結果問題なければ国民全員にスペシャルメニューを防衛長官より、ご馳走してくれるから、心配はいらん。黙って調査をさせるよう、私からもお願いする。以上だ。」
王様は話終えた。
街はざわざわと騒がしくなっている。
映像には王様が呆れた様な表情で写っている。
あれ?まだ切れてないのかな。
「全くマシュマロン女王国だか知らないけど、よりにもよって【ギルティー】を知らないなんて世間知らずも良いところだな。ナリアンもお菓子屋の城なんて作って、キャンディ君じゃなきゃ無理なのわかんないかな。しかも腹いせに罪人にするなんてね。そう思わない。」
「そうですね。」
王様は、玉座から立ち上がり話している。
「ちなみに君は、スペシャルメニューあるかい?」
「いえ、【ギルティー】のスペシャルメニューは、限られた人だけが注文できるスイーツなので、私はまだダメでした。」
「はっはっは、そうか。王国一の魔法使いの君でもダメだったか。私も苦労したよ。彼のなかじゃキャラメル好きなおじさん位だと思うよ。」
「そうですか。ついにスペシャルメニューが食べれるのですね。楽しみです。」
「今から材料の注文をしないとね。キャンディ君に材料を聞いてくるよ。後はよろしく」
王様は画面から消えて行った。
「スペシャルメニューか楽しみだな。あっやべ、消し忘れてた。」
王国一の魔法使いの声と共に空中の映像が消えた。
空を見上げていたアリスとベルドルドは、お互いをみる。
「「どういうこと?」」
「ちょっと!キャンディさんが罪人ってなに!」
並んでいた主婦軍団がドシドシ詰めてくる。
「防衛長官だ?誰に喧嘩売ってんのか分かってんのか?」
強面の男性達が殺気立っている。裏社会の住人だ。表立って買えない人に高額で売り付けているらしい。そして店にその売上金を納める優しい人たちだ。
「マシュマロン女王国に物送ってやれ。女王に食わせろ。」
と通信魔法で指示を出す人達が列から離れていく。他国からの仕入れの商人達だ。
「キャンディ殿が罪人か。これを助け我が国に連れて行けば将来安泰だ!」
とエルフの集団が話している。人里に来ないエルフだがキャンディがエルフの国でスイーツを作ってしまったため、【ギルティー】の魅力に虜にされ、王都にくるようになったのだ。世界樹の草餅が大好きだ。
「処刑されればパティシエゾンビとして転生し、我が魔族の仲間入りだ。将来の目的が叶うぞ!」
と角の生えた魔族の集団が話している。魔王が人間界一のスイーツと有名な、キャンディのケーキを食べてしまったため、人間を滅ぼすと言う目的を綺麗さっぱり忘れ、キャンディを仲間にするのを、全魔族の目的にしてしまったのだ。
それよりパティシエゾンビって何?
「こんな基礎もねぇのに強固な家の秘密が消えちまうたぁ許されねぇ。おめぇら城に行くぞ!」
とドワーフの集団がドスドスと城に歩いていく。「甘いのは酒に合わねぇ」と文句を言っていたドワーフ達に、キャンディが怒って食べさせた、かりんとう(激辛調味料入り)にはまり、仲良くなったドワーフ達だ。
お菓子の家は、キャンディの理想を材料と魔力で無理やり固めているため、技術なんてない。
他にも多くの人たちに事情を聞かれるが、アリスとベルドルドはなにも分からない。
話をしていると、一人小太りの男がやってきた。
「私はこの王国の防衛長官ナリアン・オワリンヌ伯爵である!お菓子屋【ギルティー】の調査を開始する。」
防衛長官は話はじめる。
「あの~、一人でやるのですか?」
アリスは聞いてみる。
「そうだ。騎士団長に言ったら「【ギルティー】の調査?無理だ、出せない」と断られたんだ。まったく国の一大事に騎士団長が逃げるとは。」
防衛長官は、怒っているが、話を聞いている周りの人は全員理解している。ギルティーに喧嘩を売ったら世界に喧嘩を売るのと同じなのだ。
「好きなだけ調査してください。ちなみにスペシャルメニュー、ホールケーキで12万エルします。6等分のひときれが一人前でも20000エルです。」
ベルドルドの調査が問題なかったら、これだけ払うと伝える。
一般市民の一食が500エルで定食が食べれる。王都民は、5万人以上いるので大変だ。
防衛長官は、店に入って行った。
アリスとベルドルドは、店じまいする。行列にも説明して、解散してもらった。
「私一人でやる。キサマらは、どっかに行っていろ。」
と防衛長官が商品棚をずらしながら、汗をボタボタ流して言う。
「商品は全部買い取りですからね。」
とベルドルドが言い、二人は店をでる。店には商品や材料が残ったままだ。
二人は帰宅した。
「なんだこの店ーーー!」
お菓子の家から絶叫が何度も聞こえていた。
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