EP30 閣議
任命式の直後、初めての閣議が招集された。首相、官房長官、国防大臣に加えて内務大臣も七つの丘の構成員になっている。一方で外相と財相は無関係の政治家である。だがそれは問題にはならない。罷免権は首相にあり、ここでは実体としても建前としても誰が上位者かは明らかなのだ。
「まず喫緊の課題は秩序の再編だ。カーラ内相、警察隊の募集はどうなっている?」
「イタリア半島での編成はほぼ完了している。アエギュプトゥスでも数週間で充足する見通しだ。問題はヌミディアとマウレタニアだな」
「最悪アフリカは見捨てる。アエギュプトゥス以外はゲルマン人にくれてやる手もある」
チュニスやカサブランカなどの都市を失うのは痛いが、半島の安全には変えられない。優先順位が下がるのは仕方がないだろう。
「次、アレクシウス国防相。帝国軍の編成はどうですか?」
「だめだな。男が足りないうえに警察よりも労働条件が明らかに悪い。
正規軍の編成はうまくいっていないようだが、ひとまず問題はないと判断した。最悪の場合は皇帝近衛隊を動かせば事足りるだろう。
「1師団とりあえず創設できればそれで我慢するしかないでしょう。失業者自体はいるはずだから時間が解決してくれると思います」
「次、ライウス外相。まずは教会の動きについて」
「敗戦のショックを隠しきれていませんね。首相が前におっしゃっていた大使館の交換は当分厳しいものと思われます」
脳内でカールの情報と照合し、大きな間違いがないことを確認して続けて聞く。
「ゲルマン人はどうだ?」
「こちらに関してはイベリアでバルセロナ公爵が代替わりしたようで、イベリア王ともめているようです。ゲルマニア王やガリア王も干渉しているようで、当分は動きがないものと思われます」
こちらもカールから入った情報と齟齬はない。
「ムスリムについては何かわかったことは?」
「申し訳ありません。人手が足りず、コンタクトすら取れていないのが現状です」
カールからはいくらかの情報をもらっていたが、外相の怠慢を責めることはできない。何よりも人員のリソース不足を責められるべき閣僚はすでにいる。
さっきから場違いすぎる空気にもまるで動じず、椅子で足を組んでいる女。
「……次、ソフィア官房長官。貴女に任せた仕事の首尾はいかがかな?」
「私の仕事多すぎでは???」
どうして閣議での第一声がそれなのか。ルキウスは推薦したテオドシウスの嫌がらせの可能性を考えたものの、その仕事ぶりを見て納得した。若い女でありながらどの閣僚、官僚よりも優れた成果を出しているのは、この不遜な態度を見ても認めざるを得ない。
「いや、通常の量だ。官房長官なのだからな。さあ報告してくれ」
「……とりあえず第一回国家公務員試験の準備は整いました。各省に引き抜ける旧元老院事務官の選定もあらかた終わっています。あと1か月もあれば内務省と財務省は充足するものと思われます。ただ外務省はギリシャ語はともかくゲルマン諸語を話せる者の確保に難航している現状です」
「ふむ。それから?」
「それから人事院と選挙管理委員会については人員は充足しており、後は首相が長官を指名していただければ業務を開始できると思います」
「それから?」
ルキウスはもう一度繰り返した。
「新しい省庁についてはそれほど準備が整っているとは言えませんね。法務省と国土開発省、文部科学省については次の公務員試験でどうにか人員を満たせそうですが、半島をカバーするので精いっぱいだと思われます」
「国勢調査は?」
「難しいですね。特に奴隷の増減が激しくローマ市内の統計ですら1年以上かかる見通しです」
「結構だ」
どう考えても人口調査は内務大臣の仕事だったが官房長官に振っておいた。党内人事の件もあり、行政整理は大変だったが彼女のおかげでかなり楽になっている。だが彼女には任せられない仕事もある。
改革と並行して進むもの。そう、粛清だ。
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