東上サキの棄権
サキが死んだ。
私とサキが遊びにいった、ほんの一週間後のこと。もともと心臓が弱かったらしい彼女は、突然の発作を起こし―――そのままあっけなく亡くなった。
お葬式には沢山の人が来ていた。親族、友人、陸上関係者。サキの高校の制服を着た女の子もそこそこ居て、私の知らないところでちゃんと友達を作ってたんだな、と思った。
焼香の順番が回ってきた。彼女が死んだ実感は全くない。何を思うでもなく、機械的に焼香の手順を追う。
葬式は淡々と進む。サキの両親は意外なことに泣いてなくて、雰囲気が暗くなりすぎなくて良いな、と思った。
「……サキはもともと、長くは生きられないと言われていました」
サキのお父さんが、居並ぶ参列者に向けて何か話している。
「本人は、せめて何か自分が生きた証を遺したいと、必死にマラソンに取り組んでいました。その甲斐あって、すごい記録をいくつも遺しました」
そうか。彼女に勝てなかったのは、才能もそうだけど、その覚悟の差だったのかな―――と、ぼんやり思う。
「太く短く生きて、彼女も幸せだったろうと思います。本日はご参列いただき、ありがとうございます……」
彼女の棺に花を詰める。死体になったサキの顔はまるで別人で、余計にサキの死の実感は遠のいていった。
ふと、この棺をひっくり返したい衝動に駆られる。
なぜ死んだのだ。これでは、これでは、―――サキに勝つ機会が、永遠に失われてしまったではないか。
拳を強く握る。感情を抑える。最後まで、きちんと彼女の友人をやらなければ。
彼女には似合わない真っ白な菊の花を、機械のような手つきで彼女の首元に置いた。
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